第19話 目的地到着のアンドロイド

 正面に二階建ての建物。ここが本部のようだ。本部の正面に74式戦車が二両鎮座している。

「あれ、74式だよね。まだ現役なんだ」

 俺の質問に牧野士長が返事をしてくれる。

「はいそうです。山大周辺の機器停止騒ぎの後、サイバー汚染対策としてこの車両を配置しています。旧式ゆえにこんな場所で活躍できるのかなと思います」

 なるほど。ややこしい電子装備を持たない旧式だからこそ活躍できるのか。

「正蔵にいちゃん知ってる?これ空冷2サイクルディーゼルなんだぜ。しかもツインターボなんだぜ」

 目をキラキラさせながら睦月が車体にくっついている。

 噂に聞く2サイクルディーゼルか。確か後継の90式も2サイクルだった気がする。ガソリンエンジンの2サイクルは理解できるのだが、ディーゼルで2サイクルなんてどういう理屈なんだろうかと疑問に思っていた。

「バイク用のクロスフロー掃気じゃなくてユニフロー掃気なんだぜ。シリンダーヘッドにはちゃんと排気バルブがついてるんだぜ」

 自慢げにうんちくを語る睦月である。しかし、俺には理解不能だった。綾瀬重工の後継は睦月に決定して間違いがなさそうだ。

 山側右奥には隊員の宿舎や食堂、車庫、倉庫などがあるらしい。

 左側の少し小高く盛り土してある方に例のイージス・アショアがある。施設の周囲には高いフェンスが張られ2重の防御になっているようだ。

 海側の外れに高くなっている建物。4~5階建てのビルくらいだろうか。あそこにアクティブ・フェーズドアレイ・アンテナがあるんだろう。イージスの眼、SPY-6レーダーだ。そこにつながっているデッキハウス。山側には8本の発射筒をまとめてあるという垂直発射機Mk-41VLSモジュールが数基配置してあるのが見えた。

 第2のゲートが見えてきたのだが、そこには人だかりができていた。


 第2のゲート手前には自衛隊関係者、地元の人、マスコミ関係者らしき人、そんな人たちが金網を握りガチャガチャと音を立てている。ゆったりとした動きで呻き声をあげている。まるでゾンビ映画を見ているようだ。

 牧野士長が小銃を構える。

「牧野撃つなよ。奴らは支配されているだけじゃからな」

 ララの言葉に牧野士長は頷く。

「どうしますか?このままじゃ中へ入れません」

「全員ぶっ飛ばす!!」

 拳を握り締め今にも殴りかかろうとする夏美さんを俺は呼び止めた。

「夏美さんちょっと待って」

「なんだ。正蔵君」

「この人たち、中に入れないんですよね。だったら俺たちが中に入ればこの人たちは放置しても構いませんよね」

「そうだな。じゃあフェンスに穴開けるかぁ!」

「穴開けちゃ意味ないですよ」

「こうするんだろ」

 ララが牧野士長の襟首をひっつかまえて軽く助走しジャンプする。5mはあろうかというフェンスを一気に飛び越える。

「うわぁ!ああああ!」

 牧野士長は絶叫あげていた。椿さんが俺と五月を抱えてジャンプする。今度は俺と五月が絶叫を上げる。軍曹がゼリアを抱え、夏美さんが睦月と涼を抱え、翠さんはお弁当のバスケットを抱えて、それぞれジャンプした。少しの助走でフェンスから7~8m離れた場所から5m位のフェンスを越えてジャンプする皆の能力はどんだけすごいのだろうか。牧野士長は驚愕のあまり目を白黒させている。

「はははは。飛び越えちゃったよ。マジかよ」

 腰の抜けた牧野士長がヘラヘラ笑っている。


 俺たちはデッキハウスの正面入り口の前に立っていた。透明なガラス製の扉がある。横には警備員が常駐しているであろう小部屋が見えるのだが誰もいない。

「さて牧野君入ろうか。中にはさっきみたいなのがゴロゴロいるんだろ?」

 夏美さんが両手を握り締めゴキゴキと骨を鳴らす。アンドロイドにそういう機能は不要かと思うのだが、夏美さんはお気に入りなようでしょっちゅう鳴らしている。「俺、このデッキに入る権限が無いんですよ。自分じゃ入れません」

 首を振りながら牧野士長が返事をする。

「そうだと思って良いモノ借りてきました。ゲスト用の解除キーです。政府高官や幹部自衛官しか使えないお宝グッズです。うふふ」

 翠さんがカードを取り出し、電子ロックのついた透明な扉の前に行く。

 器機にカードを差し込んで暗証番号を打ち込む。ロック解除…………しなかった。

「あーれーぇ。セキュリティコード変わってるじゃないですか。困ったちゃんですね」

「うぉりゃあ!!」

 夏美さんがガラス製のドアにサイドキックをかます。

 全面にヒビが入るものの砕けない。

「防弾ガラスかよ。じゃあこれだ。うりゃあ!」

 今度は正拳突きで見事に穴をあけた。そしてドアを枠ごと引きはがした。

「ふん。手間かけさせんなよな」

「夏美姉様。器物損壊で逮捕されますよ。60秒待っていただければ解除しましたのに。せっかちなんですから。全く」

「おおっと。スマンな。あはははは!」

 全く、夏美さんのAIはどうなっているのだろうか。これも魂を持つという特殊性かもしれない。

 ウォーンウォーンと警報が鳴り始めた。続けて音声案内が始まる。

『正面入り口より侵入者です。警備員は現場へ急行してください。繰り返します。正面入り口より侵入者です。警備員は現場へ急行してください』

「悪りい。ハチの巣つついちゃったみたいだな。あははは」

「夏美姉様。気を付けてくださいよもう。警報解除しますから。10秒下さい」

 翠さんがお弁当の入ったバスケットを夏美さんに持たせ携帯端末を取り出す。壁のコントロールパネルとケーブルで接続し何やら操作すると本当に10秒で静かになった。

「さあ警備室へ行きましょうか」

 内側にあった扉も翠さんが解放する。

 屋内に入り廊下を右に曲がって警備室らしき部屋の前へ行く。

 翠さんがコントロールパネルを操作しロックを解除する。

 中から自衛官が出てきて翠さんに抱きついた。目はうつろで口はだらしなく開いており涎を流していた。「うーうー」と言葉にならない呻き声をあげている。

「やだ、キモイ」

 その自衛官は翠さんに突き飛ばされ数メートル吹っ飛ばされる。

 もう一人いた自衛官も同様にゾンビもどきになっていた。こちらにノロノロと向かって来たところを夏美さんに蹴り飛ばされる。数メートル吹っ飛ばされて動かなくなった。

「大丈夫かな?死んでない?」

「心拍は正常、肉体の損傷もありません。絶妙の力加減ですね。夏美さんに翠さん」

 俺の質問に椿さんが返事をしてくれた。

 翠さんは自分の携帯端末をPCに接続し何やら操作をしている。

「これで良し。パッ君行くよ!えい!!」

 壁やデスクのモニターに例の黄色いキャラが登場し、パクパクしながら動き始める。デスクのモニターはPCだが、壁のモニターは監視カメラの映像ではないだろうか。

「PCのモニターはともかく、何で監視カメラのモニターにもパッ君がいるのさ」

「ご愛敬です。パッ君が元気なら問題ない証拠です」

 理屈がよく分からない。まあ、IT音痴でPCの操作も良く分かってない俺には無理な話かもしれない。

「さて、これで施設のセキュリティは掌握しましたね。CIC(戦闘指揮所)の方へ行きましょうか。ああ牧野さん。ここに残って監視お願いします」

「了解しました」

 敬礼して返事をする牧野士長である。

「ところで俺は何をしたらいいんでしょうか?」

「この部屋には誰も入れない。こもっていて下されば結構です。何かあればその携帯をいじってくだされば私につながります」

「どういじるんですか?何かアプリを起動するんですか?」

「スリープから復帰していただければ結構です。その携帯は私に常時接続されています」

「了解」

 敬礼した牧野士長を残し警備室から出る。一旦、入り口まで戻りそこから奥へと入っていく。誰にも会わず1FのCICまでたどり着くことができた。

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