第59話ブリッシュ王国の陰謀

まさか昨日出された料理って――兎獣人の子供の肉?


タマちゃんは、意味が分っておらず呆気に取られていたが、意味が通じた他、全員は一斉に吐いた。


そりゃ、そうでしょうよ!


獣の兎だと思ったら兎獣人だよ!


あれ、合っているのか?……兎、獣、ここまでは良い。この後に゛人 ゛が付かなければね!


「オベンリー大使、まさか昨晩の肉は兎獣人の、肉なのでしょうか?」


取り敢えず、確認はしないとね。


勘違いって事もあるしさ。


「左様で御座います。兎獣人の肉は美味しいですからね!」


駄目だ。こりゃ、狂っていやがる。


もうね、こんなの我慢を出来るわけ無いよね! 

流石に俺も切れた。


「俺達の仲間に、獣人が居るのを知っていて出した訳だよね、どういうつもりで出したんです、アルステッド国は獣人を、人と認めている国ですよ。それを……」


よくも、そんな物を食わせたな!


と俺が怒りを露にしても、オベンリーはこの国では、これが当り前だと言いはり開き直りやがった。


しかも、当国へお迎えする外国の使節団、大臣等へあの食事を出すのは通例であるそうだ。


もう帰るか、と思った時に、先程の兎の親子が視界に入ったが――丁度、弓で射られて倒れた所だった。女の子は無事だが母親は、既に息絶えている様に見えた。


オベンリーが何か言っているが、構わずに兎獣人の親子に駆け寄り、回復魔法を使ってみる。やはり既に息絶えた者は回復魔法では生き返らない。俺が母親を抱きかかえ、泣きじゃくる兎獣人の子供を、ポチが抱きかかえて、俺達は王城の客間へと戻った。


やり切れない思いが、声に出る。


「あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!なんで。なんで、なんでこんな……」


皆、一様に沈んだ表情を浮かべている。


「コータよ、死んだ人間では厳しいかも知れんが、イメージを最大限に絞ってみろ」

「何、言っているんだよ。死んだ人間が生き返る訳ねぇーだろ!ゲーム内では、復活の魔法とかあったけどさ……ここはリアルなんだろ!」


兎に角、クロはやって見ろと言う。


俺は昨日、街で見た母親を思い浮かべ必死にイメージする。

死ぬな!生きろ!


生きろ!


何度も、何度も。


わずかばかりの時間だったけど、俺は、動いているこの母親を知っている。


起きろ!


起きて!


娘の為にも、起きて!


自分の母親がこの人だったら、そう思いながら、何度も起きあがるイメージを作る。


甲斐あってか?


周囲にまぶしい光が輝き、母親は意識を取り戻した。


流石に魔素を、ごっそり持っていかれた様で、俺の顔色も悪い。


「出来たではないか!これなら……」


クロが、何か言っているが、俺が意識を保つのは限界だった。


俺が目を覚ますと、皆がホッとした顔をして、今の状況を教えてくれた。


どうやら軟禁されていた様で、扉の前には兵士が立っていた。


何故と皆に聞いたら、国の奴隷を勝手に持ち出した罪らしい。


俺は、助けたつもりだったのだが、それを誘拐ならまだしも窃盗扱いとは――。


解せん。


最初に、人の肉を黙って食わせたのは、こいつらなのに……。

何を言っているんでしょうね。


だが、メテオラによれば、この国の法では兎獣人は物である以上、何を言っても無駄なんだと!


俺は、釈然としないまでも今後を考える。


俺の勝手で、戦争なんて事態になったら、それこそ救われない。


しかし、何でこの国は、そうまでして獣人を蔑むんだ?


ベッドには、俺が命を助けた、兎獣人の母親が寝ており、その傍には小さな子供がついている。

親を、一気に亡くした俺としては、その子の様子が暗いものでは無かった事だけでも、助けて良かったと胸を撫で下ろす。


だって母親スイカップなんだよ?


助けない訳にはいかねぇじゃん!


初スイカップだよ!


大事な事なので、2度言いました。


その時、扉がノックされ大使が入室してきた。


当然、護衛の兵士付きだ。


「その親兎、助かった様ですな。てっきり、もう死んだかと思ったのですが」

「何の用でしょう?」

「何の用ですと、コータ・ミヤギ殿は自分の仕出かした事を、理解されていらっしゃらない様ですね」

「私は、自分の信念に基づいて、救うべき命を救ったまで」

「それはブリッシュ王国が所有する奴隷です。貴殿がした事は、ブリッシュ王国では窃盗罪にあたります」

「それで?」

「そうですな、ブリッシュ王国の法に照らし合わせれば禁固刑、もしくは罰金刑といった所でしょうか?」


へー、意外と普通の罰則だな。


と思ったら禁固100年、罰金でも金貨1万枚だと!


ふざけんな!



「流石に、コータ・ミヤギ殿も、禁固100年はお嫌でしょうから――金貨1万枚の方をお勧めしますよ?」


辺境伯すら付けないとか、こいつら最初からそれが目当てで。でも俺が兎獣人に同情しなければ、こんな問題にはならなかったのか。俺が側近に獣人を傍に置いているから、半ば確信を持って仕組んだ。そう考えるのが妥当か。しかしどうしよう……。


お支払いして頂けないようでしたら、そちらにいる獣人3人と娘さんたちの奴隷落ちと言う事になりますが……。


はぁ?


こいつの脳みそ、沸いているのか!


アルテッザとメテオラを、奴隷落ち?


いっそ、国ごと潰しちゃっていいですか――。


そう思っていたら、扉から国王が入ってきた。


何しに来やがった!


「いやぁ、コータ殿は中々に博愛主義者な様だ。だがその思いが、自らの周りを苦しめる事もあるのだぞ。今回の件を不問にする良い手があるのだがね?」


どうする。と王は言った。


今の所、確かにいい手は無かったんで、一応聞くだけ聞いてみる事にしたのだが、その話は――。


「いやぁ何、我が国に来てどう思った、活気が無い。寂れている。枯れている。そんな印象であろう。この国は、この10年あまり――ずっと獣人たちの抵抗も激しくなり、こちらの被害も最近特に大きい。それでじゃ、コータ殿に現在の、ブレビ王国の国王を殺してきて欲しいのだ」


はぁ?


何を言っちゃっているの、こいつ!


「今回、兎獣人を助けた俺が、そんな事をするとでも?」

「コータ殿ならするだろう。伝え聞く所によれば家族思いらしいではないか?」


家族を苦しめたくは、無かろう。


そう言って、ヘンリー国王は嫌らしく笑った。


少し時間を与えよう。よく考える様にだとさ!


一体、何をどう考えろというんでしょうねぇ?


もうこんな国……無い方が余の為、人の為、獣人の為には、良いんじゃないだろうか?


クロがブツブツそういう事かとか言っているし――。


どうしたんだ、こいつも!


まったく。どうするのか何て、俺が教えて欲しいですよ!


兎獣人の親子を助ける為に、獣人の国王を殺すとか。

もうね、どっちも嫌に決っているでしょうに!


「これは、困ってしまいましたわね」

「どうしたら良いんでしょう?コータさん」

「さっさと逃げ出した方がいいだに!」

「こんな国滅ぼしてしまいましょう!」

「??」


タマちゃんは知らなくても、良い事だからね!


逃げるか。


それも手だな。


ホロウさんは相変わらず過激ですね!


俺も、それ考えちゃったけどさ。


さて、どうしよう!

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