第43話予想しなかった展開
カロエの街に到着した俺達は、早速港へと向かう。
「よぉ!坊主が今回の主役だって?そんな細い体で大丈夫なのか?!」
そう漁師の厳ついおっさんが聞いてくる。
まぁ俺より、おっさんが戦った方が絵的にはいいんじゃないのか?
「よろしくお願いしますね」
「これでもコータ殿は、僕より強いからね。心配しなくてもいいよ。大船に乗ったつもりでね!この船は小船だけど」
糞美男子の王子……下手な駄洒落言っているんじゃねぇ!
「じゃ出航だ!」
「お願いします」
俺と、おっさんを乗せた船は岩場をすいすい縫いながら、一路沖を目指した。
このおじさん操船うまいな……よく船をぶつけないで通せるものだ。
俺が感心していると、
「坊主は船は始めてか?この先から時化るから、落ちないようにちゃんとしがみついていろよ!」
「初めてでは無いですよ、大丈夫です。ご心配なく」
そう言うと、さすが王子様が推薦するだけはある。
がはははと大笑いしながら舵を右に切り出した。
もうじき現場に着くらしい。
俺には笑う余裕無いけどね!女々しいって?大事な人を思うのが女々しいなら……以下省略。
波が高くなって来た所で、おっさんが錨を下ろした。
「じゃ、坊主すまねぇが先に戻っているぜ!死ぬなよ!」
「ああ、ありがとう!後ほどまた」
船長が船から小船に乗り換え、オクトパスが現れるのを待つが、中々現れない。
痺れをきらしていると、目の前に白い帆を付けた帆船の集団が目に飛び込んできた。
アルステッド国にはガレー船を売りつけて、自分達はより速度の出る帆船とは、やってくれる。
地球でも19世紀までガレー船だったようだけど……所詮人力。
次第に帆船へと移り変わった歴史がある。
え?勿論図鑑で見て覚えたんだよ!
【アルステッド国から依頼されたコータだな!大人しく引き返しアルステッド国から手を引け!】
なんだ、これ?魔法か?
大音響で帆船から声を飛ばしてくる。
へぇこんな魔法もあるんだね、おっと感心している場合じゃないな。
俺の名前を知っているって事は、アルテッザはこの船にいるのか?
少しすると帆船から、小さいワイバーンが騎士らしき人を乗せて飛んできた。
それを見てはっきり気づいた。
なるほどね。
途中まで街道を走っていた馬車から、これでアルテッザを連れ出したのか。
恐らく伝書鳩の様なものか?魔法?で船団に連絡したんだろ。
そもそもここに、これだけの船団が居るって事は、情報が逐一漏れていた。
当然か。
オルドバは頻繁に王城へ来ていたらしいからな。今日の討伐も、知らされていて本来なら、王子がオクトパスに殺されたのを確認して一気に上陸する手筈だったんだろう。
さて。
これだけ離れていたら、俺に打てる手はあれしかないが……。
あれを使うと、アルテッザも確実に巻き込むな。
もしかして、やばくない?これ?
そう思っていたら、帆船と俺のいる船の間辺りの海上が、盛り上がり始めた。
周辺の波が一際荒く波打つ。
白く丸い頭が出てきた、あっ、やっぱただの蛸なんだ。
形はそのまんま、地球の蛸そのものだが、でかい!そして……色が白い。
あれ?あ、いいのか……。
蛸って茹でるから赤くなるんであって、元々は白いんだった。
あれ食えるのかな?ちょっと場違いな事を考えていると、そのオクトパスの後ろからぞろぞろ。
その数7匹。
ちょ、聞いてないよ!
1匹だけだって言ったじゃん! あれ?確認出来ているのがだっけ?
もうね、形振り構わず止め様かな?でもアルテッザが。
そう思っていたら、また声が届けられた。
【そのオクトパスを討伐したら女は殺す!速やかに戻られよ!】
はぁ、どうしろというの!帰ったら、アルテッザを返すとは言ってないし、倒したら殺される?理不尽だろ!どっちに転んでも、いい事一つも無いって、どんな取引ですか?
それただの脅しじゃあ、脅しているのか。
俺は、何もしなかった……どっちに転んでも同じなら、何もしない方がいい。
撤退も討伐もしない!
そして、相対すること2時間。
目の前が騒がしくなってきた。
目を凝らして見ていると、魔法か何かで飼いならしていたオクトパスが帆船を襲いだした。
うえぇ、ちょ、俺の見ている前で船が、どんどんオクトパスに乗り上げられ、破壊され沈没していく。
船の甲板では、応戦している様子が肉眼では豆粒程度にだが見える。
これはまずい事になった?
アルテッザがもし今目を覚ましていても、縛られているかもしれない。そうすれば船と共に沈むのに何の抵抗も出来ない。目を覚ましていて、縄で縛られていなくとも、今の彼女の体力で泳げるとは思えない……そもそも泳げるのか?
目を覚ましてなければ、そのまんま海の藻屑に。
俺はなんとか海を渡る魔法を発動させようとするが、今までのが奇跡みたいなもので、所詮付け焼刃。何度も同じ奇跡は起きない。
海を渡る!海を渡る! 空を飛ぶ!空を飛んであの船に。何度も試すが成功はしない。
そうしているうちに1隻また1隻……どんどん帆船が沈んでいく。
クロ?聞いている?クロ!
クロに語りかけるが、流石に距離がありすぎるのか反応は無い。
そもそも何で、急に――焦りながらも海上を見ていると
、帆船から右舷前方に、海竜らしきものが視認出来た。
まさかあれがクロの言っていた神なのか?
なんで神が人を襲わせるんだよ!訳わかんねーぞこらぁ!
やめさせろ!やめさせろよ! アルテッザがいるんだ!アルテッザ死んじゃう、死んじゃうだろ!
こんな所で死なせる為に、俺は助けたんじゃねーよ!
頼むよお願いします。 アルテッザを 助けて。
だが、無常にも帆船は全て沈没し、残ったのは木材の欠片だけ。
帆船の白い帆はもうどこにも無かった。
やがて……オクトパスの大群と竜も、海に潜っていった。
アルテッザ。俺の目から涙が溢れ出した。
この2章に入って俺泣きまくりじゃねーかよ。
俺は、ずっと何もない海を、ただぼーっと見ているだけだった。
どの位ここに居ただろう、後ろから声をかけられても、唯の屍の様にしゃがみこんでいた。
「おーい!?」
「おーいお前!?」
「なんだ?こいつ生きているのにまるで屍の様だ!」
ツンツン……棒でつつかれた。
ドスンドスン!……尻尾で引っ叩かれた様だ……?
…………??
……………………???
俺はただ、ぼうっとしながら後ろを振り向く。
目の前には……真っ赤な深紅の髪と真っ赤で燃える様な瞳の幼女がいた。
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