第42話何処にもいない

 俺は、今クロに跨って空の上にいる。


それもこれも……糞、思い出すだけで腹来た。

昔友達とふざけて、頭にくるよりもっと怒っている時によく使った言葉が腹来た!だった。


そんな事よりも……取調べの結果判った事は、オルドバはこのアルステッド国に来た当初から侵略を目論んでおり、最初は簡単な胃の不調を訴える程度の毒を王への貢物に混ぜ、その見舞いとして来た時からずっとジギタリスを贈り続けたそうだ……。


 確かに現代でも態々栽培する地方があるように、取り扱いさえ間違えなければ毒に侵される事は無い。

 だが、普通の花と同じに扱うと――。


一気に毒に侵される。


 恐らく王の病状を心配したメテオラ王女は、王を見舞った時に花に触れてしまった為に、最近になってから調子を崩したのだろう。

なぜ3年前から王しか体調が悪くなら無かったのかは、当初は何か伝染する病かも?との心配からここ最近まで王の寝室には近づかなかったかららしい。

では花を寝室へ飾ったものは?と聞いたら、オルドバが自ら花を届け生けていたらしい。

何故他国の大臣に?と聞いたら何でもこの花は扱いが難しく、間違って生けると一気に萎むとか……。


 そんな嘘に騙される方も、もうね――馬鹿じゃん?としか思ってない。


 いくら重要な国家存亡がかかっている貿易取引の相手でも、そこまで信じるのか?と……。


 そんな王家の話なんてどうでもよかったね。


肝心な俺の嫁!アルテッザの件だ……へ?嫁じゃないだろうって?


 あなた……ちゃんと読んでいます?

アルテッザが成人したら結婚しましょう!ってどっかで言っていたよね!?

 あれ?俺の気のせい?

いや……確かに……。

書いたはず?


 だから俺の嫁で間違いはありません!


 はぁ、早く結婚してぇぇ。作者みたいな人生まっぴらごめんだからな!


 そんで俺の嫁の……え?何度も言わなくてもわかった?

しつこい男は嫌われる?はい……。


 アルテッザの行方だが、やはり当初オルドバの言った事は正しかった様で……。

いやぁまさか本当の事すぐ喋るなんて思わないじゃない?ねっ……。


 誘拐してすぐ、王都から海洋国家エジンバラへ移送する為に裏の組織(俺が壊滅させた奴らの仲間)に依頼し、カロエの街へ運んだらしい。

王都からカロエの街まで、馬車で数日は掛かるから、今からならまだ道中の筈だ。


 王都からカロエへ向う街道上空を飛びながら、アルテッザの無事をただただ願う。


 空から地上を見つめて居るのだが、一向に馬車が見えてこない。やがて南の方には海岸線の浅瀬はコバルトブルーの色彩で少し沖に行くと紺色の暗く冷たそうな色の海が見えてきた。

 ここは浅瀬は本当に岩場だらけで沖は一気に水深が深くなっているのが見て取れた。


 昔、両親と青森の八戸から北海道の苫小牧までフェリーで行った時に見た濃い色の海に似ているな。

 と思ったが――実は津軽海峡とか大間沖は、水深がそれほど深くなくせいぜい140m位である。

 無駄な話をしてしまったね。


「どこにもいねぇ!結局海に出ちまった」


「馬車で数日かかる距離なら、とっくに追い越している筈なんだがのぉ」


 その馬車どころか、王都からここまでの街道を通っていた人は誰も居なかった。

国の威信をかけた外洋貿易が潰れたんだから、この港町に態々来るもの好きも居ないんだろうけど。



 日本なら幽霊屋敷よろしく、興味本位で行く人もいるだろうけどさ……東日本大震災の後に、被災地区に興味本位でカメラ抱えてくる奴とか居たな……流石に俺なんかは、怖くて行けなかったが。

だって一番近くだと志津川だぜ?

 あっ、志津川では判らないか――街の全てが数時間で消滅した南三陸だね。

 半年後に用があって行って見たけど。

もうね……あ。こんな話つまらないね。

本題っと。



 クロに街から見えない場所に降りてもらい、カロエの街に行ってみたが正直言って活気無い。

人も少ない、何この過疎?

 そんな街に女の子が運ばれたらすぐ広まりそうだが、食堂のおばちゃんに聞いても、唯一活動している造船所で聞いても誰も知らないようだった。


 そんな早く移動する手段なんてあるか?

馬の単騎ならまだ考えられるが、馬車だったようだしな。

 足りない頭で考える。考える――だが、分らなかった。

 クロもお手上げじゃのぉ。

とかほざいているし。


 俺達は再度、空からこの周辺を見回した後、王都へ戻った。



「やぁアルテッザ君は見つかったかい?」


 こんな時に、明るい声でそう言われると凄くむかつく。


「いいえ……街道を通っている馬車も馬も人すら居ませんでしたよ」


「それは、残念だったね……」


「そっちは?あれから何か新しい事でもわかりましたか?」


「いや、最初に喋った通りで、これといっては……父の目が覚めた位かな?」


 そっか。王様が目を覚ましたのか。

俺には、どうでもいい事だな。


「それでね、コータ殿にお礼を言いたいと言っているんだが……」


 会ってやってくれるかい?と。

はぁ、仕方無い。会うだけ会うか……。


 王子と一緒に、先程の王の寝室へ入るとそこには王妃、メテオラ、ローラの王族御一行がまだ居た。


「おお。そなたが余の命を救ってくれたコータ殿か!お陰で命拾いした。後で褒美を取らすんで何でも申すといい」


 この王様、なんでもとか言っているし――やっぱ馬鹿? 

王女二人をくれ!とか言ったらくれるかな?

 あ、そんな不謹慎な事いいません。


すみません。


罰とかもう要らないんで……アルテッザの無事だけで結構です。


 恐縮したそぶりで返事をして、早々に寝室から退室する。


 アルテッザの所在が分らないのに褒美の話されてもね……気がのらねぇ。


 とりわけ王城にはもう用は無いんで、迎賓館に戻ってきた。


「おかえりにゃ!あるてったのおねぇちゃんはいないのかにゃ?」

「おかえりだに」

「お帰りコータさんアルテッザさんはまだ……」

「お疲れ様です。お疲れの様ですね。肩でも揉みましょうか?」


「あぁ、まだ見つからない。ホロウ別に肩凝りとかないし……作者みたいな、じじぃじゃないし!」


「はぁ、それにしても街道隈なく探して居ないって……」


「どうやって運んだんだか……」


 皆で揃って夕食を食べていると、アレフ王子がやってきた。

 しかしこの王子……ちょこちょこ顔出すな。

暇なのか?


「えっと、言いにくい事なんだけどね……明日のオクトパスの件で」


「王子様、まだそんな事言っているんですか!?貿易相手はもう敵なんでしょ?それなのに今退治して攻め込まれたら……」


「そうは言うがね、海洋国家エジンバラと交渉しようにも、海に出られなければ損害賠償を請求する事も出来なくてね」

 結局、金の問題かよ!なんでも金かねって……地球のどっかの国みたいだな。


「どうせこの街には居ないのはほぼ確定しているんだ……いいよ。やってやるよ」


「すまないね。こんな時に、いやこんな時にこそね?もしかしたら海洋国家エジンバラから何かコンタクトがあるかもだしね!」


 まぁその手が無い訳じゃないか。

それはアルテッザの身柄が、既に向こうに渡っているって事だけどな。


 アルテッザの身に、万一の事があったら俺、自制出来る自信ないな。

人を殺したこと無いけど、最悪は……。



「じゃぁクロ様、よろしくお願いしますね」


「まぁ仕方ない。今回限りじゃぞ!」


 いつものアルテッザ以外の全員と、アレフ王子はクロに乗ってカロエに飛び立った。


 本当に何処にいってしまったんだよ……。

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