第110話 吾輩の最後だ……
「旦那、起きてくださいよ」
「そうか……今日で終わりか……」
「えぇ……なんか寂しくなりますね」
「そういうものさ」
吾輩と眷属はどこか物悲しさを感じながら今日という日を迎える。
始まりがあれば終わりがあるのが常だ。どこかで終止符を打つ時というのは必ず来るものだ。終わりがなければ物語ではない。語りつくした先に誰かの心に何かを残すことは出来たのだろうかと迷いながらも、作者ってやつは描き出すんだ。
物語のラストを――
「時間がありませんよ」
「わかってるよ、いま急いで仕度をしているところだ」
吾輩はマントを羽織ってコウモリと一度アイコンタクトをする。長きにわたる道の終わりを探す旅。それがこのバンパイア物語。夜という世界でしか生きられない吾輩が世界の平和を願って始めた物語。
「いくぞ、眷属」
「ハイ、旦那!」
颯爽と吾輩たちは屋敷を歩き出す。終わりに向かって前を向いて歩いてく。これがこの物語のグランドフィナーレ。赤いじゅうたんと電気をつけた廊下。洋館は部屋が多く、どこまで長い廊下が続く。
「レッドカーペットですね」
「出来れば、本物を歩きたかったがな」
冗談を言い合い隣で連れ添うように歩いていく。吾輩が苦しい時も楽しい時も共にいてくれた心強い仲間。吾輩の唯一無二の眷属――セバスチャン。
「いよいよ締めくくりだ」
「そうですね」
廊下の角を曲がり階段を降りていく。此処から出ると決めた。吾輩はもっと広い場所に出たいと願った。だからこそ、吾輩は歩き出したのだ。どこまでも届くようにと。吾輩の声が誰かに届けと。
「開けるぞ、眷属!」
「いきましょう、旦那!!」
気合を入れて両手で大きな扉を押していく。開いていく外の世界。屋敷で過ごしてきた過去を置き去りにするように吾輩たちは外へと一歩を踏み出すのだ。冷たい風が頬を打ち付ける。マントが風になびいて吾輩のシルエットを派手に彩る。
さぁ、行こう。眷属と共に。まだ見ぬ地へと旅立とう。
これが吾輩の最後――バンパイア物語のラスト。
「さぶっ!」
「旦那?」
「ちょ、無理無理!」
「えぇえええ!!」
吾輩は急いで扉を閉めた。寒いのだ。風が強い。大晦日のくせに強風が吹いて春一番のようだ。これではラストに行けない。厄日だな、これは(。-`ω-)
「旦那……」
「初詣とかいいよ。初夢の方が大事!」
「いや……ラストだって」
「これが今年最後だからね!」
「……」
「さぁ、布団に戻るぞ眷属。今日は無理だよ、ムリ」
そうして、吾輩はいつも通りの部屋に戻りラストを締めくくる。
バンパイア物語3は終わりだ。これでみんなとはお別れだ。
だから、最後に言わせてくれ。この物語の最後を色づける言葉を。
【来年からバンパイア物語4になります】
今年はやりきった。だからは吾輩は来年に向けて備えて眠る!
《つづく》
バンパイア物語3「どうでも良いのにどうでも良くないから、分かったようで分からないから、書いてるだけなんで」 ハギわら @hagiwarau071471
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