第109話 吾輩のメリークリスマス

吾輩は眠りから覚めた。コウモリが話しかけてくる。


「旦那、お目覚めですか?」

「クリスマスイブらしいな」

「そうですね」

「前日をイブというのですな」

「そうですね」

「じゃあ当日は?」

「無です」


ということで吾輩です。今日が聖夜だろうと通常運行。


吾輩キリスト教に命を狙われているので。エクソシストって多分キリストでしょ。いきなり十字架向けてくるあたりキリストだと思うんだけど、どうなんだろう?


あれ吾輩には効かないからね。光を背にやってくるから金ぴかに反射して痛いのだよ。眼球も体の一部で細胞は太陽アレルギーだから。眼が焼けそうになるのよ。


虫眼鏡で太陽を見てはいけませんというのと一緒よ。


アイツら……なに考えてるの(´・ω・`)?


出会い頭に太陽アレルギーの人間に太陽光をかましてくるとか。それは殺人行為ですよ。殺意があるからね。法廷でやったらバンパイア勝つよ?


だって、眼球を焼きにくる畜生行為だからね。


普通にやられた方は殺意を覚えるよ?


エクソシストを殺してやろうと思う訳ですよ。


普通じゃねぇ……(´・ω・`)?


「キリスト教嫌いを言い訳にしてクリぼっちを正当化しようとしているのですね?」

「やめてッ!?」


眷属、心の内を見抜かないで!!!





吾輩は考える。


もうすぐ一年も終わりか。今年は令和に入ってる。色々あったなーとか、思うけど具体的にナニって聞かれると特に何もないのが一年。いつの間にか過ぎているのが時間ってことですね。


今年のビッグニュースとか特にないし。みなさん、なんかありました?


書籍化された方もいるかもしれませんね。慎重勇者は放送日がずれこんでいるので最終回フェチの吾輩はチェック済みですよ。ちゃんと見てますよ、土日月さん!!


色々書いた16万文字。ペースおちてるな……(´・ω・`)


でも別にいい。書いてるのは好きだから。書いてるのが好きだから。


というか……デットエンドの文字数の増え方がヤバいことに気づく。90万文字だったのが一年で180万になっている。星はトータルで三しか増えていないけど。どっかにユーザーが消えたのでしょう。もっと増えてたはずだ。うんうん(。-`ω-)。


百万文字を書いたのか……。


いっぱい書いたな……三章のお受験編とか超楽しかったな(。-`ω-)


思い出すと色々あったな。笑って歌って泣いて、どんどんと広がって。応援のコメントとか貰ったな……180万もあるのに読んでる人もいてくれる。


心が温かい。胸が熱い。涙が……っ。


「旦那……」

「湿っぽいな……ぐずッ!」


ちょっとずつだけど前に進んできた。最初は脚本にもみたないセリフだけの書いてたっけ……書き方とか全然わからなくて右も左も分からなくて、勢いだけで全部やってきたんだっけか。


でも、振り返ればちゃんと跡が残っている。


そこに、吾輩が書いたものが残っている。


まだまだだけど、確かにあるんだ。目に見えるんだ。


読んでくれている誰かが、見ていてくれる誰かがいる、記しが。


ちょっとずつ書けるようになってきたと思う。書きたいものに少しずつ近づいてきたのだと思う。でもまだまだ先が長い。180万でまだここかと。本当に書きたいものからはほど遠い。


まだまだ歩かなきゃだめだ。時間をかけて丁寧に書かなきゃいけない。


改稿ももっと必要だろうな。もっと面白くできると思うから。


「あと誤字脱字も直さなきゃですね」

「そうだな。三章は特にひどいからな」


そんな一年なんだと思う。誰かに支えられて書けているのだと思う。画面の向こうの読者さんが楽しんでくれていると想像して書いてるのだと思う。誰かがアホな吾輩の話で笑ってくれているのだと思う。


誰かに幸せを配れているのかもしれない……吾輩は。


「そうですね、旦那」

「サンタにジョブチェンジするかな」

「アホなこと言ってないでくださいよ」

「クリスマスってのは、不思議な日だからな。ついつい不思議な感情が湧いてくる」

「旦那」

「ん?」


 セバスチャンがふらっと窓の方へと飛んでいく。鍵を口でこじ開け器用に扉をあける。さすがわが眷属と思うような動作だが、この時期に窓を開けるのはどうなのだろう。


「寒いだろ……」

「我々コウモリは寒さもへっちゃらですよ。外を見てください、旦那」

「えっ、なんだよ……」


 吾輩はいわれるがままにマントを羽織って窓辺に近づいてく。冷気が部屋に流れこむ。気圧差で部屋に流れ込む風に外套が揺らされる。瞼を僅かに閉じながらも吾輩は窓辺に立って外の景色を覗き込む。


「これは……」


 特に何の変哲もない風景に動く数々の物体。夜の暗さと同化するようにざわざわと動き樹々を揺らす。吾輩の庭で一番大きい樹。それに群がり一斉に動き出した。耳に届く空き缶にコウモリがぶつかる音。お世辞でも綺麗といえないゴミのデコレーション。モミの木でもない銀杏の木に光る缶ゴミ。


 それでも銀杏の葉は金色に輝く。


 それはとても特別な光景で、吾輩にしか見れないモノで、


「アインツさん!」「アインツ!」「アイちゃん!」「アイアイ!」


【メリークリスマス!】


 吾輩にしか聞こえないコウモリたちの声。ふぅーと鼻で冷たい空気を吸う。メリークリスマス。ただそれだけのことで、銀杏の木の先に見える夜の街は光り輝いて、コウモリたちが吾輩を見ている。


「最高だ……眷属たち」


 ひとりぼっちじゃない、吾輩は。


 誰にも分らない景色を見ている。誰にも届かない声を聞ける。


 誰かと笑い合える――


「メリークリスマス」


 心を持っている。


「ニシシ」「大成功!」「飛ぶぞ、お前ら!」「いくぞ、いくぞ!」「隊長、お願いします!」


 コウモリたちが一斉に銀杏から飛び立ち葉っぱを咥えていた。何が起きたのか分からず吾輩は彼らの動きに目をやった。縦横無尽に列を成して飛ぶ黒い飛行体。


「旦那に、我らコウモリ飛行隊の力を見してやるんだ!」


 横から眷属が飛び出して、コウモリたちの指揮を執る。


 銀杏の葉っぱを持ったコウモリたちが空を舞い跳ぶ。金色の塊になっていくつもの隊列を作っていく。空に彼らは絵を描いたのだ。それは彼らからの吾輩へのクリスマスプレゼント。吾輩が欲しがっていたもの。


「やめろよ……泣いちまうよ」


 夜空に彼が描き出し物はこの世で一番綺麗に見えた。三つに並んだ彼らの隊列は吾輩の心を揺さぶった。吾輩の目頭を熱くさせた。これ以上にくいプレゼントがあるのか分からない。


「旦那に星三つッ!」


 今年一番の贈り物を彼らは吾輩にくれた。頑張ったねと言ってくれた。それは吾輩だけに贈られる星。眷属たちが銀杏の葉っぱを口に挟んで作った手作りの心。


 夜空で一番輝く大きな星を彼らは吾輩に贈ってきた。


 一生、忘れることのできないクリスマスを。


「ありがとう……我が眷属」


 世界は美しい。世界は優しい。そんなことを彼らは吾輩に教えてくれる。


 だから、吾輩は聖夜に一人でもその寒さに胸が温かくなるのだ。



《つづく「》



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