第350話 イネちゃんとヌーリエ様

「あぁもうキリがない!」

 戦闘開始から既に10分、既に歩兵となるテロリストは無力化が終わっていて、基地の施設内部に関しては既に制圧できたと言える状況になったのだけれど、ゴブリンが地面から街からと押し寄せる形で終わりが見えない。

 イネちゃんは勇者の力で弾薬を無理やり生成して使えるから戦いを継続することには問題ないけれど、確かにこれは既存の軍隊では補給の問題ですぐに弾がなくなって撤退しなきゃいけなくなる。

 それに個人携行MLRSなんて弾持ちに関しては最悪と言っていいレベルなのだから、当然弾薬がなくなってしまうわけで……。

「無尽蔵とも思えるオベイロンの出現に歯止めがかからない限りはジリ貧か……」

 最も、弾薬が無尽蔵であるイネちゃんだって体力面は無尽蔵じゃない以上は予定されている30分以上ここで単独戦闘を行うのは好ましくない。

 それこそササヤさんのような超人レベルの人とか、ココロさんとヒヒノさんのように概念自体に攻撃を加えてオベイロンが出現できるという概念ごと破壊できなきゃいつまで経っても終わりが見えない戦いを強いられることになる。

 実のところ戦闘と並行して少しづつではあるけれど、基地内の地面に関しては3分の1程度なら既に掌握できたけれど、どうにもオベイロンが出現している地点には護衛艦でグワールが使っていた賢者の石が埋め込まれているらしく、イネちゃんの勇者の力による掌握が拒まれていて、今影響範囲を調べて特定地点をビームの海とかに変換して無理やりその地点に穴を開ける形で無理やり力押しで対応しようとするも、結構地下深くまで根深く影響があるようでなかなか対応ができない。

『イネ、都市部からおかわりが来る!』

「流石にこれはジリ貧すぎる……!」

 イネちゃんの一撃必殺と言っても問題がない火力は核とビームになる以上、オベイロンを相手にしなきゃいけないこの戦場では連射が殆ど効かないビームで対応せざるをえない。

 これがまたイネちゃんの消耗を激しくさせる要因にもなっているし、オベイロン以外だと過剰火力ではあるけれど、メイン武装であるP90やスパスではダメージがあまり入ってくれないゴブリアントも混ざっているから使わざるをえないという……これは米軍としても頭が痛くなるのがよくわかる。

「敵援軍の構成は!?」

『オベイロン1、ゴブリアント100、他多数』

 そしてこの規模である。

 オベイロン自体に関してはかなり出現数が減ってきてはいるものの、問題はゴブリアントの数で、あいつの皮膚は対物ライフルとか、RPGとか、それこそ戦車の主砲とかでようやく遠距離から有効なダメージが加えられるってラインだからね、正直これは重装甲特化の近接武装戦車が100両進軍してきてるようなものだし、質の悪いことにこのゴブリアントの集団は重火器を装備している個体も存在している。

 ガトリングは当然の権利のように撃ってくるし、チェーンガンや多連装ロケットランチャーまで使ってくるから通常の軍隊では対応しきれなくなって当然である。

 武器に関してはどこで調達してきてるのかという疑問しかないけれど、少なくともゴブリンたちに関してはグワールが錬金術で無尽蔵に生み出してくるから尽きぬ軍勢を相手にするというのは精神的にすごく辛いものがあるからね、イネちゃんが今まさに体験している感想でもあるんだけどさ。

『イネ、こっちも重火器を使おう』

「自衛隊の装甲車とかについてるキャリバーとか、基地に保管されてた重火器をコピーしてもオベイロンにはまず効かないし、ゴブリアントにだってそこまで有効じゃ……」

『うん、だから弾頭表面をビームでコーティングするの』

「それは……銃の方が先に逝くか、暴発するんじゃないかな」

『そこは私のほうが調整する、イネはとにかくゴブリンを殺すことを考えて!』

 そうは言われても流石に銃が暴発すればイネちゃんだってかすり傷くらいはついてしまうし、何より大きな隙ができてそこをオベイロンに攻撃されたら流石にイネちゃんの防御力でも危ないかもしれない。

 とは言え他に有効な戦術を思いつくかと言われたら高出力ビームをオベイロンに撃ってから対物ライフルの釣瓶打ち……もしくはMLRSの釣瓶打ちくらいしか思いつかないわけで、それもそれで消耗があまりに激しすぎるからイーアが無茶とも思える提案をしてきたのも理解できてしまう。

「あぁもう!本当にイーア、頼んだよ!」

 仕方ないので基地に貯蔵されているガトリングをコピーしてイネちゃんの体躯に合わせて持ち手部分を調整し、構える。

『わかってる!ビームのコーティングはこっちでやるから、イネはガトリングの弾をお願い!』

 イーアの叫びを聞きながら引き金を引き絞りつつ、弾丸を生成してガトリングを発射する。

 いやまぁ本来こんなことしたら確定で壊れるけれど、そうできるようにイネちゃんが対応したからね、正直この手の重火器はリロードに時間がかかりすぎるから、イネちゃんが運用する場合は勇者の力でカバーすること前提みたいなところがあるし。

 ともあれ無事に発砲を開始したガトリングが毎秒200発の発射レートで、それこそカタログスペックそのままの動作をこれまた勇者の力で補助しながら行うとイネちゃんはちょっと違うところに気がついた。

 発射される弾丸の弾頭部分がどうにも淡く光っているように見える。

『それがビームでコーティングした奴。これならゴブリアントの装甲は抜けるはず』

「ゴブリアントの装甲はって……オベイロンは!?」

『大丈夫、考えがあるから』

 いや、その考えを教えてもらっても構わないですかね。

 でもイーアの言うとおり、目の前にいたゴブリアントは軒並み蜂の巣状態になって倒れてくれているし、ガトリングの方も特に不具合を見せる様子もない……いやかなり魔改造状態なのによく不具合起こさないよね、やってるのイネちゃんだし、そうならないように勇者の力使ってはいるけれど自分でもちょっとびっくりするという不思議な状態。

 これは米軍の人たちが見たらボブお父さんたちみたいに『ゴキゲン』って大合唱が始まりそうだなぁ……使えるのはイネちゃんだけだけど、なんというか今まで見てきた感じだとその威力が味方が使っているもので、敵を蹂躙できればゴキゲンという叫びが聞こえてくる辺り、自分が使わなくてもいいんだなっていうのは理解できてるけどね。

『次、オベイロン!』

 イーアの指示通り、ガトリングを撃ちながらも銃身を動かしてオベイロンの上半身へと向けて動かして攻撃を当てていくものの、客観的に見たとしてもこれは効いているとは言い難い。

「イーア、これじゃ終わらないよ!」

『大丈夫……よし、今!』

 イーアが大きく叫ぶとオベイロンの足元がビームの海になり、少しづつオベイロンがその地面に吸い込まれていくようにして消えていった。

 うん、まぁイネちゃんだってやりたかったことが今目の前で起きてるけど、これはなんというか凄くシュールな感じで、実際に痛覚とかがあるのなら苦悶の表情になったりするのだろうけれど、オベイロン相手だと表情とか雄叫びとかそういうのがないままただただビームの海に沈んでいくのを眺めている状態なんだよね、うん。

 しかし今のは外からの援軍を防いだだけで基地の敷地内から出てきている連中の掃除はまだできていないので、これでは作戦完了とは行かないのだけれど……。

『イネちゃん、少し身体を貸していただいてもよいでしょうか』

 イネちゃんがこれと言った打開策が思いつかないまま交戦していると、ヌーリエ様が今回は本当、唐突と言っていい内容の発言をしだした。

『あ、本当にちょっとだけお借りするだけなので……大丈夫ですよ』

 あぁいやそういう……こともあるけれど、むしろ神様が介入しちゃっていいことなのだろうか、ゴブリンは居るものの構図としては人と人の争いなわけだし、特にヌーリエ様って皆仲良くっていうっていう思考してるから、こういう荒事とか苦手だと思っていたんだけれど……。

『苦手ですよ……でもやらなきゃいけないことと、その時は間違えちゃいけませんから。ここでイネちゃんたちが撤退することになると、今後より多くの人が死んでしまうことになるので』

 え、それってどういうこと?

 というかヌーリエ様って未来のことがわかっていたりするのだろうか。

『厳密には違うのですが、はい。そんな感じですので、お願いします』

 正直、これは貸す以外の選択肢が取れるのだろうか……いやとっても大丈夫なんだろうけれど、こう、イーア以外に身体を貸すなんてやったことないから不安の方が圧倒的に強いんだよね。

『まぁ、貸そうイネ。ヌーリエ様なら最悪の流れにはならないだろうし……』

「いやまぁイーア、そうだけどさ……でも、確かに現時点でイネちゃんとイーアだと時間がかかりすぎるし、殲滅と掌握ができたとしても味方が着陸できるように再整備も行わないといけないから……」

 多分、このどうしようもないという状況で拒否をしてもヌーリエ様は仕方ないで済ませてくれる。

 でもなんとなくではあるけれど、ヌーリエ様の言ったここでなんとかしないとより多くの人がというのも分かる気がする……というかなんかそういう想像ばかり頭に浮かんでくる。

「あぁもう!考えている間にもオベイロンが増えてるし!ヌーリエ様、お願いしますよ!」

『はい、あのゴブリンに関しては、大地に対して毒を撒き散らすスライムと同意ですので任せてください』

 ヌーリエ様の落ち着いた言葉と同時にイネちゃんの意識が、イーアに身体を任せた時のように内側に移動すると私の身体はヌーリエ様に預ける形になった。

「それではイネちゃんに格好のいいことを言った手前、手加減はしません。それに……あなたたちは自然を破壊するだけの存在ですから、そもそも私とは相容れない道の先にいる方ですし、恨むとしたら私か、生みの親にしてくださいね」

 ヌーリエ様が諭すような口調でオベイロンにそう言うと次の瞬間、基地の敷地どころかイネちゃんとイーアでは到底無理な範囲を一瞬にして浄化してしまい、更にはオベイロンの身体を構成していたマッドスライムまで完全浄化……。

 なぁにこれ、神様凄い。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る