第346話 イネちゃんと会話と艦内戦

「確かに、この船に乗船している戦闘員とあなたの戦闘能力は特筆すべき点があるでしょう。ですがまだ、騙し討ちのような腹の探り合いに関しては子供同然なのですね」

「艦橋がやられた……!?」

「いいえ、どうせですから拝借しようかと。それに大型転送陣の最終試験を行いたいですしね」

 グワールはそう宣言すると同時にいくつかの宝石のようなものを投げた。

 その宝石のようなものは床に跳ね返らずに吸い込まれるように溶け込んで、床が光を帯び始めた。

「あなたは大地と同化し、鉱物をも操ることができる能力ちからを持った人間なのでしょう。ムータリアスであるのなら聖人と呼ばれる存在なのでしょう。ですが私が有機物から錬成した賢者の石までは掌握することは不可能なはず!」

 確かに、イネちゃんは無機物は利用可能ではあるけれど、有機物となると途端に何もできなく……はないのだけれど、勇者の力での運用、応用はできなくなる。

 でも、だとしても今この護衛艦がグワールに奪われて、それこそ今大陸を中心に繋がっている全ての世界を混乱させている勢力の手に渡れば、地球での運用は極めて限定的ではあるのもの、これがムータリアスで使われたとすればそれだけで軍団規模の兵士や、その軍隊が守っていた民間人が犠牲になることは容易に想像がつく。

 そんなことはさせない、させられない。

 だから……。

「やってみなければわからない!」

 急いで勇者の力で護衛艦をイネちゃんと同化させていく。

 正直、この規模の完成された兵器を掌握するというのは、空想兵器を維持している今のイネちゃんにとってはちょっとした重労働に入るけれど、このまま奪われてしまえば、そのまま運用されたとしても数万近い犠牲が生まれるかもしれない以上引くわけにも行かない。

「そうです、そうしてもらわなければ困りますよ!だってあなたの力だって私の研究対象なのですから!あぁ約束された楽園世界の守護者であるあなたのその力はどこまですごく、素晴らしいものなのか見せてください!」

 グワールの思惑にハマったのは尺ではあるけれど、流石に今回ばかりは仕方ない。

 それに何も完全にグワールの思惑通りでもないからね、イネちゃんはあくまで先発部隊だったわけで、おそらくはそろそろ……。

『イネ、状況を知らせろ』

 書類上の特殊部隊として編成されたときに渡されていた通信機からムツキお父さんの機械変換された声が聞こえてきた。

 グワールは自分に酔っているような感じで動きが見られないし、イネちゃんは落ち着いてSENDボタンを操作しながら口を開く。

「グワールと対話中、場合によっては交戦の可能性あり、そちらは艦橋の確保をお願い」

『ちょっと待て、そこにグワールがいるのか?』

「困りますねぇ、私は大陸の勇者の力を見せてもらいたいのですが……この世界の軍隊の力で解決されては困りますねぇ」

「ムツキお父さん早く!」

 通信機の先で今のグワールの言葉である程度察してくれたようで、外からヘリのローター音が聞こえて来た。

 グワールが再び懐から先ほどの宝石を持ち出してきたのが見えたので、イネちゃんは既に掌握できている部屋の壁面の一部をターレットに変えてグワールに銃口を向けて発砲した。

 ターレットの銃弾はこちらの想定通りにグワールの四肢を撃ち抜き、動きを止めた。

「ぬ!この身体はもうダメかな?しかしまぁなる程、あなたの勇者の力……楽園の守護者としての力の一端を見ることができたのは良かったですね。どうせダメな肉体であるのだから、最後まで情報収集に使い潰すとしましょう」

「自分が消えるとか、そういう心配はないんだね」

「既に私はその領域にはおりませんので、ご心配ありがとうございます」

 攻撃した相手がそれを心配すると本気で思っているのかとちょっと問い詰めたくなったけど、どうせまた変な会話になりそうなので言わないでおくけれど、ともあれ今はグワールの好きに行動させないということだけを優先しておく。

「今回、なんでこの艦隊を狙ったのか、教えてくれる気はあるかな?」

 なのでとりあえずしゃべりたがりっぽかったし、質問を投げかけてみる。

「単純に前皇帝派の方々が保有している土地にろくな資源がないので研究がですね。丁度あなた方がムータリアスに現れた地、あそこが資源豊富だったのですよ……それにしても本当、この世界の軍隊は優秀だ、私の知識に存在するどの軍略をも超えているし、戦術レベルでの運用に関しては数世代は先を行っている。そこの兵器というのは情報が詰まっている、情報は知識だ!私はそれが欲しい、私の協力者は武力が欲しい、利益の一致というものに過ぎませんよ」

「それで相手の不利益はどうするのかな?」

「そもそも与えられていなかったものに与えているだけですよ、私は。世の中にはいくら努力しても、その方向性が正しかったとしてもつまはじきにされる人間が存在するのです」

 まぁ、理屈はわからなくもないけれど……。

「まぁそういう人には同情するけれど、奪っていい理屈にはなってないよね。今度は奪われた人がその人に憎しみを向けて争いが始まるだけ……」

 例えば、今みたいに。

「しかし暴力という手段しか道が残されていない人間が出てしまうのも事実ですよね、あなたの出身世界のように全てにおいて恵まれた楽園でもなければ」

 それも、わかる。

 イネちゃんはなんだかんだ人生の半分は地球で育っているわけだから、その理屈もわからないではない。

 イネちゃんだってずっと奪われる側だったから力を求めたという点があるし、基本的大陸以外の世界では資源というパイには上限が決まっているということも。

「でも、だからこそイネちゃんはそれを許しちゃいけないんだ。少なくとも目の前で泣いている人は放っておけないし、手に届く範囲は助けたいと思う。そして今イネちゃんのその手は地球の、自衛隊のこの艦艇なんだ」

「それはあなたのエゴでは?」

「奪う理屈だってグワール、あなたのエゴでしょ?」

「それは……そのとおりです。いやはや本当、楽園世界なのにこういった理屈にお強い。それはでは対立するエゴ同士、必然の衝突を行いましょうか」

 グワールはそう言ってさっきターレットに撃ち抜かれた部分からマッドスライム化していき、下半身スライム、上半身は人のままという姿になり。

「さぁ、この身体を放置すればこの船の人間は全滅しますよ!戦おうではありませんか!」

 これは……間違いなくデータ収集だよなぁ。

 イネちゃんが現時点でどれだけの戦闘能力を持っているかっていうデータ。

 本来なら持ち帰らせなければいいだけなのだけれど、グワールの発言を鑑みるとどうにも身体を失ってもそのへんの情報収集をした上で、別の身体に意識を移せるんじゃないかと思われる。

 正直ここまで来ると大地の四天王であるあいつよりも厄介になってくるなぁ……戦闘能力は現時点だと間違いなくこちらが上だけれど、グワールだって技術や戦術を取り込んでそのうち大陸の面々だけじゃ対応できないだけの数で、最も有効な戦術を最先端の技術で作られた武器を持って行ってくる可能性は極めて高いからね。

 となればビームは極力使わない方向で、地球の現行軍隊が運用するような既存兵器だけで対応するのが正解なのだろうけれど……ビームに関してはシックでの戦いとムータリアスでの戦いで絶対知られているという謎の確信がイネちゃんの中にあるのも事実で……。

 いっそ何が起きたのか理解できない攻撃で潰せればそれが最適解なのだろうけれど、イネちゃんその要件を満たせる武器って核かレーザー以外に思いつかないのであった。

 ともあれじわりと近づいてくるグワールに対応しなければいけないので、マントから焼夷グレネードからピンを抜いて部屋から出る動きで、イネちゃんが今まで会話していた場所にグレネードを炸裂させる。

 グレネードが炸裂して中身である燃焼材が部屋に広がるとグワールは炎に包まれるわけだけど……。

「これは既に知っている攻撃ですよ、確かに私の作るスライムは例外なく炎には弱いのですが……既にこの程度の温度であるのなら短時間ですが活動は可能です。それと……あなたが移動した先は既に私が賢者の石で掌握済みですよ」

 グワールのその言葉を証明するように、イネちゃんが移動した先の壁が鋭いトゲに形状を変化させる。

 最も、勇者の力である程度この護衛艦と同化しているイネちゃんだって、皮膚をここまで飛んでくるときの武器を使うロボットのものとほぼ同等にしてあるので、当然ながら金属同士がぶつかる音がしてダメージを受けない。

「なる程、知ってはいましたが大地の四天王を名乗るアレの身体を突き破れる攻撃力でもダメージなしですか。これは本格的に倒すのは難しそうです……いや実質不可能なのではないかとも思えてきますね。とは言えまだ試せることがある状況で不可能と断定するのは錬金術師以前のお話、まだまだ試させてもらいますよ!」

 アレと戦ったことがある……って当然か、ムータリアスで活動していて、自分の有用性を示すために1番面倒だろう相手に有効な攻撃を提供できますってするのが1番有効なデモンストレーションだし。

 ともあれこの状況……艦の主導権の取り合いと一緒にドンパチするのは流石に不毛というか、終わりが見えないというほどではないけれど被害がかなりの勢いで出る可能性が極めて高い。

「後で全力で謝らないといけないけど……仕方ない、かな」

「何が仕方ないのですかね!私にも教えてくださいよ!」

 グワールの質問に対し、イネちゃんは勢いよく答えた。

「こういう……ことだよ!」

 グワールの居る部屋を勇者の力で独立ブロックにして、護衛艦から勢いよくパージさせた。

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