第343話 イネちゃんとサンフランシスコ観光
「さて、何か美味しい食べ物とかないかな!」
「いやイネちゃんに聞かれても。でもまぁ、港町だしシーフード……お魚とかが美味しいとは思うけど、IT系のオフィスも多いらしいからファストフードとかも美味しかったりするかもね」
「あいてぃ?っていうのがどういうものかわからないけれど、いろいろ食べれそうだね!」
リリアはそう言ってはしゃいでいるものの、イネちゃんとしては街の空気にちょっと不安を抱いていた。
同じアメリカ国内とは言っても流石に他の州から難民がなだれ込んで来て、治安が悪化しているのか、警察の他に州軍の後方部隊が重装備をして街のそこかしこに立っているのが見えているのが……。
とは言えイネちゃんたちは日本からの応援人員であることを示す腕章と身分証を持っているので、あれこれ聞かれた場合でも大丈夫だとは思うのだけれど……。
「ティラーさんやヨシュアさんも来られればよかったのにね」
「本当、なんでヨシュアは留守番するなんて言い出したんだろ」
「でも……なんだかヨシュア、この国の言葉の読み書きが苦手みたいだったから、そこが原因じゃないかしら」
「男だけ……言葉の、お勉強……」
とまぁこんな感じに女性陣だけで街に出ているわけである。
平時のサンフランシスコの日中なら、治安はさほど悪くないらしいのだけれど……今は有事の上に難民がなだれ込んできていて、ゴードンさんから聞いた話だと略奪や暴行も毎日のように起きている……というか耳に入るくらい起きていると言ったほうがいいのか、毎日のように起きているなんて、それこそ日本だろうが起きてるだろうからね、うん。
しかもなんというか、イネちゃんとロロさんは明確に近寄りがたい雰囲気を醸し出しているのだけれど、他の面々が武装もなし、更には容姿端麗、ウルシィさんなんて結構布面積が隠す分はあるけど、結構露出が多めだからイネちゃんはお休みのはずなのに周辺警戒しなきゃいけなくって気が抜けないのであった。
……いやまぁ、そのへんのチンピラが言い寄ってきたところでミミルさんとウルシィさんはヨシュアさん一筋だし、リリアは男の人に対してのハードルがタタラさん基準で、治安悪化しているところで女の子を狙う人になびくことはまずない……というかリリアって相手の悪意には結構敏感だから、まず断ると思う。
そうなると問題は……。
「建物がどれも高くて、すごく目が回りますぅ……」
標的にしてくださいと言わんばかりにちみっこで、警戒心なし、人を疑うことはするけど簡単に騙されやすいであろうカカラちゃんだ。
女性陣でもハイロウさんは目立ちすぎるということと、地域によって大きく違う言語に興味を持ってくれたおかげでヨシュアさんの英語特訓に参加してくれたし、キャリーさんもあまりに詰め込まれているのを見かねてか残るって言い出してくれたので大丈夫……あ、キュミラさんは今回最初から不参加だからそこは全然大丈夫。
あ、後キャリーさんの護衛なのかずっと無言のままジャクリーンさんがついてきてくれているのだけれど、今はキャリーさんが安全圏にいるからか、それともただ単に観光したかっただけなのか……しれっとイネちゃんたちの輪の中に入ってるんだよね。
というわけなのでここは……。
「ねぇ、ジャクリーンさん」
「え、なんでしょう?」
「治安、あまりよくないみたいだからカカラちゃんのこと、守ってもらっていいかな。武器を使わないで相手を無力化できる実力って考えたら、イネちゃんかジャクリーンさんの2人しかいない感じだし」
「は、はぁ……でも魔法、使えますよね?」
「使えるけど、使わないほうがいいと思うからね。一応こっちに手を出すまでは犯罪者ではないわけで、民間人に魔法を使ったなんてなるといろいろ面倒になると思うからさ」
「あぁそういうことですか……地球には魔法がないんでしたね。魔法のような道具が大量に普及しているのに不思議なことです。分かりました、彼女たちが魔法に頼る前に無力化すれば良いのですね」
「うん、素手でね?」
「…………わかってますよ?」
今の間はナイフ使う気満々だったよね。
ジャクリーンさんは体術と短剣術を使う人だから頼んだのだけれど、ちょっと不安になってきた。
ちなみにロロさんに関しては今恋愛とか異性交遊とか興味が全くない上に、単純に銃を使われたとしても今現在も何故かフルプレートの上に盾が背中にちゃんとついているのでこれっぽっちも心配する必要がない感じなのでイネちゃんは大丈夫だって判断しただけだよ、うん。
「でも……やっぱり戦争中だからかな、お店もところどころしまっちゃってるね」
警戒のお話が一段落したところでリリアのつぶやきが聞こえてきた。
「物流、滞る……から」
「主食となる小麦とかの流通がね、アメリカは大陸と直接貿易してないからこういう時に打撃を普通に受けちゃうんだよ」
むしろアメリカが国内物流を滞らせるレベルの戦闘をしている辺り、グワール率いるテロリスト連中は凄いと言えるのだろうとは思う。
それが例えオベイロンに全頼り状態で、火力面で解決してしまった現状だと敗戦に一気に傾いたとしても、一時的とは言え地球1番の超大国相手に善戦したわけだから、敵とは言え称賛されてもいいのかもしれない。
しかしながら今、その影響をモロに受けているイネちゃんたちとしては称賛どころか罵倒したい気持ちでいっぱいである。
「うーん、ファストフードどころかジャンクフードのお店すらしまってるとか……これ本格的にシーフード専門店とかじゃないと開いていない可能性とかありえそう」
「うー……せめてレシピ本とかが手に入ればぁ……」
まぁ、レシピさえあればリリアは美味しく調理してくれるだろうけれど……それはそれでサンフランシスコに来た意味がなくなってしまう。
「まぁ、本屋は開いてると思うけれど……」
材料に関しても、最悪軍から融通してもらえばいいとは思うけどそれはそれで帰国が遅れることになりそうなので避けたいよね。
「綺麗な銀の髪……もしかしてイネちゃん?」
街を見渡したタイミングで、1人のお婆さんにイネちゃんが話しかけられた。
なんだろう、イネちゃんもアメリカに知り合いはいないと思うのだけれど……でもお婆さんはイネちゃんのことを知っているみたいだし、特徴として銀髪を指摘してきた辺り直接会ったことはないと思うけど。
「ちょっと母さん、会ったこと無いんだからわからなくて当然でしょう?ごめんなさいねー、私たちは日本から送られてくるメールと写真で一方的に知っているっていう感じだから。わからないわよね?」
お婆さんの後ろから走ってきた女の人が説明してくれたけれど……。
「もしかして……ルースお父さんの?」
「Yes!ルースの奴はいないのかしら」
あぁそういえば、ルースお父さん家族が避難してきてるって言ってたっけ。
東海岸側出身らしいけど、オベイロンが出現してすぐにこっちに避難したって聞いていたような気がするし。
「ルースお父さんは多分まだ異世界……かな、戻ってきても日本からこっちに来るにはちょっと難しいと思いますよ?」
「No!そんな硬い言葉遣いはいらないわよ!」
「そうねぇ、あのルースがお父さんなんて呼ばれてるのはちょっと信じられなかったけど……私たちのこと、本当の家族だと思っていいのだからね」
そう言って2人はイネちゃんに抱きついてきた。
「えっと……これってどういう状況?」
まぁ当然イネちゃん以外の面々は困惑するよね、イネちゃんだって困惑してるんだから。
「あらごめんなさい。あなた方は?」
「異世界の人たちで、イネちゃんの友達だよ。戦友と呼ぶ方が正しいのかもしれないけれど、戦闘以外でも普通に仲良くしてるから……あぁそうだ、お婆ちゃんたちはサンフランシスコの美味しい食べ物、知らないかな。皆で街に食べに来たんだけど……」
「戦い……ルースの奴!こんな可愛い子たちに戦わせるなんて!」
おや?
「もう母さん!ごめんね、母さんはあまり軍とか好きじゃないから。それと美味しいお店でしょ、私に任せなさい!」
このあとルースお父さんの家族にめちゃくちゃ歓待されたのだけれど……ちょっとスマホで写真とって当のルースお父さんに送りつけて見たら……。
『元気そうで良かった、俺なら今コーイチのパンで帰ってきたってことを実感してる最中だ、夜中だけどな!』
そういえば時差があるんだった。
ともあれ、ルースお父さんも心配していただろう家族の様子に関して教えられたのは本当に良かったよね、家族の安否ってそれだけ重要な情報だし、本当、良かった。
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