第254話 イネちゃんと古戦場
「うーん……何をどうしたらこうなるのかね」
水源とされる場所に到着したイネちゃんとヨシュアさんは、気泡が重い音で破裂している池のような場所のそばに立っていた。
なんというか毒々しいというかヘドロというか……いやヘドロのほうがこれまだマシじゃない?って思うような、そんな感じになっている。
「これを浄水できるって浄化の奇跡すごいねぇ」
「それでも煮沸しないと細菌とかが多いみたいだけどね、ここが綺麗だったとしても生水は流石に無理だと思うよ」
「流石に生水は避けたいかなぁ……大陸や日本じゃないわけだし。で、これ直接川みたいにして流れてくれるのかな、ヘドロよりひどそうなんだけど」
さっきから見える気泡が破裂する音が重すぎてイネちゃんちょっと心配になるんだけど。
「一応表面だけだからね、ほら、水をもらった場所には流れてるでしょ」
そう言ってヨシュアさんが指差す方向はなるほど確かに、ヘドロというには失礼な程度にはちゃんとした流れになっている。それでも気泡がところどころで破裂してるのが見えるあたり汚染のひどさがうかがい知れるけど。
「さて、これだと畑に流すにはちょっとためらっちゃうよね、1度地下水にするにしても先に浄水しておきたい気がする。ただ浄水施設を動かすにはカカラさんが必要なわけで……困ったなぁ、常駐する必要があるのか聞いておくべきだった」
そんなに離れているわけではなかったけれど、それでも常に行き来できるかと言われると首をかしげちゃうような距離だったので常駐が必須となるとカカラちゃんを1人か、護衛のために数人常駐させる必要が出てきちゃうので困ってしまうのである。
「ともかく近くまでは水を引いていいんじゃないかな、水源の水量に問題がなければだけれど」
「あ、そっか、それ必要だったね。ヨシュアさんありがと。調べてみるよ」
湧水として出ているのはいいけれど、それは地下水の水量が十分だからってことだしね、そこを調べずに無計画で川を作るのは水が枯渇しちゃう可能性があるもんね、完全に失念していたからヨシュアさんナイス。
そう思って調べてみるとどうやら地下に結構な空洞があって、そこにかなりの水量の川があるらしくイネちゃんの感知能力でも全貌を把握するのは結構な時間がかかりそうな感じだった。
そしてそんな地下空洞に、地形以外の、その上小動物でも無い結構な大きさの生物を感知してしまってイネちゃんは少々首をかしげる。
「うーん水量は多分問題無い……というか地下の川を地上に持ってくるだけで良さそうなレベルだけど、その地下の川にちょっと気になるのが居たかな」
「居た。ってことは生物ってこと?」
「まぁ多分。なんというかちょっとわかりにくいんだよ、生命反応にしてはおかしいというか、魔力感知にしても反応が無いし」
実際に確かめないと判断に困る感じで、それができるのはおそらくイネちゃんだけなんだよねぇ……となるとやらざるを得ないか。
「ちょっと確認してくるから、ヨシュアさんはカカラちゃんに確認してきてもらっていいかな、浄水施設には常駐する必要があるのかないのかって」
「大丈夫かい?」
「まぁ、イネちゃんがダメだった時点で大陸に撤退してそれこそココロさんやヒヒノさん、ササヤさんを連れてこないといけないレベルになるからさ。死ぬつもりはこれっぽっちもないし安全第一の確認して、処理が必要そうなら1度戻るよ」
「うん、できれば確認だけで戻ってきてくれると嬉しいけどね。イネしか地面に潜れないっていうのもわかるけど無茶しないでさ」
無茶では無いんだけどなぁ……まぁイネちゃん以外にとっては地下洞窟の探査なんて装備や準備もなしにやるのは無理無茶無謀のレベルなのはわかるし、リリアを心配させるのはイネちゃんの本意ではないからね。
「じゃあとりあえず行ってくるよ、ヨシュアさんも確認お願いね」
「うん、イネも行ってらっしゃい」
お互い見送る感じに手を振ってから、イネちゃんは地面と同化する形で潜って行った。
最初にこれをやったときは装備を連れて行くことができなかったから裸になったんだよなぁ、今では慣れて自分の装備だけなら関連付けして一緒に潜れるようになってるから安心だけど……あの時は本当切羽詰ってたしなぁ、今思い返すと恥ずかしい。
『イネ、この水源付近は昔大きな戦いがあって、その上で毒を流されたってアルザさんが言っていたの覚えてる?』
「イーア?突然どうしたの」
『うん、それで今感知してる奴さ、その毒の元凶だったりしないかなって』
「魔法生物とかそんな感じ?錬金術があるし、ゴブリンが人工生命って点からなくはないと思うけど……それだったら何かあるの?」
『いやね、それなら私たちの浄化能力で無理やり浄化できないかなって』
ちょっとその手があったかとも思ったけれど、少し考えてから。
「一応ここは大陸じゃないし、正常に戻すしかできないから元の状態がわからないとリスクじゃないかな、元がもっとひどい状態で、それを地上に噴出させただけっていうならそれこそひどいことになるしさ」
大陸でなら最悪ヌーリエ様に全投げしてもよかったから多少の無茶が効いたけれど、今はムータリアスでヌーリエ様の力がどこまで有効なのかとか判断がイネちゃんにはちょっとつけるられない。
まぁイネちゃんの勇者の力はムーンラビットさんが言うにはヌーリエ様のものだし、多少のリスクには目を瞑れる気はしないでもないけれど、それはそれでイネちゃんのお仕事が増えるだけだしね、できれば最小限に留めてあまりムータリアスで目立つのは控えたい。
まだ生存戦争中みたいだからね、いろんな思惑に利用されるのは避けたいところで、イネちゃんがそんなのに巻き込まれたらリリアも飛び込んできちゃうだろうから流石にそこは避ける方向で考えたいのだ。
『うーん、それもそうか……ココロさんとヒヒノさんもそれで結構苦労してたんだっけか、ヒヒノさんは隠す方向には考えない人だったし』
「うん、イネちゃんも同様の勇者だってことで最初から多少の、そういう面倒は覚悟しているけれど率先して利用される明目を作ることもないかなって。イネちゃんたちはリリアの試験の付き添い兼護衛できているわけだしさ」
『……わかった、じゃあリリアにお願いされたときにしようか。面倒事に関してはわざわざ飛び込む必要は無いのは確かだけど、その必要が出たときは皆からお願いされるだろうし』
こういうのはバレないようにやっても、絶対どこかから漏れたりして面倒事になること受け合いだからね、できるだけ回避する努力はしていかないとよほど面倒なことになり得るんだよなぁ。
イーアとの話し合いが終わったタイミングで丁度空洞にたどり着くと、当然ながら光源もなく視力で状況を確認することができない。
とは言え迂闊にイネちゃんがライトを使って自分が光源になると、この空洞にいる生物が一斉に群がってこないとも限らないわけで……。
「……だからと言って真っ先に思い浮かんだ光源がチェレンコフ光はダメだよなぁ」
大陸ならセーフだとしても……いや大陸以外の世界だと、それこそコーイチお父さんの持ってたポストアポカリプスな世界観のゲームでもないと普通にあっちゃいけないものだからね。
幸いこの近辺は水源で水分はたっぷりある、つまりそれに群がられて消されないように熱を持った感じで、イネちゃんの力でそれを作って維持できればいいだけだから少々危険性があってもチェレンコフ光のようなものでなければセーフになる。
「ちょっと爆発っぽい感じになるけれど……コウモリさんとか居たらごめんね!」
洞窟のところどころをマグネシウムに変換し続けることで強力な燃焼を起こして光源にすると、短い時間ではあったものの洞窟の全体像が見て取れた。
イネちゃんは感知でその規模自体は把握していたものの、実際にこの眼で見たものは想像以上のひどさだった。
「あれ、なんだろうね……」
マグネシウムと水による反応の光が照らしたのはどす黒いような、深い緑色のナメクジやヒルのような……そんな何か。
『毒溜りとか、そう言ったほうが的確かも……少なくとも生命反応はあるけれど、あれを生きていると定義していいかは私にもわからないよ』
人工生命が兵器として消費されるムータリアスという世界の、それも歴史に残るようなひどい内容の戦場であったこの場所ならありえるのかもしれない。
少なくとも今、イネちゃんの目の前で川をせき止めるような感じにソレはこの洞窟の大部分にわたって占拠していた。
イネちゃんだけでも排除はできなくはないとは思う。だけれども浄化能力以外の手段で排除しようとすればそれは荒っぽい手段しか無いわけで……もしかしたらムータリアスが誇る奇跡ってやつで対処できる可能性は、浄水施設がそれで動いている以上高いと思うのでイネちゃんは当初の予定通りに1度戻ることにしたのだった。
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