第239話 イネちゃんと1VS10万
ちょっとこれは想定していなかったわけではないけれども……。
「ムーンラビットさん、減らしてなかったんだなぁ……」
どうやら足止めと混乱に注力していたようで、同士打ちに関してもあまり効果が上がっていなかったのか少しづつ大聖堂に向けて近づいているように見える。
正直、田畑が踏み荒らされてる時点で問答無用発砲してもいい気はするけれども、とりあえず私がやるべきことは……。
「城壁を作る。畑に入り込んでるのは仕方ないから城壁作った後に処理!」
シックは平野だし、うまいこと野戦ができるのならばそうそう負けることはないのだけれど、大聖堂以外の建造物は防戦に向いているとはとても言えないもので、今回のような直接近場に転送する形での奇襲に弱い。
これもヌーリエ教会の思想が影響しているので修正するとかは今回の事案を受けてもないだろうけれど、来るもの拒まず精神が裏目に出ることは多いんだよねぇ。
『じゃあ範囲の探知は私がやっておくから、イネは……』
「うん、とりあえず迎撃、探知が終わり次第勇者の力で一気に城壁の形成をするよ」
流石に単騎で平野を埋め尽くす敵を全部相手にできるほど、私はそれほど器用でもないし、まとめて殲滅する手段はあるけれどちょっと大火力すぎるから畑に被害が出ちゃうもんなぁ。グレネードを空中爆発させても農作物への被害は結構深刻だからね、うん。
「くそ!人を惑わす悪魔がいなくなったと思ったら今度はなんだ!?」
「ゴブリンを前に出せ!それで倒せるのなら問題はない!」
そういう叫び声が聞こえた直後、ゴブリアント1匹と、普通のゴブリンが数匹突撃する勢いで向かってきた。
正直、私に向かってゴブリンとか悪手以外の何ものでもないけどなにも知らない彼らの判断としてはわからないでもないよね、消耗したところで痛くも痒くもない戦力を使って相手の戦力判断ができるのならそれに越したことはないし。
でもまぁ、私からしてみればゴブリンとか遠慮なく肉塊にしてもにっこり笑顔にしかならないわけで……向かってきているゴブリンに向かって私は躊躇なくMINIMIの引き金を引いて、ゴブリアント以外を肉塊にさっさと変えると、左手でグレネードを取り、口でピンを抜いてから一気にゴブリアントに近づいて口の中にグレネードを突っ込んでから蹴り飛ばす形で距離を取ると大きな肉塊が爆発音と共に文字通り爆誕した。
「ば、化物……!?」
「失礼な、ゴブリン相手でもなきゃ口の中にグレネードを突っ込んだりなんてしないよ」
まぁ、鉛玉は撃ち込むけどさ。
左手でファイブセブンさんを抜いて相手の武器を狙って発砲、整備はしているけれど私の狙撃の腕はよろしくないのでこれでヘッショしちゃったらごめんね?
そんなことを思いつつも私の作った城壁の内側にいる人たちの武装を解除しつつ、適度に負傷兵を量産していくと。
「く、くるなぁ……!」
子供と思われる兵士が目の前に現れた。
「少年兵かぁ……私が言うのもアレだけど、相手さんはもうこれ亡国並に疲弊しちゃってるんじゃないかねぇ」
「黙れぇ!この……悪魔が!」
うーん、この……大陸も結構な宗教文化圏だけれども、相手さんも大概というか、地球でいう古代ヨーロッパみたいな感じがする。
ヌーリエ教会って宗教なのに資本主義は理解してるし拒否するつもりもない、それに個人を尊重する価値観を持ってるからこそ、王侯貴族も元気だし地球側との交渉も比較的すんなりと行ったわけだからね。
「別に悪魔でもなんでもいいけれど、まだ戦うつもりなの?あなたの上司さんはあなたを見捨ててるみたいだけど」
私が指差す方向に、何やら詠唱っぽい動作をしている豪華な装備をした人がいるわけで……。
「貴様らの犠牲は無駄ではないぞ!フレアバースト!」
うーん、漢字にすると核熱爆発?流石に本当に核だとすると私もちょっと危ないかもしれないけれども……。
「そ、そんな……」
こっちはこっちで見捨てられるとは思ってなかったのかな?
新兵あるあるだけど……私まで見捨てたとしたら、私の目覚めが悪くなるか、仕方ない。
「よっと……とりあえず、こんな感じ……かな!?」
こういう時にコーイチお父さんの持ってたポストアポカリプス系のゲーム知識が役に立つとは思わなかったよ、急場の核シェルターとして現実のものとゲーム的なものを組み合わせて半球上の防護で少年兵もまとめて防御を固める。
私だけなら地面に潜ればノーダメージ余裕でしたができるのだけれど、守らずにいて少年兵の丸焼きを見ることになるくらいなら多少のリスクは受け持ったほうがマシだからね。
『爆発……3、2……今!』
イーアの声とほぼ同時に衝撃が私と少年兵を襲ってきた。
「うわぁぁぁぁぁぁ」
少年兵は恐慌状態というか……ただただ叫んでいるけれども、なんというか私としては想定していたほどの衝撃は来ていない。
ムツキお父さんやボブお父さんに連れられて見に行った演習の時のほうが圧倒的に音が揺れるというか……衝撃の規模が大きかったような気がするのだ。
爆心地であるはずの私の場所ですらこれって、相手さんの奇跡って本当に破滅的な威力があるのだろうかと疑問になるし、逆に心配になってくるよ、こんな火力で生存戦争してたのって。
「ふはははは!建造物を更地にするほどの破壊力だ!無事では済むまい!」
いやぁびくともしないんですが。
私が複合チタン合金の上に地中深くの硬い岩盤層を展開させたからだろうか、熱風も来ているはずなのに暖房程度の熱しか感じない上に、さっきも書いたけれど爆風だってそれこそ迫撃榴弾のほうが圧倒的に伝わってくる程度のものしか感じないので、とりあえずは相手さんがやったか!とかば、ばかな!とか言い始めたら姿を現して無力化することにする。
その間にも勇者の力で感知能力で状況を確認しておくと、どうやら私の作った城壁に戸惑いっている感じではあるけれど、ところどころではしごをかけるなりで登ろうとしている人もいるらしく、正直なところこんなところで足止めを食らっている暇はあまりないように感じる。
「ふぅ……これだけの爆炎だ、流石に悪魔とてやれているだろう」
よし、やったか!?相当を頂いたところでシェルターを解除っと、後で畑が作れない事態にならないように地中に戻しながらMINIMIで声の方向を狙い、姿を確認出来次第引き金を引く。
味方ごと敵を撃つ外道に人道を叫ぶ権利はないので、こいつに関してはもうMINIMIで処理して……その後どうしようかな。
相手の被弾ダンスを確認してから引き金から指を離して振り向く。
「あなたを殺そうとした相手と、守ろうとした相手、どちらを頼りにするか決めたら行動してね。私を頼りにするのなら武装解除して大聖堂まで走って、武装してなきゃ投降したとみなして衣食住は保証できるから」
少年兵に向かってそれだけ言うと私は城壁を乗り越えられそうになっている場所に向かう。
流石に城壁の長さもあるし、端っこはあるものの現時点でそちらに流れる様子は確認できていないのでよしとしつつ、城壁の中心部を少し脆くしておいてからはしごのかかった部分を重点に補強していく。
ちなみに脆くした部分にもはしごがかかっていたので、そこははしごに乗った人の体重で城壁が崩れて穴が空いた。
当然そこを広げてこちら側になだれ込もうとしてくるけれど、進行方向、場所を限定したことによって私が防衛しやすくしてあるわけで……。
『入れ食いだねぇ』
「入れ食いだよ」
先ほどの少年兵のことを踏まえてミンチにしてしまわないようにしてMINIMIからP90に持ち替えて適当に掃射していく。
完全殲滅すると私の目覚めが悪くなる、という中途半端な覚悟を貫くのならこのスタイルが1番楽というわけだ。
『でもあのゲスみたいなのが居たら、負傷兵を助けようとしないんじゃない?』
「可能性はなくはないけど、相手は10万。ってことは指揮官はその1割としてもその場で9割の味方の士気を下げつつ裏切りの可能性を高めることを大々的は流石にしないんじゃないかな。あんなゲスばかりでそれが常識っていうのならあの子のあの反応はちょっとおかしいし」
あの子が特別という可能性もなくはないけれど、とりあえずは目の前の状況として負傷兵を助けようとして結構混乱しているので私の考えのほうが合ってる可能性が現状では高い。
「一体あれはどういう奇跡なのだ!音の奇跡なのか!?」
銃を知らないのがわかる叫び声が聞こえるあたり、この人らは錬金術師と直接関係ないのかな。
『それか錬金術師が教えていないかじゃないかな、ゴブリンやマッドスライムもいるわけだし』
「無関係じゃないとは思うんだけどね、意図的に伝えていないのか、ただの情報伝達不足なのか判断できるだけの情報なんてないから、今私たちがするべきはこのまま相手の負傷者を量産して戦争継続不可能になるまで追い込むことくらいだよ」
まぁ指揮官を全員ヘッショしたりすれば終わりそうな気もするけれど、どんなに腐った国家だろうが優秀、有能な人っているもんだしね、むしろいないととっくに亡国になってるわけだし。
そういう人が今この戦場にいないとも限らないわけなので迂闊な攻め方ができないのが私たちが課せられてる縛りだよなぁ、でなきゃムーンラビットさんとササヤさんが絶対もう終わらせてる。
「正攻法でかかるな!時間を稼げばいい!」
その叫び声が聞こえた直後、相手の動きが変わった。
マッドスライムを壁にしつつゴブリンを前にだして人間を後退させ始めた。
「何かするつもりだろうけれど……うん、ともかく吹き飛ばして……いいかな?」
まだ畑の麦で無事なところが結構あるからイネちゃんが吹き飛ばすのはちょっと躊躇ってしまうのだけれど、このまま放置しててもマッドスライムの毒とかで食べられなくなっちゃうよね……。
『土は新たに耕すことができますし、麦は種を植えればいいのです。全てを奪われてはそれができなくなってしまいますので……』
あらヌーリエ様。
ということは爆破しちゃってもいいのかな。
『はい、むしろ早くしないともっと大変なことが起きそうな気がしますので……』
大変なこと……というのはよくわからないし、明言しなかったってことはヌーリエ様も判断しかねるということだろうから今は気にしないでおいて、大規模破壊の許可をもらえたので左手でダネルさんを持ち、通常の炸裂弾を最大装弾数分連続発射してから、爆音を聞きつつ右手のMINIMIを1度離してリロードしていく。
マッドスライムが元は人間である可能性はなくはないけれど、現時点であまりそれを気にする余裕は……なくはない、か。
『大陸の方なら基本的にはそのような変化は受けないように私はしていますが……ご遺体である可能性は否定できないです』
ふむふむ……ヌーリエ様の加護でそのへんは保護されてたんだっけか、状態異常だのなんだの。
ともかくあれだ、それならそれで爆葬ってことでマッドスライムの媒体にされた人は我慢してもらおう。
そう思いつつ、私は目の前の防護を固めて行くのであった……この後、どんな攻撃が来るのか知らずに。
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