第231話 イネちゃんと日常
イネちゃんたちは街道をヌーカベ車……でいいよね、今までわからないから寝台車両としか書いてなかったけど、馬車、牛車って感じだしヌーカベ車でいいよね?ともあれ何か事件が起きるわけでもなく、ゆっくりとした速度でトータの街へと進んでいるのであった。
こう、何もない時間が続くと何とも言えない不安な感覚を抱くのはイネちゃんが最初にお墓参りして以降ゆっくりした時間が少なかったからだろうか、ヴェルニアとコーイチお父さんのお家でぬくぬくしてた時くらいしか気が緩んでなかったからなぁ。
最近は慢心、油断って感じの動きをしては居たけれど、できるだけイネちゃんに敵の攻撃を集めてほかの人の生存率をあげることに集中していたからあまり気が抜けてなかったんだよね、守れなかったことのほうが多いし、常に何かしら考えてた気がする。
その点今はキュミラさんが屋根の上でクッキーを食べながら警戒してくれてるし、ティラーさんも暇だからってそれを補助する形で警戒してくれてる。
正直イネちゃんも警戒してたほうが気持ち楽だったんだけども、ずっと気を張っていただろうから俺たちに任せろとか言われちゃったんだよね、ロロさんも直前が故郷の問題だったからイネちゃんと一緒に一応は装備品の整備をしていたりするのだけれど……。
「勇者、もう、4回目……」
うん、ロロさんの言うとおりお互いの装備を2人で確認しあいながら分解組立磨き……イネちゃんの方は弾薬詰めとかも含めてやっているもののそれでももう4回目なのである。
「そうだ、リリアが思考、読んでたこと……」
「あぁそうだ、ありがとロロさん。リリアー今いいかなー」
あまりにのんびりとした空気ですっかりそのこと聞くの忘れてた。
「んー流石によそ見はダメだからできれば横に来て欲しいかな」
ヌーカベ車でも流石にそのへんはしっかりしないとダメか。
いやどこかで中世の交通死亡事故は自転車が開発されるまで馬がトップだったっていうし、意外と大陸でもヌーカベに轢かれてっていうのはあるかもしれない。
「わかったよ、流石に通行人をーってのは避けたいしねぇ」
「この子は良い子だし、人懐っこいほうだからそれは大丈夫かなぁ。まぁ言うこと聞いてくれるかは別問題だけど……そういうのは父さんが凄いんだよねぇ私なんてまだまだひよっこもいいところだし」
ぬぅぅぅぅぅぬぅ。
「そんなことないって?ありがとうね」
ぬぅぅ。
普通に会話していらっしゃる。
ヌーカベって普通に人語を理解するんだなぁ、声帯が人と違うだけで知能指数はすごく高いのかな。
イネちゃんが寝台車両から御者席に移動したのを確認してから、リリアの方から会話を始める。
ちなみにロロさんは寝台車両の、御者席に出る場所の側に座ってる。流石に御者席に3人は座れないんだよねぇ、ロロさんのサイズなら座れなくはないんだろうけれど、やっぱきつい気がするし。
「それで……なんだっけ?」
「ロロさんの村を出発するとき、普段は殆ど使わない思考を読む力をリリアがなんで使ってたのかなって」
「あぁそれね、父さんの生育魔法を見て私は半人前にも慣れてないんじゃないかって思ってさ。力自体は婆ちゃん譲りで膨大な魔力がある……自覚があるんだけども、それを殆ど自分で制御できてないから、少しでもうまく制御できるようにしなきゃって思って……思考を読むのは結構簡単だから練習にちょうどいいかなって」
なる程。……なる程?
「えっと、つまり……ただの練習だったってことかな」
リリアは首を縦に振る。
答えは簡単、シンプルな答えだったわけだ、多分イネちゃんの勇者の力と同じ感じにリリアも力を使い込んで馴染ませるっていう練習をしたんだろうね。
「練習、大事」
「もしかしてヌーカベと会話するときも使って……」
「ううん、それは違うよ。もしそうだとしたら父さんがヌーカベと意思疎通できるのが説明できなくなっちゃうし」
ヌーリエ神官の技術だった。
「でもそうなるとリリアはあまり休む時間がなくなっちゃってるんじゃない?道中の食事もリリアが率先して作っちゃうし、ヌーカベの手綱握れるのがリリアだけだからイネちゃんたちが手伝えるのってそんなにないけど、頼り切ってる感じだし」
リリアがお料理が好きなのは知っているけれど、流石に5人分の食事を作るのは結構な労力だから毎日っていうのは負担になっている気がする。
いくら練習とか修行だからって根を詰めすぎても逆効果になっちゃうからね、そういう細々とした部分はイネちゃんたちに投げてもらいたい。
「んーでも私料理できないと逆にムズムズするというか……完全に趣味で息抜きだし」
「それじゃあ火起こしとかはイネちゃんたちに言って、せめてそういう細かいところは任せてもらっても全然構わないんだからさ」
イネちゃんがそう言うとロロさんが首を縦に振っているのが横目で確認できる。
ロロさん、リリアにはそれ見えてないよ。
「……わかったよ」
リリアはしょうがないなぁって感じの笑みでそう言った。
「むぅ、なんだかイネちゃんのほうがわがまま言ってる感じの返事だなぁ」
というわけでイネちゃんのほうもからかう感じの口調でそう言っていたづらって感じの笑みを浮かべる。
そのイネちゃんの意地悪な笑顔を横目で見たリリアと、イネちゃんたちを寝台車両の中から見ていたロロさんが吹き出すように笑うと。
「なんだか楽しそうだな……」
「クッキー、美味しいッスよ?というかなんでこれクッキーって名前なんッスかね」
「いや知らんが……」
そういえばイネちゃんもなんでクッキーっていうのか知らないな、ステフお姉ちゃんなら答えが返ってきたかもしれないけれど、それをイネちゃんに期待されてもなにも出ないのだ。
「んー私が調べたとき、あっちの世界のどっかの地域の言語が元になってるとかなんとか。ケーキがなまってクッキーじゃなかったっけかな、レシピ調べたときに1回見ただけだから違ってるかもしれないけど」
予想外にリリアから答えが返ってきた。
そういえば検疫所……もうあそこは空港とかの税関っぽい感じに改修されつつあるらしいので検疫所でいいよね。まぁあそこでレシピを調べていたとき、どういうお料理かも調べてたっぽいね。
「リリア、そういうのも調べてたんだね」
「どういう料理か知っておかないと、レシピだけだと結構違ってきちゃうこともあるからね。……父さんはレシピだけで完全再現しちゃうから、私はまだ料理の腕も父さんには全然かなわないな」
「いやリリアも普通にプロ並だからね?」
ジェシカお母さんのお料理も好きだったイネちゃんでも、最初に開拓町の教会で食べた食事がすごく美味しくて驚いた記憶しかない。
「そうかなぁ……」
「うん、だからさ……このクッキー、ちょっと焼いてみてもらっていいかな。こういうサクサクした感じのお菓子って大陸だとあまり食べてないから、少し恋しくなっちゃった」
イネちゃんがそう言うと、リリアは少し笑顔で。
「……うん、じゃあちょっともらってもいいかな」
あーんと口を開けたリリアに、イネちゃんは懐にしまっておいたクッキーをリリアの口に入れてあげる。
「ん……うん……」
なんでクッキーを食べるだけで艶っぽい声を出すんですかねこの子は。
「うん、結構砂糖と……これはココアかな?」
「あー普通のクッキーでもココアパウダー使うんだ、ジェシカお母さん……ってココア普通にあるんだね、大陸」
「これなら再現できると思うよ、トータの街なら材料も手に入るだろうしトータの教会についたら炊事場借りてやってみようか」
「大丈夫なの、それ」
「トータの神官長さんは結構自由な人だから、大丈夫だと思うよ。父さんの料理に感激して、子供のときの私の料理も褒めてくれるような人だから大丈夫だと思う」
知ってる人なのか、なる程それならリリアの楽観してる言葉もよくわかるね。
「ロロも、楽しみ」
「私にも分けてくださいッスよ」
なんというか、こういう平和なのが本来の巡礼の旅なんだろうなと、ロロさんとキュミラさんが話題に入ってきたところで思いつつ、イネちゃんは白湯を用意しに寝台車両に戻ったのであった。
平和って、いいね……。
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