第213話 イネちゃんと異世界の事情
生臭い原因はムーンラビットさんを含めた夢魔の人たちが5分程度かけて取り除いてくれた。
その後にイネちゃんたちは集会場の中で先ほどムーンラビットさんが指揮官の頭の中から直接みた異世界の情報について精査するための簡易会議が行われているのだけれども……。
「リリアの逆鱗に触れたあの連中が本隊で間違いないっぽいな、というか異世界じゃ資源確保の部隊だったらしいんよ。自分たちの世界の資源で取りやすい場所のものは大半取りきってしまったから、ゴブリンを廃棄するために使っている世界……つまりは私らの世界大陸に資源回収を名目に進軍してきたってことやね」
「となると最初のと2回目のは威力偵察でいいのかな」
「それと座標取得の橋頭堡部隊の意味があったみたいやね。直接飛べるようにってことやろ」
「しかし異世界の資源ってのはそんなに少ないのか?」
これはティラーさん。
純粋に聞きたかっただけらしくそこまで真剣な表情でもないけれど、割と確信に触れる質問だったらしく。
「あちらさん、異世界ではうちらみたいに亜人種と人間は仲が良くないみたいでな、大陸で言うところの魔王戦乱時代に似た状況が100年超続いているらしくて資源の消費が凄まじいみたいなんよな、その上で大陸のように資源が回復しないから枯渇の危機に瀕しているわけやね」
このムーンラビットさんの説明にこの場にいる人たちは軒並み口をポカーンと開けてる。
気持ちは大変よくわかる、勝手に喧嘩して他の世界に迷惑かけて奪おうなんて言ってるんだもんね。
地球で言うところの中世植民地支配思想みたいな感じかな、似ている気がするからイネちゃんの中ではそうだということにしておこう。わかりやすいし。
「そんな迷惑極まりない理由で大陸を攻めてきたわけだね」
「せやね、それも決めてになったのがココロとヒヒノがあちらの世界に行ったことに起因してるらしいんよ」
ん、どゆこと?
疑問に思ったのはイネちゃんだけじゃなかったみたいでココロさんとヒヒノさんのことを知っているほぼ全員が首をかしげてムーンラビットさんの次の言葉を待つ。
「異世界のヌーリエ教会みたいな組織、修道会に合流したみたいでな、破竹の勢いで修道会の勢力が戦場の版図を塗り替えて行ったのを見て貴族が焦りを感じ、強力な武器を作るために資源を確保して、全軍に供給して巻き返しを図った……って感じやな、もっともあの指揮官、貴族だって言ったが下っ端もいいところみたいやからなぁ、そこまで詳しい情報は得られなかったんよ、このへんの詳細はあいつも知らんかったみたいやな」
「情報が途切れちゃうのか……精査するのには致命的じゃないかな」
「イネ嬢ちゃんの言うとおりやね、正直情報が中途半端で私らができることはそれほど増えていないんよ。あの子……ヌーリエ様が頑張って異世界とのゲートを構築してくれているみたいやし、どのみち時間をかけて取り組まないと根っこを駆除することができないってことやね、情報収集するにしても、反撃するにしても、な」
「でもなんで姉ちゃんたちが活躍して同じ陣営であるはずのアレが大陸に攻めてくるの?」
リリアがついに指揮官を指差してアレとか言い出しちゃった、いやまだ怒りゲージが残ってるんだろうけれどさ。
「そこは単純やねぇ、あれだけ強いのがいなくなった世界なら余裕やろーみたいな考えで資源確保に乗り込んだらリリアとイネ嬢ちゃんがその場に居合わせてしまったってだけやね。まぁ今回は私も参加こそできなかったにしろ今いるわけやし、あいつらにとっての最大の誤算は、大陸の戦力を舐めすぎたことやね」
まぁ近代、現代戦力が特定人物相手とは言っても勝てなかった世界だしねぇ、魔法……いや相手さんの言い回しから奇跡か、超常的な力を行使できるとは言っても総合的にはせいぜい中世程度の技術力だろうし、無理無茶無謀コンプリートしすぎててどうしようもないよね。
「ともあれ2人には言っておこうと思うんやけど……あの貴族もな、ヨシュア坊ちゃんのこと知ってたみたいよ。どうにもひと悶着あって1度は貴族に保護されたところにあの子らと1発戦闘かまして貴族のところから逃亡したのも、貴族勢力が大陸に目をつけた原因っぽいからな」
「自分たちが1番強いと思っていたのにそれ以上の強さを立て続けに見せられて焦ったのかな」
「それもあるだろうが、1番欲したのは遺伝子っぽいな。手篭めにして自分の子供を産ませれば将来安泰だとでも思ったようでな」
あぁ、そう言われると納得できなくはない。
特に相手が古代から中世のヨーロッパ貴族的思考をするのならむしろそういう思考が常識か、となれば根っこの部分に大陸を植民地にすればー的なものもあったのかもしれないね。
「ま、どのみち貴族の思惑はこれで頓挫したわけやけれど……いい方向に動けばええが、損害に激昂しないとも限らんから教会のほうでもしっかり防衛シフト組まんとあかんなぁ……めんどい」
「婆ちゃん、本音、漏れてる」
「別にええやん、このテーブルには私とイネ嬢ちゃん、それにリリアしかいないわけで……」
「はっはっは、私もいたのだけどねぇ。ようやく戦闘準備が整ったところだがちょっとまずいことになってそうだったからね、ちょっと村の外まで避難して遅れてしまって申し訳ないよ、本当」
うぉ、ギルド長さんが生えた!
あぁいや音もなく近づいてきていただけなんだろうけれど、集会場に入ってくる音がないのはどういうことなのだろう……。
「ともあれ軍隊が本格的に動いたんだ、何らかの手段で情報をやり取りしている可能性は極めて高いだろう」
「それならむしろええんやけどな、こっちにはまだココロとヒヒノみたいなのがゴロゴロしているって情報が渡るわけやし。むしろそれができていない場合が1番怖いんよなぁ、救出だーとか言って大軍で来られてもただただ面倒やし」
「しかし来るかね、こうも連続して殆ど完封と言っていいような対処をされているのに」
「完封っていうにはちょいと被害が大きいな、それと対処されたのかどうか、あちらさんは転送の目印程度の情報しかない可能性もあるんよ、あらかじめ連絡が途絶えた後、時間が経てば失敗か、独断で動いていると判断するようにしてるかもしれんしな、それだとより大きな兵力でとなる可能性は否定できんよー」
「そこのところ勇者殿はどう考えるかね」
「ふぇ!?」
いきなりお話を振られてびっくりしたら変な声でた。
もう、生臭い匂いがなくなったら急にお腹が空いてきたんでリリアの料理食べようとしてたのに。
「どっちの考えも正しいと思うかな、戦略としてはどちらもありえるし」
日本にいるときボブお父さんに教えてもらった歴史のお勉強の時に、地球の戦争の歴史とか戦術戦略の類に関してそれなりに教えてもらったからね、殆ど頭から抜け落ちてて頼られるだけの知識はないけど。
どちらも使われたことのある戦略と戦術だし、型にはまってしまえばどちらも莫大な戦果を上げることができる。
一概に戦略と戦術を比べちゃいけないものではあるけれど、過去戦略扱いだったものが現代戦だと戦術に収まってるなんてザラだしここではあまり区別せずに言っちゃってもいいよね。
「あっちの世界の知識は、案外役に立つと思うからイネ嬢ちゃんは思うところがあったらどんどん口出ししてくれな、大陸の歴史だと戦争周りがあまり起きていないもんで、結構戦略とか戦術関係は弱いんよ。このへん、勇者システムの弊害でもあるがおかげであっちの世界にも対抗できるのが皮肉よなぁ」
「勇者が大抵解決してしまうからねぇ、勇者自体に頼りきらないようにとムーンラビットさんが動いてくれて多少マシにはなったが……ギルドにもそのへんのノウハウは是非とも欲しいところだね、傭兵連中の訓練に使えそうだ」
「いや傭兵さんにその能力付いたら割とパワーバランスに影響でませんかね。まぁ多分冗談だと思いますしいいですけど……あっちの世界でも何もない場所から敵が出てくるなんて事象は存在しないから付け焼刃程度になると思いますよ?」
「別にいいんよ、それで。ようはこっちから乗り込む準備ができるまでの時間稼ぎでええからな」
「相手さんの事情は取り調べすればもう少しは入ってくるだろうからねぇ、今できることは我々の状況を安定させて迎撃できるようにするだけのことだからね」
……うん、伊達にこの2人は組織の実務トップなわけではないということか。
拾う場所と捨てる場所がはっきりしててすごい頼りにできる感じがしてイネちゃんとしてはとても嬉しい。
イネちゃんはあくまで1戦闘単位でしかないからね、しっかりしてる指揮官がいるとすごく戦いやすくなるし、他のところを気にしなくて良くなるからイネちゃんのポテンシャルを全力で活かせるようになる。
この2人がいる状況なら任せても……あぁでもギルド長さんはさっき指揮をイネちゃんに投げてきたっけ……ちょっと安心できない要素ではあるけれど、大丈夫になるよね、きっと。
「じゃあとりあえず……」
イネちゃんは自分の知っている地球の歴史を必要なところだけ踏まえつつ、戦略、戦術の歴史と防衛設備の種類について教えていったわけだけれど、すごく長くなるのでここでは割愛。
村で活用されたのはごく一部でしかないしね、日本のお城にあるような殺し間の概念を簡易的に防衛設備とその配置に組み込まれただけだからね、それだけでも長くなっちゃうし。
「えっと、難しいお話は終わったの?」
イネちゃんの渡した情報からムーンラビットさんとギルド長さんはあぁでもないこうでもないとお話を始めたあたりでリリアが会話に混ざってくる。
「まだ……だけどまぁムーンラビットさんとギルド長さんだけでなんとかなるんじゃないかな、区画整理のやり直しとかするかもだからこのあと大変かもだけど」
しかしまぁ議論はまだまだ続きそうだし、ここはゆっくりリリアのご飯を食べよう。
今議論を白熱させてる2人がそういう復興とか区画整理はやってくれるし、イネちゃんはアドバイザーくらいのポジションだろうからね、あ、このタコの酢漬け美味しい。
この時イネちゃんは気づいていなかったのだ、あの貴族さんの頭の中を見たムーンラビットさんが一言も帰還方法について言及していなかったことを……。
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