第209話 イネちゃんと復興の日々

 お偉いさんたちと村人さんが話し合って決まった内容は、もうあらかじめそうなるって決まっていたかのような速さで進んでいった。

 いやまぁ実際のところは最初から教会とギルドで共同事業的に進めていくって決めてたんだろうけどさ、ムーンラビットさんとギルド長さんのお話の進め方がそんな感じだったし。

 ロロさんが居た、元々村のあった方向へと森を切り開きながら今の村との中間地点にムーンラビットさん監修で教会の建築が始まっているし、ギルドに関しては山道からすぐに村に入れるように防壁と接続する形で建てる予定らしく、ちょっとだけ山を削って山の中に建物の一部を埋める建物になるらしい。

 らしいっていうのはイネちゃん、建築に関してはこれっぽっちも知識がないからであって図面を見せられてもちんぷんかんぷんだったからね、仕方ないよね。

 そしてそんなイネちゃんは今何をしているのかと言うと……。

「イネさーん、この木とか良さそうッスよー」

「んーこの木が倒れそうな範囲にイネちゃん以外に人とかいないよねー」

「私が見る範囲にはいないと思うッスけどー」

「うーん、曖昧すぎるなぁ……人が巻き込まれないようにイネちゃんのほうに倒れるようにやることにしよう」

「あーまーたそんなこと言ってるッス、リリアさんに言ってやるッスよ!」

「だったらちゃんと周辺調べてねー、キュミラさんがいい加減だとイネちゃんは巻き込まないようにってやるんだからさ」

「うーわかったッスよ……えーっと、村の方向には人が居る……っていうか丁度さっき倒した木をヌーカベにくくりつけてるところッスね」

「居たじゃない、まったく……」

 そんなやり取りをしつつ、イネちゃんは地面……というか大地に含まれている金属成分を持っている斧に付与してから木に向かって叩きつけると勢いよくカッターで紙を切るような勢いで木が切断されると、斧の形にえぐれた部分から木の自重で倒れて行く。

「たーおれーるぞーッスー」

 キュミラさんが叫ぶとヌーカベに丸太を載せていた人たちがこちらを見て感嘆の声を上げつつ見ていた。

 ずしーんと大きな音がして木が倒れた。

 ……とまぁこんな感じに開拓と整地のお手伝いに奔走しているのであった。

 襲撃どころか動物のほうも人が増えたことで警戒してくれて村の周辺から姿を減らしていたから、むしろお肉の調達に難儀するという皮肉な事態が起こるくらいだったからね、幸いにもまだ巨大タコの出現が頻度こそ減ったけれど続いているらしいトナからタコ肉が渡りハルピーさんたちによって運ばれてきているのでそのあたりの心配もしなくていいという、とても恵まれた状態での復興再開発って感じ。

 開拓要素も元々は人が住んでいた場所へ広げているだけなのであまり難しいことはなく、ムーンラビットさんの進めでイネちゃんも勇者の力の応用幅を広げる連中がてらこうして伐採やら整地を手伝っているわけである。

「おー相変わらずすごいッスね、イネさんのその能力」

「いやぁ、イネちゃんだってムーンラビットさんからできるんじゃないかって言われるまでは半信半疑だったんだけどね、あくまでできそうかなって感覚だけだったし」

 イネちゃんがさっき使っていた力は、ヌーリエ様がまだ大陸に姿を顕現させていたときに使っていたものらしく、イネちゃんの勇者の力がヌーリエ様と同質ならできるんじゃないかねーって感じにムーンラビットさんから言われていたもので、イネちゃんが知覚できる範囲の鉱物資源を手持ちの武器に付与……というよりは日本で言うところのダイヤモンド粒子を塗布するみたいな感じで強化できるものらしい。

 まぁそれだけならあそこまで切れ味が増すわけはないのだけれども、そこはイネちゃんが日本の知識でちょっと応用して日本刀のように焼入れっぽいものを力でやってから、身体強化魔法を使ってやってみたもの……なんだけれどここまでうまく行くなんてイネちゃん自身がすごくびっくりしてる。

「でも地面から金属引っ張るって危なくないんッスかね、こう空洞ができちゃうーとかありそうなもんッスけど」

「大丈夫みたいだよ、イネちゃんも原理はよくわからないけれど別のものに置き換えてるみたいだし、そもそもイネちゃんが使う量はそんなに多くないからね」

 斧の刃を焼入れ強化して、より硬い鉱物を塗布する形でしか使っていないから、実際のところキュミラさんの器具しているようなレベルの鉱物資源の減少は起きない……とは思う。

「そのへんは大丈夫なんよー、大陸の鉱物資源に関してはあの子の力で自然に生まれるようになってるかんな、いくら使っても10年もすればまた生まれるんよ」

「うわぁ!ってムーンラビットさんッスか、驚かせないでくださいッス」

「はっはっは、ただ労いに来ただけなんやけどなぁ。ま、そんなこんなで大陸の鉱物資源は貴重な輸出資源なんよ、ちなみに10年って言ったのはあっちの世界で言うところのレアメタルとか金な。鉄とかなら年で復活するんで適当なところ鉱山を活用させてもらって楽させてもらえてるんよー」

 突然何もないキュミラさんの真後ろの空間に姿を現したムーンラビットさんが笑いながらもそう言ってイネちゃんのそばに着地した。

「それって外交?」

「外交……って言ってええか、まぁそうやねぇ。こっちは資源に関しては無尽蔵と言ってええからな、あっちの世界としてみればパラダイスやろうし。ま、私が交渉している間はタダではやらんけどな、ちゃーんとこっちの安全を保証した上で何かしら譲歩をもらうってことにしてるんよ。今のところ条件飲んでくれたのはイネ嬢ちゃんが住んでた国と他の小さいいくつかの国だけやけど」

 無尽蔵の鉱物資源と食料を多少の譲歩で得られるとなるとよっぽどだよなぁ……むしろ世界のパワーバランスが大きく変わりそうなくらい。

 いや既に結構変わってたりするのかもしれないね、イネちゃんの住んでる町にあれだけの部隊が攻めて来てたわけだし。

「ま、イネちゃんが考えるべき内容じゃないよね!国単位とか無理!」

「うわっイネさんもいきなりッスね……」

「はっはっは、まぁイネ嬢ちゃんはココロとヒヒノと比べたら割と立ち位置が特殊やしな、むしろ考えないでいてもらいたいところなんよ。どちらの立場にも寄らない中立勇者としていてほしいってのが本音やねー」

 うわーそう言われるとすごく面倒な立場になりそう。

 しかも今その大陸側の立場で考える立場になるだろうココロさんとヒヒノさんは別の異世界にいるわけだし、うわぁ……どう考えてもやっぱり絶対面倒なやつだこれ。

「勇者の力をゲットした段階で面倒なのは確定やからそこは諦めてな。さてと、今日のところはこのへんで伐採は切り上げて戻ってきてな」

「ん、でもまだ木材が全然足りてないんじゃ……」

「足りてないが、イネ嬢ちゃんが全部背負う必要はこれっぽっちも無いしな、そこは今日到着予定の連中に任せて休んどきなー」

 そう言ってムーンラビットさんは手をふりふりしながら村とは反対側……ゴブリン災害のあった廃墟のほうへと飛んでいった。

 むー……言いたいことはわかるし、多分リリアも含めてのことだと思うんだけれども、力のことを教えてくれたのはムーンラビットさんだし、その影響でイネちゃんが結構雑用に駆り出されているということを棚上げされてる気がするなぁ。

 でもまぁ休んでいいって直接言われたわけだし久しぶりにイネちゃんは装備の点検しておくかな、最近まともにできていなかったし、寝台車両に積んだはいいけれどずっとしまいっぱなしになってるMINIMIとかXM109もお掃除してあげないといけないし……なんだか見つかったらそのへんもやめておけとか言われそうだけど、体は大きく動かさないしいいよね。

「うーイネさんお休みッスかー……いいッスねぇ」

 すると恨めしそうなキュミラさんの声が聞こえてくる。

「いやまぁ別にキュミラさんも休んでいいんじゃない?今は渡りさんとの連絡も殆どやってないし、イネちゃんとペアで伐採だとか整地やってたからやることなくなっちゃうからね」

「え、そうッスかねぇ、そうッスよねぇ、もう、仕方ないッスよねー」

 急に嬉しそうな声になった、キュミラさんちょろい。

 ともあれ急に降って沸いたお休みかぁ……。

「とりあえず、これはあの人たちに任せて村に戻ろうか」

「まぁ、材木とか私たちにはちょっと荷が……イネさんならできそうッスね」

「いやどういう想像したのかわからないけれど、イネちゃんはヌーカベみたいに運べないし、ササヤさんのように軽々持ち上げるとかもできないからね?」

「え、できないんッスか!?」

 そんな驚かれましても。

「イネー婆ちゃんこっちに来なかったー」

 キュミラさんに心の中でツッコミを入れたところで村のほうからリリアの声が聞こえてきた。

「廃墟のほうに行ったよー、イネちゃんに休めーって言って行ったから飛んでいった方向なら確実ー」

「うーん、ちょっと困ったなぁ、もう教会からの増援が来てくれたんだけど」

 そんなことを言いながらリリアはイネちゃんのところまで足早に近づいてくる。

 リリアって案外こういう荒れた道を難なく通るんだよなぁ、伊達にササヤさんの娘なことはあるのかな。

「じゃあちょっと呼んでくるッスよー」

「あ、キュミラさん別に行かなくても……」

 呼び止める前にキュミラさんは勢いよくムーンラビットさんが飛んでいった方向へと飛び立っていってしまった。

 これは……知らない人たちと顔を突き合わせるよりもそっちが楽だと思ったな。

 キュミラさんって面倒を回避する嗅覚というか……そういう感覚が異常に優れてるんだよねぇ、それでも結構巻き込まれて叫んだりするけれど。

 そしてそんな飛んでいってしまったキュミラさんはさておき、イネちゃんはリリアの方へと向き直って。

「えっと、とりあえず村に戻る?」

「まぁ、そう……しよっか」

 なんとも言えない流れではあるけれど、戻ったらまずは教会の人たちの受け入れかな……一応イネちゃんとリリアは復興計画の進行補助をやってるから人員配置に関してはなんとかなるからね。

 それって結局休めないじゃないかとも思いつつも、イネちゃんとリリアは今日のお昼ご飯のお話をしながら村に戻ったのだった。

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