第203話 イネちゃんと多重襲撃

 寝台車両でリリアと一緒にベッドで寝ていたイネちゃんは、外から聞こえてきた金属音で目を覚ました。

「ヌゥゥゥゥゥゥ」

 ズシン!

「わ!って今のヌーカベ!?」

 リリアはヌーカベの行動で目を覚ましたようで布団から飛び起き……。

「リリア、とりあえず服着て」

「え、あ、う、うん」

 そういえばリリアって裸族だったんだ。

 いや今はそのことは置いておいてイネちゃんはすぐに動けるようにして寝たので、マントを羽織ってから寝台車両を飛び出すと扉の目の前でティラーさんが戦っていた。

「ティラーさん、状況教えて!」

「援軍連中が哨戒を始めたとほぼ同時に熊と狼の襲撃があってな、その対応で手薄になったところに捕虜と同じ言葉……と思う言葉を使う連中が襲ってきてこのざまだ」

 ところどころで戦闘音が聞こえてくるけれど、集会場の扉はロロさんが最終防衛ラインとしていなしているのが見えて、キュミラさんを含めたハルピー隊も空から石を爆撃して援護しているためか昨日ほどの惨劇にはなっていないように見える……けどこれは見える範囲の話であって、他がどうなっているのかはわからないわけだけど……。

 正直感知を使うと真っ先にわかるのは、イネちゃんが起きた直後にリリアを起こしたヌーカベのストンプで潰れた何かだろうから使うのは躊躇ってしまうのだけれど、そんな個人的な感情はとりあえず投げ捨てておいて発動させる。

「……ティラーさん、捕虜の監視って今どうなってるの?」

「一応援軍連中の中から10人程度、5人づつ交代で回すってことになっていたが……」

 イネちゃんの感知能力で認識できる人数と今ティラーさんから聞いた人数と、捕虜とカカさんを引いてみるけれど……。

「そっちがメインだ!結構な人数!……あぁでもこの場も大事だし……仕方ないか!」

 ちょっと頭がパニックになったけれどいっそ覚悟を決めて私は勇者の力だけではなくイーアにも頼る。

『ここの片付け、速攻でいくんだよね!』

「うん、できれば3分!長引いても10分で片付ける!」

『反射は任せて!』

 地面と足を融合させて滑るようにロロさんを取り囲んでいる人たちのところまで、それこそヌーカベが走るような速度で移動してその速度のまま進路上に居た1人をこれまた皮膚を岩盤みたいにした腕でお腹めがけて殴りつけた。

 言葉にならない声を上げたのかもわからないけれど、殴りつけた相手は集会場の壁に叩きつけられるようにして地面に落ちた。

「ADERAD、AD!」

 なる程、捕虜の人たちと同じだ。

 あの人らと同じく襲撃自体に躊躇いがあるのなら多少は手心を加えたい気もするけれど、この人たちはロロさん1人相手に大人の男の人が大人数で取り囲んでも手を緩める気がない人たち、そのへんはあまり気にせずに銃の引き金を引く。

 左手にファイブセブンさん、右手にP90といった具合に、土台となるイネちゃんの腕は勇者の力で強化しているので反動を殺す必要もない、乱雑にロロさんの周囲に陣取っている異世界の兵隊をなぎ払うように回転。

「ATIKATAGINAN、AN……」

 そう呟く余裕がある人がいたのか、その言葉の後に一斉に男の人たちは倒れた。

「ありがと、勇者」

「お、終わったのか疫病神!」

「この場、は……」

「ちょっと待ってロロさん、あなたは昨日噛み付いてきた人だよね。今の状況、集会場には子供たちがいるから仕方ないけれどあの時言った言葉、覚えてないのかな?」

 私の声がして驚いた声が聞こえて、何も聞こえなくなった。

「勇者、今は、迎撃」

「ロロさん、アレだけは守らなくてもいいよ。まぁここを死守せざるをえないのはわかるからなんだけど、ロロさんも我慢しなくていいからね」

「でも、ロロ、いると、大抵……こう、なる」

 いつもより単語の区切りが激しい感じ、これは無理してるなってのが嫌でもわかる。

「ティラーさん!リリアに言ってヌーカベで集会場の防衛お願い!その後ティラーさんは迎撃組に合流して!」

「イネちゃんはどうするんだ!」

「今から捕虜側の援護に行く!」

 ティラーさんに指示をだしつつ銃のリロードを済ませ、返事を聞く前に移動を始める。

 しっかりとしたベッドで睡眠を取ったからか、かなり体が軽い。

『トナであれだけ暴れて、その後すぐに山越え、直後に戦闘したんだから疲れが取れてなかったんだって、特に勇者の力は体力の消耗が激しくなるんだから』

「でもイーアも止めなかったよね」

『トナはゴブリンだったし、私だって守りたかったからね……でも私たちが倒れたらそれこそ何も守れなくなる、今後は休憩もしっかる取ろうよ』

「そこは……賛成かな」

 イーアに返事をした辺りでカカさんの家、つまり捕虜を拘留している場所まで辿り着いたけれど状況は悪い様子だった。

「ADONOMINAN!」

 既に家の中に突入されている様子で、扉の前に経っていた人が叫ぶと同時にイネちゃんはファイブセブンさんで攻撃、相手のお腹に穴を1つ開ける。

「はい、通りますよっと」

 言葉がわからないだろうけれどそう言って屋内に突入すると、数人の死体と血の付いた剣を死体から抜いている人が目に入った。

 うーん、丁度捕虜監視の人たちが殺されてしまったようだ……私を起こす余裕もなかった……というよりはティラーさんが起こしにきていたんだろうね、この場の戦力が減っていたのもあるし、襲撃者がかなりの大人数だったこともあってむしろよくもたせたなってところだろうね。

「OMODOK、OK!?」

 あ、これはニュアンスがなんとなくわかる。

「私は一応もう18歳になってるんだよねぇ、失礼しちゃう」

 P90で室内に向けて掃射を行って相手を無力化する。

 味方が全滅している以上、フレンドリーファイアをする必要はないしフルオートで部屋の中にいる全員を撃ち抜いてからゆっくりと部屋の奥へと進む。

「い、今のは……」

「味方か!」

 おや、どうやらカカさんたちは無事のようだね。

「私、皆大丈夫?」

「い、イネさん……?でも声の雰囲気が……」

「あぁ今ちょっと本気モードだからね、寝室側に皆立てこもっている、でいいのかな」

「はい」

「立てこもり、続けられそう?」

「食料の備蓄がもうないので……」

 なる程、状況はやっぱり悪いか。

「捕虜の人たちの様子を見てくるから、集会場への道を確保しといて、無理そうなら私が戻ってくるのを待つでもいいけど」

「いえ、我々が捕虜を見てきます」

「既に武装している可能性は否定できないよ、今回襲撃してきた人たちは昨日の人たちとは違ってプロだから、既に渡している可能性はあるからね」

 まぁ既に逃げ出してたり、口封じされてる可能性も否定できないんだけどさ、そういう場に対人戦にそこまで慣れてない人たちだけを送り出すのは流石にね、地下は閉所で待ち伏せされやすい……いやまぁ村の中突っ切るのも似たようなものだけどさ、そっちは私がある程度お掃除したからまだ安全。

「……分かりました、しかし捕虜の護送が必要でしょうしここで待たせていただきます」

「うん、じゃあ場所の確保お願い、なんだったらその間寝室にいてもいいからね」

 私はそう言うと捕虜を拘留している地下へと降りる。

「お気をつけて!」

 その声を背中に受けながら進むと拘留している部屋の扉を破壊しようとしている人が振り向いて私のほうを見た。

「INOKOKEDNAN!」

「ATIHSUODAHUUHCNERONEU!」

 あーこれは口封じ方向かなぁ、幸い捕虜の人たちもわかっているみたいで立てこもってくれたから時間稼ぎできてたってところか。

 とりあえず目の前に2人に向けてP90でお腹めがけて発砲……したはいいけれどリロードを忘れていたので1人撃ったところで弾切れになる。

「あ、やっちゃった」

 P90のリロードは、魔改造した上に訓練しているとは言え他のSMGカテゴリの武器と比べたらそれなりに時間がかかるんだよなぁ。

 私の攻撃が一旦停止したと察するやいなや、もう1人はイネちゃんの方へと走りだして……横をすり抜けて逃げた。

『イネ、逃したら……』

「わかってる」

 ファイブセブンさんで逃げる背中目掛けて引き金を引くけれど、私、向かってくる相手なら訓練したことあるけれど逃げる相手ってのは練習してなかったから2発ほど外してしまい、上に抜けられてしまう。

 うーん、いくら逃げてる相手って言っても直線を外すのは私焦りすぎだなぁ……。

「逃がすか!」

 ……うん、ありがとう教会の人たち。

 やっぱり私はまだまだ未熟もいいところ、精進しないとなぁ。

 そう思いつつ捕虜の人たちの安全を確認するため、鍵を開けて中を確かめる。

「ETEKUSAT、AT」

「あー大丈夫、あなたたちの世界の人が居たけれど……」

 私が安心させようと、言葉がわからないのは横に置いておいて優しいニュアンスで落ち着かせようとしたとき、最初にP90で撃った人がまだ動けたようで……。

「OREOM!!!」

『おっと危ない』

 イーアがそれに反応して何か倒れていた人の指から出て捕虜の人に向かっていたモヤモヤを体で受けると私の体が一気に炎上する。

「IIAAMAGUAGITAHOTIAREN……」

 うーん、どうにもこれ、カカラさんが使えなくなってたっていう奇跡って奴なのかな、直接肉体だけを焼き払う系の何かっぽいけれど……私にはまるでダメージになってないね。

 服や装備に延焼するのがちょっと怖いかなとも思ったけれど、どうやら生物だけをピンポイントに燃やすって感じなのかな、服や装備にはこれといって焦げる臭いも、銃の弾が暴発する様子もない、熱もないのかこれ。

 そして体が燃えてるはずなのにあっけらかんとしている私を見て捕虜の人を含めて驚愕の表情を見せる。

「ANAKAB、AB……」

 いやそんなドン引きされましても。

 勇者の力があったから無事だったと考えるのが自然だしなぁ、この人には悪いけど相手が悪かったと思ってもらって沈黙していてもらおう。

「しかしよくわかったねイーア」

『あぁうん、明らかに私たちじゃなくあの人たちのほうを狙っていたからね』

「口封じか、面倒だなぁ……」

 今後の展開を想像しながらも、私は床で倒れている人にもう1発銃弾を叩き込んだのだった。

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