第189話 イネちゃんと今後の体制
「正直突入してから早すぎだと思うんだが」
まず広場のゴブリンを駆除してから、イネちゃんの探査能力で調べつつササヤさんが最後の1匹まで駆除を完了させてから入口に戻るとほぼ同時にトーリスさんからそんなことを言われてしまった。
「イネさんのおかげでかなり効率よく駆除ができたのよ、ここで奇襲を受けて捕らえられた以外には人は捕まっていなかったのもあるけれど、イネさんの探査能力はかなり正確で本当に助かったわ」
ササヤさんにベタ褒めされるとなんだか怖いんですが……嬉しいとかくすぐったいじゃなく怖いって辺りがササヤさんの人柄というか実力というか……。
「ともあれこの巣の中にはもうゴブリンはいないよ、いるのは虫とかコウモリくらいだから安心して一度トナに戻ろ」
「イネさんの言うとおりね、連戦でもあったし私たちもかなり消耗しているし戻って今後のことを話し合いましょう」
正直洞窟から出てきたイネちゃんとササヤさんの出迎えをしてくれたのはトーリスさんとウェルミスさん、トナから応援に来たロロさんとティラーさんだけで、他の人は地面に座っているかその人たちを介抱をしていて、どの道これはまだゴブリンが残っていたとしても撤退確定って状況だね……。
そのためかシックからの教会軍の人たちを介抱していた引退冒険者さんたちも動きは早かった。
「ほれ、立てるか?」
「すまない……肩を貸してくれないか」
そんなやり取りがあちこちで聞こえて皆がトナを目指して歩き始めた。
こういう状況でちゃんとほかの人に頼ることができるってのはいいよね、負傷兵なのに意地を張って倒れるなんて事態が起きないようにしてくれるのは本当に助かる。
とは言えそれでもちょっと人手が足りないかな、かなり負傷者が多い感じだし……人間の盾、というよりも鎧を使われたにしろちょっとこれは負傷者が多すぎる気もする、ササヤさんが動けない間に戦線を維持するために頑張ったからだろうけれど一度に運ぶのは無理かもしれない。
「おわったー?」
そんなところに渡りハルピーさんが1人降りてきてくれた、イネちゃんの頭の中に1つのアイデアが浮かんだところでササヤさんに提案しようと思って言葉にしようとしたとほぼ同時に。
「えぇ、トナにいるリリア……一際身長の高い女の子に教会の運搬車を回すように伝えて頂戴、負傷者が多くて困っているのよ」
うん、ササヤさんも同じことを思いついたみたい。イネちゃんの場合寝台車両だったけれど……運搬車、あったんだね、当然だけど。
「わかったー」
渡りハルピーさんの能力なら今このタイミングでリリアに伝達されてるかもしれないし、重症の人は……さっきのイネちゃんの癒しの力でいないけれど、その分体力の回復まではできていないしヌーリエ神官ができる治癒の力のようにむしろ消耗するみたいだからね、ここは消耗の激しい人は待機してもらって、申し訳ないけれども軽傷の人たちは引退冒険者さんたちと一緒に歩いてもらったほうがいいかな。
「それじゃあ動ける人と軽傷の人は歩きで、消耗の激しい人は迎えが来るまで待機で……で問題ないですよね、ササヤさん」
「えぇ、流石に運搬車では全員を運ぶのは不可能だもの、最低でも半数、歩いてくれるのならとても助かるわね、申し訳ないけれど皆もそれでお願いできるかしら」
「まぁ問題ねぇさ、怪我人の補助くらいしかできねぇ程度しか役に立てねぇからな任せてくれさ」
ササヤさんのお願いに引退冒険者さんがいい笑顔で答えると軽傷だった人に肩を貸して再び歩き始めた。
というか立ち止まってたってことはちょっと載せてもらえるかと期待してたのかな……ちょっと申し訳ないことをしたかも。
「運搬車に怪我人を載せて、それでも足りない場合は私が担いで行くわ、残った人数が思った以上に多いから」
そういうササヤさんの言葉を確かめるようにイネちゃんは周囲を見渡してみると、確かに横になっている人と座ってはいるもののぐったりしている人が結構な人数残っているのが確認できる。
「イネちゃんがもう少し早く動けていれば違ったのかな……」
「いえ、私が奇襲に気付かなかったのが原因、イネさんに責任はないわよ」
ここでどんな奇襲を受けたのか、と続けようともしたけれど、ササヤさんの表情を見ているととても聞ける雰囲気ではなかったのでイネちゃんは別の話題を持ち出すことにした。
「ところで今後トナはどうするのかな、結構被害が大きくて復興するにも……」
資材や食料はなんとかなるとは思う、最大の問題は人手。
一度町に侵入されたこともあって人口はギルド構成員である傭兵さんや冒険者さんを除いた場合、今回のゴブリン全体で3文の1が殺されてしまったから町の規模をそのままで維持するっていうのはかなり難しい。
「町の規模を小さくするか、外から人を入れるか。シックからの応援で元々トナの出身者もいるから彼らがシックに戻らずに故郷で暮らすという選択肢もあるし、それなりに個人の問題が絡むから戻って話し合わないと決めるのは難しいところね」
うーん、やっぱりそんなところかぁ、元々シックが故郷だった人が定住するにしてもそんなに数は居ないだろうし、むしろちゃんとカップルとかになってくれないと人口が減る一方だし結局のところ他所から移住してくれる人は必要な気がする。
「まぁ放置すれば町を維持できなくなるのは遠からずでしょう。ヌーリエ教会は町の人が望む形で支援をするだけ……捨てるにしても守るにしても、ね」
「介入しすぎるのも問題なんでしょうけれど、ちょっと多めに支援を行ったりはできないんですか」
「流石に難しいわね、大陸で貴族達を威圧しないようにと自由に動かせる独自戦力、人員は少なめですもの、ただでさえオーサ領の復興に人員を持って行かれているからトナに回せる人員は予備兵力……それすら張り付けにされてしまえば教会の戦力は聖地防衛の戦力のみになってしまうから」
なる程、日本……あっちの世界で言うところのボブお父さんたちの生まれた国のような状況なのか、まぁボブお父さんたちの祖国は即応戦力は常時余裕を持たせてあるらしいけれど、流石に大陸の文化レベルを鑑みると最大勢力であるヌーリエ教会でもその辺は難しいのか。
「さて、そろそろリリアも来る頃でしょうし続きはトナについて一度落ち着いてからにしましょうか」
パンっと手を鳴らしてササヤさんが言うと、確かに車輪が地面を走る音と……。
「ぬぅぅぅぅぅ」
ヌーカベの鳴き声が聞こえてきた。
「ごめん、運搬車を接続するのに時間がかかっちゃって……イネと母さんも大丈夫?」
「私を誰だと思っているのかしら、とりあえず運搬車に動けない人たちを載せていくから、あなたはヌーカベに走らずに地面をならしてもらうようにお願いしておいて頂戴。それとイネさん、あなたも消耗が大きいのだから人の面倒は私に任せてリリアと一緒に休んでいなさい」
ササヤさんにそう言われた途端、全身の力が一気に抜けた。
立てないとか歩けないってことはないけれども、イネちゃんはヌーカベにもたれかかる形で少し倒れこむ。
「うー……結構長時間使ったからかな、今回のこれくらいでここまで消耗するなんて未熟もいいところな気がする……」
「当然でしょう、力が覚醒したからと言ってもすぐさま力を使いこなせるなんて都合のいいことはそうそうないものよ」
そうそうない、だからササヤさんはちょっと心当たりありそう、イネちゃんが思うにササヤさんとヒヒノさんはすぐに使いこなせちゃう天才肌かなーと思うし、実際どっちかが覚醒と同時に使いこなせたんだろうなーって簡単に想像できちゃうのがね。
「もう、イネは無理しすぎ。勇者だからって1人で戦わないでいいんだからさ」
リリアにも怒られてしまった……あぁでもこれは怒るってよりも心配ってところか、リリアに心配させるのはイネちゃんとしては不本意だし、反省しなきゃだなぁ。
「じゃあ、お言葉に甘えて休ませてもらいます……」
「えぇそうしなさい、それじゃあすぐに出発できるようにリリア、お願いするわね」
「そういえば母さん、ゴブリンは倒したのになんですぐになの?」
「単純にここは森の中で、狼や熊もいるからよ。私は大丈夫でも今の状態だとイネさんも危ないでしょうし、消耗している連中はもっと危ないでしょう?」
「わ、わかった!よーしよしよし……」
そういえばここ、森だったね……今までゴブリンがヒャッハーしてたけれど、それが居なくなれば元々森を住処にしていた動物が活発になるのも当然か。
動けなくはないけれどアクティブに戦うことはちょっと辛いイネちゃんは、大人しくヌーカベの上に登っておこう……ヌーカベの上っていう安全圏から援護もできるしね、うん。
「でもイネ、本当に大丈夫?」
ヌーカベに対して指示を出し終えたのかリリアもヌーカベの頭の上に登ってきてイネちゃんに向かって心配の声をかけてきた。
「うん、まぁ体力はごっそり減ってる感じではあるけれど大丈夫だよ。少なくとも怪我とかはしてないから大丈夫」
「でもいつもよりもぐったりしてる感じだったから……本当に無茶はやめてよ」
「ヌーリエ様にも助けてもらえたから大丈夫……」
「ヌーリエ様に助けてもらう時点でもう本来なら無茶してたってことだからね!」
ぐぅの音も出ない。
確かに神様に助けてもらうとか日本じゃ有り得ないし、大陸でも滅多にあるものじゃない。
勇者だからって毎回助けてもらえるかと言われても多分違うだろうと思うしね、まぁイネちゃんはヴェルニアの時と今回で2回目なんだけど……って割と毎回だね。
「ま、まぁ今はそんなことよりお腹が空いたよ」
「もうごまかそうとして……でもそうだね、ゴブリン駆除に出た人たちは1食抜いてるからお腹空いてるのか」
とリリアが言ったところでリリアのお腹から大きな音が聞こえてきた。
「……リリア?」
リリアは顔を真っ赤にして。
「だ、だって心配で私だけゆっくりご飯なんて食べられないでしょ!」
やだ可愛い。
「よし、これで最後……リリア、走らせてもいいわよ!」
「あ、う、うん!ほら、トナに帰ろう!」
顔を真っ赤にしたリリアは慌てた感じにごまかしながらヌーカベに指示を出してトナに向けて出発した。
これはご飯がとても美味しくいただけそうだね、皆。
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