第116話 イネちゃんと市街狙撃戦

「は?街中でスナイパー?」

 ムツキお父さんのスマホでステフお姉ちゃんに電話をし、状況を伝えた第一声がそれだった。まぁ言っちゃう気持ちはよくわかる。

「うん、特殊部隊の生き残りがイネちゃんを人質にする形で離脱しようとして、ムツキお父さんと鉢合わせてね、あっちの世界の人間を1人も連れ帰られなかったから即処分されそうになったところをイネちゃんが確保する形で……」

「そんなの無視すれば……はできないよね、イネとムツキおじさんだし。民間人が危ないってなればそりゃ仕方ない。で、私に連絡を入れたってことは何が欲しいんだいイネよ」

 確保したのは一般人ではないのだけれど、ステフお姉ちゃんの言ってるのは街中で、それも駅だったからってことだろうね。正直今の状況でも駅に入った人の足を撃たれて誘い出そうとしてくる可能性は0じゃないから割ときっついんだよね。

 そんなわけで状況をひっくり返せるだけの戦力が欲しいわけで、現時点で少数でそれができるのはイネちゃんが知る限り、今こっちの世界には2人しか居ない。

「ココロさんとヒヒノさん、こっちに来てもらってもいいかな。狙撃ポイントがわかったところで、今のイネちゃんとムツキお父さんの装備だとカウンターできないしで身動きが取れないんだよね」

 最低でもモシンナガンクラスの銃があればムツキお父さんがなんとかできるかもしれないけれど、イネちゃんの場合それこそ対物クラスの射程と機械補助が欲しくなるからなぁ。

 ココロさんとヒヒノさんなら、射程の問題はあるにしてもなんとかしちゃいそうって印象があるんだよね、だから2人に来てもらえれば問題は全部解決したようなものなんだけれど……。

「いやぁそれがね、こっちも20mm弾の弾頭のお見舞い品が届いてねぇ。ココロさんとヒヒノさんがいないとこっちもまずいかなって」

 ステフお姉ちゃんは絶対普通の女子大生じゃないよね、イネちゃんたちの周辺だと一番一般人寄りではあるはずなのに、そんな対物撃ち込まれて落ち着けるって相当肝が座りすぎてるというかなんというか。

「今田中さんが関係各所に連絡とって事態解決に動いてくれてるけれど、流石に動けない人が2人もいるから勇者2人を動かすわけにはいかないとも言ってるんだよね」

「それって田中さんが?」

 ココロさんとヒヒノさんなら単独で動いてくれそうな気はするから、多分田中さんだろうと思いつつも確認をする、イネちゃんはうっかりを避ける子なのだ。

「まぁそうだねぇ、ココロさんはイネがなかなか帰ってこないのを心配して迎えに行くべきとも言い出してたし」

「そこに20mmをお見舞いされたと」

「まぁココロさんが打ち返しホームランして被害は窓ガラスだけだけどね」

 亜音速か音速か、弾がどちらの速度で飛んできたのかわからないけれどココロさんは亜音速は余裕で、音速でもまぁ大丈夫なんだろうね、なんだかんだであのササヤさんのお弟子さんだしもっと頭おかしいことができてもイネちゃん心構えだけしておこう、驚いて隙が生まれかねないし。

「それとヒヒノさんも凄いねぇ、私たちに熱が伝わらないのに割れて部屋の中に入ってきたガラスは蒸発。溶けるを通り越して蒸発したにも関わらず熱くないの」

「少々よろしいでしょうか、そちらはイネさんですよね?」

 ステフお姉ちゃんが雑談モードに入り始めたところで田中さんの声が聞こえてくる。

「そうだけど……田中さん?」

「はい、申し訳ありません、そちらのほうにも襲撃があったとは……配備のほうはこちらを優先してしまいましたので、この地区の対異世界庁の支部に向かって頂ければ装備は融通できるのですが……」

「そうなんだ、でもそれってそこそこの腕を持ってる狙撃手が複数で狙われていて、その射線を防ぐ遮蔽物が皆無の駅構内を走れってことかな?ちなみにイネちゃんを連れて行こうとした人らは確保して全員負傷、ここに放置していくわけにもいかないわけでね」

 待ち構えつつカウンターを用意……というかココロさんに任せればいい病室側と、援軍が来るのを待つか、被害覚悟で打って出る必要のあるこっち。できれば援軍はこっちに送って欲しかったかなぁ。

 まぁ情報がなかったんだから仕方ないとも思うけど、ココロさんが騒ぎ始めたのなら多少配慮入っても良かったんじゃないかなってイネちゃん思うな、うん。

「えっと、その……」

 田中さんが困ってる困ってる、案外想定外の事態には弱いのかな、異世界対策とか想定外しかないと思うんだけど。

「私、イネちゃんのほうにいこっか?」

 とこれはヒヒノさんの声。

「いえでもこちらに狙撃を行った連中の本隊が来た場合の対処が……」

「それはイネちゃん助けて万全にしたほうが楽じゃない?イネちゃんってこっちの武器は大抵使えるみたいだし」

「そうなんですか」

「まぁ、個人携行っていう頭文字が付くけど……少なくとも自衛隊と米海兵が使うようなのは一通り」

 無駄に訓練受けたからね、まぁどれも無駄になってない辺り異世界では重要な技術だったけど。

「ね、だから万全をーって言うならイネちゃん居た方がいいんじゃない?」

 今の会話で田中さんが静かになる。

「しかし私が最優先すべきはミルノさんとウルシィさんのお二方ですので……本当に申し訳ありませんが……」

 田中さんが結局拒否を申し訳なさそうに言おうとしたところで、コンビニの外にドローンが飛んできてドローンのスマホから声が聞こえる。

 というかあのドローン、明らかに長砲身の銃をぶら下げてるんですけど、それも2丁ほど。

「よ、ボブから連絡受けて困ってそうだから飛ばしてやったぞ」

 コーイチお父さんの声がスマホから聞こえて来たと同時に、コンビニの外から銃声が鳴り響く。

「発砲音!?民間人が撃たれたのですか!」

 田中さんが割と焦りすぎて恐慌状態になってるっぽいけれど、後ろの方からステフお姉ちゃんが落ち着かせるような声も聞こえてきているので起こったことをそのまま伝える。

「コーイチお父さんがドローンで銃を持ってきた……多分さっきの銃声はお父さんたちが色々やったってことなんだと思う」

 一応ムツキお父さんを除いて全員、今は民間人だから民間人が撃たれたで間違いではないのだろうけれど、ちょっと実力面がぶっ飛んでるし一般枠から除外していいかなって。

「ドローンで援護はする……がすまん、ルースがうるさいんでこいつからスマホ取ってくれ」

 あ、これルースお父さんのスマホなんだ。

「イネちゃんのスマホちょっと動かないからルースお父さん、使わせてもらっていいかな」

 ドローンから銃を降ろしてスマホを取りながら聞くと少し間を開けてから。

「いいらしいぞ、とりあえず運んだPSG使ってカウンタースナイプ、できたらやってくれ。難しいようならムツキに全部任せればいいさ」

「いや俺も流石に数がわからない状態で補助無しは無理だぞ」

 PSG-1をどこで調達したのかとか色々あるけど、つまりこれはイネちゃんがムツキお父さんの背中をカバーするか、観測手をしろってことかな。

「イネの今の状態はどうだ、万全ならカバー、少し辛そうなら観測手でいいと思うんだが」

 コーイチお父さんもそのつもりだったらしく、PSG-1が2丁あるにも関わらず、別途高倍率スコープが風呂敷に一緒に包まれていた。

 イネちゃんの今の状態は地味な連戦で少し疲れを感じるものの、PSG-1を持って走り回れないほどでもないという中途半端な状態で自分自身でも判断に困る状態で、ムツキお父さんにアイコンタクトを送ると。

「カバーさせる。どうせ観測と囮はお前のドローンがあるだろ」

「そうか、イネに銃痕でもついたらどうなるかはわかってるんだろうな」

「そんなヘマするか、イネが狙われたら俺が代わりに撃たれるくらいはするさ」

 あーうん、お父さんたちが過保護モードだ。

 PSG-1に装填しながらそのやり取りを聞いてるけど、お父さんたちがこういう会話し出すと大抵のことがイネちゃんが何かする前になんでもお父さんたちがやっちゃったりするんだよね。

「ムツキお父さんスコープいる?」

「ついてないのか?」

「なぜか無いんだよ、どゆこと?」

「あーそれはな、すまんが片方のスコープはドローンのカメラに転用したんだ、ほら遠方確認を考えると市販ドローンのカメラじゃな?」

 魔改造のために外したと。

 まぁあっちの世界で使うことを考えたら確かにわからない話でもないんだよね、北海道とかアメリカとか以上に街の間の間隔が広いし、狼さんとか熊さんの発見が200mくらいしか差がないときっついからなぁ。

「仕方ない、俺のほうはスコープ無しでいい、スコープ付きはイネが使え……で、そこのお前は観測手やってくれ、足はイネに刺されたとはいえその程度なら歩けるだろう」

『……俺か、俺は日本語をしゃべれないんだがな』

 その割には把握してますね、多少ジェスチャーしたとは言ってもちょっと分かりにくい感じだったのに、そっちの人たちにはわかりやすいものだったりするのかな。

「よし、イネは左を頼む……行くぞ!」

「な、まだドローンが……あぁもう!」

 ムツキお父さんの号令に対してコーイチお父さんが文句を言うけれど、飛び出すタイミングを一瞬遅らせる形で自動ドアの前でムツキお父さんは止まるとほぼ同時に複数のドローンの飛行音が聞こえて、お父さんたちがよく使っているアプリに着信、ドローンの映像がスマホに送られてきて、それを確認したムツキお父さんが飛び出して観測手を頼まれた男の人は入口から高倍率スコープを覗き始めたのを見て、イネちゃんも改札を盾にする形にして飛び出した。

 2・3回ほど銃声が聞こえたものの、コーイチお父さんのドローンを狙ったものらしくイネちゃんたちには攻撃が飛んでこなかったので結構な数を飛ばしていたらしくスポット用のドローンは生きていてスマホのアプリにはしっかりと映像が送られてきている。

「さて……反撃開始ってところかな」

 狙撃は苦手なほうだけど、ここで決めないと色々と大変なことになりそうだし……気合入れないとね!

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