第47話 イネちゃんとチーム編成
「なる程、そりゃルースが悪い」
武器弾薬をリヤカーで運んできたボブお父さんが、まだお腹を抑えているルースお父さんに向かってそう言いながら、ルースお父さんの
「で、イネ。一緒に居た少年たちはどうしたんだ」
まぁそれは聞かれるよね、以前会った時の面々が全員いないんだから当然聞かれるよね。
「今は別行動……というかこっちでゴブリンが出たって聞いて、私だけササヤさんに連れてきてもらったんだよ」
「ということは離れたところに居たのか……ってあの人に連れてきてもらったってイネ無事だったのか!?」
おや、この反応は……。
「ボブお父さん、ササヤさんのこと知ってるの?」
「あぁ、軍を辞める前にあちらさんの提案で……あの人に銃を向けたことがあってな」
え、それって個人と小隊のどっちで?
「なんというか、狙撃も面制圧も、それどころか徹甲弾や榴弾ですら無意味だった。カトゥーンの外にもあんなのがいる世界なんて攻められないっていう判断を、俺の母国にさせるレベルの人だよ、ササヤって女性は」
1人抑止力……いやまぁ実際にはココロさんとヒヒノさんも明らかな過剰能力だし、もしかしたら女神ヌーリエ様が2つの世界が行き来できるって知っていて、その上で神託って形で信頼できる人に能力を授けたりしたのかな。
「母さんそんなことしてたんだ……」
実の娘として思うところありそうだね、リリアさん。
「ともあれ今後のことだな、ことが対ゴブリンってことで俺たちに声がかかったわけだが、コーイチはパンの材料をたっぷり仕入れて消費しなければならず、ムツキの奴は演習があるから来れないからな、俺とルースの2人しかこれなかったわけだが……問題は奴らの巣の規模の確認と、逃げ道を逃さず塞いで生き残りが出ないように駆除をしなければならないが、巣の規模を確認する人員と逃げ道を封鎖する人員が足りない」
規模の確認はコーイチお父さんがドローンで、逃げ道封鎖はムツキお父さんが勘づかれないように爆薬を仕掛ける形だったんだっけ。
どっちもゴブリンに勘づかれない形で進めないといけないから大規模の山狩りみたいなことは難しいのか、出来そうなのは……アレ、もしかして。
「ということで気配を消しての潜入をムツキから叩き込まれたイネは必須だ、少なくともムツキの代役をやってもらいたい」
ですよねー、イネちゃんそれできるもん。
「あ、でも規模の確認はどうするの、私1人で現地確認じゃ流石に日数かかりすぎると思うけど」
「あぁその事なら問題ない」
ん、ボブお父さんや、なんでリリアさんのほうを見ていらっしゃるので?
「お嬢さんはあのササヤさんの娘さんだろう?だったら何かしら
とボブお父さんがリリアさんの前に立つように移動しながら聞く。
しかしこうして改めて見るとリリアさんおっきいなぁ、ボブお父さんは確か2mを少し超えるくらいの長身だった記憶なのに、並んでいるリリアさん、目線がほぼ同じなんだよね、190くらいかな。
「あ、うん。私の場合祖母ちゃんの隔世遺伝っぽい感じで精神魔法が使えるけど、山を丸々探知ってやったことないし、できてもちょっとまずいことになりそうで気が進まないかな……」
「どうまずいんだ」
「サキュバス由来だから、発情する可能性があるので。ゴブリンがそうなるのはちょっと……」
あぁそういえば狼さんがそんな感じに腰をカクカクさせてたね、子供が見て大人に聞いたら気まずくなりそうな感じに。
それにただでさえ増えるわかめっていうとわかめにとっても失礼なんだけど、そのレベルで増えるゴブリンに対して発情させるのはいかんよなぁ。
「む、となると調査するのに日数がかかりすぎることになるな……コーイチからドローンだけでも受け取っておくべきだったか」
ボブお父さん、それはちょっと無計画だったんじゃないかな、流石に道具を1つ持ってこないでこの流れはイネちゃんいただけないと思うな。
「それでしたら、僕たちがお手伝いします」
と計画が足踏みしそうになったところで、聞き覚えのある声が聞こえてギルドのドアが開いた。
いやまぁこういうタイミングで来るよね、ヨシュアさん。
ドアから入ってきたのはヨシュアさんとウルシィさん、そしてミミルさんの3人。流石にキャリーさんとミルノちゃんは無理だよね、ジャクリーンさんは警護残りかな。
転生チート系主人公してるんだから、美味しいタイミングは逃すはずがないもんね、ボブお父さんがドローン持ってきてたらもっと出番は後だったんだろうけど、ご都合主義にする運命力でも保有してるのかね。
「ほう、君は隠密技能を持っているのか」
そして動じないね、ボブお父さん。
イネちゃんとしてはヨシュアさんたちの後ろにヒヒノさんの姿が見えたから、どういう輸送のされ方したかはわからないけど、恐らくヒヒノさんがやってくれちゃいましたっていう流れは予想できるからそこまで驚きはしないけどさ。
「僕自身は持っていません。ですがウルシィは元々森の人狼ですし、ミミルは森のエルフで、二人共森の中で誰にも気づかずに動くことができると思いますよ」
「そうか、だったら坊主抜きでの3人に探索してもらうことになるが……」
普通だったら、そうなるよね。
でもきっとヨシュアさんなら、ヨシュアさんならご都合主義を発動してくれる!
「そうですね普通ならそうなると思います、ですが僕は音を消す魔道具を持っていますし、周囲の地形を把握する魔法を使うこともできますし、ミミルの精霊魔法で少人数ですが隠密状態になることもできますので、イネの手伝いはできると思いますよ」
ご都合主義のバーゲンセールかな?
まぁミミルさんがその手の魔法を使えるのはいいにしても、ヨシュアさんそんな魔道具持ってたんだね、あと地形把握魔法ってチート枠な気がする。
最もそれ以上にアレだね、隠密系はヴェルニアの街の時に使って欲しかったかなって、イネちゃん思っちゃったりするんだよ。
「そうか、その地形把握っていうのはどのくらいの精度で行えて、他人にその情報を正しく伝達可能なのかな」
ボブお父さん、ドローン忘れた割にそのへんはしっかりと聞くんだね。
聞くのは正しいんだけど、ドローンを忘れたせいでちょっと間抜けっぽくなっちゃってるのが残念だよ。
「空間に映像として投影できますよ」
へぇSFっぽい感じの魔法があるんだね、ミミルさんとウルシィさんは驚いているけど、リリアさんとケイティお姉さんが驚いていない辺り実際にこっちの世界にある魔法なんだろうっていうのがわかる。
こういう時の説明役であるキャリーさんがいないのはやっぱり少し寂しい感じがするのは、短いながらもそのお約束的な流れに慣れてたんだろうね。
「じゃあこの町を投影してみてくれ、ケイティさんに証人として確認してもらう」
「ちょっと、いくらイネのお父さんだって言っても流石に失礼なんじゃない!」
度重なる確認作業にウルシィさんが声をあげる。
でもまぁこの流れなら。
「ウルシィ、ゴブリンを相手にするならこれは必要な確認だと僕は思うし、ボブさんはかなり僕たちに配慮してくれてるよ。本当に必要ないのなら最初から一蹴して話すら聞かないって流れになってただろうからね」
ヨシュアさんのそれを聞いてウルシィさんは納得してはいない感じだけど、言葉を引っ込めた。
そして落ち込んだウルシィさんにルースお父さんが近寄って肩に手を置いて、払われる。
ルースお父さん、流石にウルシィさん相手は犯罪じゃないかな……。
「ではとりあえずマッピングから。天地広がる魔力の流れよ……」
ヨシュアさんが呟く感じに言うと、一瞬だけ淡い光がヨシュアさんを包む。
「じゃあ投影します。我が
もう一度、別の言葉を呟くとヨシュアさんの前に、人が居るのもお構いなしに完全にSF感満載な映像が投影される。なにこれかっこいい。
「……はい、確かに現在のこの町の様子ですね。ゴブリンに破壊されたと報告のある外壁の破損状況も確認できるので、リアルタイム情報として信頼できると思います」
ケイティお姉さんの確認の言葉を聞いて、ボブお父さんは首を縦に小さく振って。
「よし、君のその力は信用しよう。戦闘能力に関しては……イネとお嬢さんたちの表情を見て信頼することにする。イネを頼んだぞ」
「ん、ということはイネちゃんとボブお父さんたちは別チーム?」
今の言い方だと完全に別チームって感じだよね、寂しいとかじゃないけど、ベテランと一緒っていう安心感と仲間と一緒っていう安心感はまた別だと思うんだよね。
「あぁ、今回は人数が多くなるしな」
「でもルースお父さんからこれを渡されたんだけど、挟撃とかの形を取るなら使えなくないかな」
とイネちゃんはXM25を顔の前に持ち上げて見せる。
「……そういえばそれを渡したんだったな。なら俺たちは正面待機、イネたちはマッピングをして巣の支道の出口を全部潰す形で爆薬を設置して、合流してもらう」
「合流してから爆破して、全員で突入?」
「いや、外で撃ち漏らして逃げようとした奴を駆除する要員が必要になるからな、後詰要員として俺とルースが待機する」
イネちゃんとヨシュアさんたちで4人が突入ってことかな。
「わ、私はイネのお父さんたちと一緒でいいかな……洞窟の中だと精霊魔法も効果薄いし、弓も使い辛いから」
とミミルさんが言う。
なる程、精霊魔法って自然の力を借りるから相性とか関係あるってどこかで聞いたような気がする。気がするだけかもしれないけど。
弓に関しても洞窟形状次第では完全に使えない可能性も高いもんね、自分の身が守れない可能性が高いからこその決断だね。
「……それなら私がイネさんと一緒に行くっていうのはどうかな」
そしてミミルさんの言葉を聞いて、意外なことにリリアさんがついてくると言い始めた。
「いや、あんたはまともに戦えないだろ。お嬢さんに何かあったらササヤさんに何されるか怖いんだが」
「イネさんと一緒に居ろって母さんが言った理由を考えると、今回のゴブリン災害が解決するまで手伝えってことだと思うんです。それに……」
目を閉じながら話していたリリアさんが、目を開くとその瞳は真紅っていうのが適切なくらいの鮮やかな赤色になって。
「私だって、母さんの娘で、過去には魔王の最側近と言われた祖母ちゃんの孫なんだから、いつまでも守られているだけってわけにはいかないと思うんです」
その真剣な眼差しを見て、ボブお父さんも覚悟が決まったらしく。
「よし、ならイネ専属の支援として離れないという条件なら許可する。じゃあ改めてチーム編成を確認するぞ」
こうして、ゴブリンの巣に強襲するチームが決まって、30分の休憩の後に出発することになった。
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