第5話 異変の始まり――アリスト王国(中)
手っ取りばやく調査を済ませようと、目的地であるセンライへは点ちゃん一号、つまり飛行型の乗り物で向かった。
ギルドの上空で白銀の機体に乗りこみ、わずか十分ほどで目的地上空まで到着した。
ふわふわのくつろぎソファーに座ったまま、客室の床を透明にし、そこから下を眺める。
眼下には、白い尖塔が無数に並ぶ、石灰岩地帯が広がっていた。
「(^▽^)/ では、『・』の複製……OK、散布……OKと」
「どう、点ちゃん、なにか分かった?
「(*P▽') ……キャロちゃんが言ってた通りだね。ゴブリンがいっぱいいるよ」
「ふうん、ゴブリンの分布はどうなってるの?」
「(*P▽') センライの北東域に集まってるみたい」
「
「(*P▽') ゴブリンたちがいる場所を避けてるみたい」
それはおかしいな。
ホワイトエイプの方がゴブリンより上位の魔物だったはずだから、本来ならゴブリンが駆除されてしまってもおかしくないんだけど……。
「(*P▽') あー、ゴブリン以外にも、その辺りにはコボルト、オーク、そしてオーガがいますね」
この三種は、どれも二足歩行の魔獣で、コボルトが犬、オークが豚に似ており、オーガは二メートルを超え、鬼っぽい外見をしている。
オーガともなると、在来種の猿型魔獣と比べてはるかに強いはずだ。
「なるほど、それでホワイトエイプがその辺りを避けているのか。
いや、だけど待てよ。
そうなると、在来種しかいなかった場所に、いきなり三種の魔物が現れたってこと?
これは、やっぱり気になるね」
「(*'▽') それと、『・』の反応が消えた場所があるよ」
「えっ!? そんなこと、今まであったっけ?」
「(*'▽')b そうですね、ポータルがそうでしたよ」
「あっ、そうか。
ポータルの中に入った点は、それ単独では効果を失うんだったね。
なら、その場所にポータルがあるってこと?」
「(*'▽') う~ん、どうでしょう。近くに落ちた『・』からは洞窟のような映像が送られてきましたよ」
点ちゃん1号の内壁が、一部スクリーンに変わる。
そこには、この地域ではありふれたものである、鍾乳洞の入り口が映しだされていた。
「あ、ゴブリンが出てきた!」
薄汚れた腰布だけを身にまとったゴブリンが、周囲を警戒しているのか、きょろきょろしながらゆっくりした足取りで鍾乳洞から出てくる。
その右手には、彼らにとってありふれた武器である、こん棒がしっかり握られていた。
「点ちゃん、あいつのそばに瞬間移動させてくれるかな?」
「ぐ(^▽^) 了解」
ソファーから立ちあがり、瞬間移動に備える。
周囲の景色がぱっと変わると、俺はさきほど映像で見た、鍾乳洞の前に立っていた。
「ぎゃぎゃぎゃっ!」
ゴブリンは、血走った目で俺を見ると、手にしたこん棒をふりかぶる。
カコッ
そんな音を立て、こん棒は目の前で止まった。
カコカコカコッ
ゴブリンは懸命にこん棒を振るが、ドラゴンブレスですら耐える点シールドを壊すことなどできやしない。
しばらくして、やっと動きを止めたゴブリンに、念話を試みる。
ゴブリンとの念話は、以前試したことがあるのできっとうまくいくだろう。
『ゴブリン君、こんにちはー』
『……』
『もしかして、ゴブリンちゃん?』
『……』
うーん、これでいいはずなんだけど、なぜか反応が返ってこないな。
「(*'▽') ご主人様、どうやら念話が通じないようですね」
「なんでだろう?
点ちゃん、なにか考えつく?」
「(*'▽') 分かんないですー」
おお、珍しい! 点ちゃんが分からないって、久しぶりじゃない。
そうだ! 精神に干渉できるブランならなんとかできるんじゃないかな?
左肩に手をやると、スカッと空振りに終わる。
そういえば、ブランは家に置いてきたんだっけ。
猫の手を借りたい時に、猫はいなかった。
「(*'▽') あの洞窟を調べてみてはどうでしょう」
「そうだね、そうしてみようか」
俺は、左肩の寂しさをまぎらすようにそう答えるのだった。
◇
鍾乳洞に踏みこんだ俺は、いきなり森の中にいた。
一瞬、瞬間移動したのかと思ったが、後ろを振りかえると大木があり、その根元に大きなウロがある。
俺はそこから入ってきたようだ。
これはもう間違いない。
洞窟の中はダンジョンになっていたのだ。
ダンジョンには、中が迷路状になっているものもあるが、このように異空間となっているものもある。
それぞれ閉鎖型ダンジョン、開放型ダンジョンと呼ばれている。
今、俺がいるダンジョンは開放型ダンジョンということになる。
不思議なことに、木々の間から青空が見えるんだよね。
足元を見ると、地面の土にいくつも足跡が残っている。
どの足跡も、つま先が大木のウロを向いているから、外にいた魔獣たちは、あそこを通って出ていったのだろう。
「点ちゃん、ここってダンジョンだよね」
あれ、呼びかけても返事がない。
これは適応に時間がかかってるな。
点ちゃんが戻ってくるまで、自分だけで対処しなくちゃいけないな。
一度ウロから出ることも考えたが、そうなると点ちゃんがこのダンジョンに適応する手順を最初からやりなおさなきゃならないんだよね。
確かめてみると、腰のポーチはちゃんと機能している。これはマジックバッグだから、この中にあるものを利用すれば、点ちゃんが戻ってくるまでなんとかしのげるはずだ。
しかし、ブランも点ちゃんもいなくて、俺一人だけってずいぶん久しぶりだなあ。
こうなると、ホントみんなのありがたみが分かるよね。
俺は周囲を警戒しながら、見知らぬ森の中をゆっくり歩きだした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます