第16話 ケーナイギルドでの密談


体調不良と機器の入れかえで更新が途絶えてしまいました。

しばらく不定期の更新になると思います。

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 ミミとポルナレフは、猫町を出た日の夕方前にケーナイまで帰りついた。

 あらかじめ猫町ギルドからケーナイギルドへ連絡があったため、プルを連れた二人がギルドの扉を開けると、そこには『ポンポコ商会』支店長のアマム、薬師長のペーロンが待っていた。


「プル、あんた……」


「し、師匠、申しわけございません」


 プルはペーロンの足元で土下座すると、何度も床に額を打ちつけた。 

 ギルドホールにいた冒険者たちが、それを見て驚いている。


「みなさん、とにかくこちらへ」


 気を利かせた、受付の犬人女性が声をかける。

 弟子のプルを無理やり立たせたペーロンに続き、アマム、ポルナレフ、ミミがギルド奥の個室へ向かう。


「あー、ミミさんとポル君は、ギルマスの部屋へおいでください」


 ギルド職員から声を掛けられ、ポルナレフは通路左側の分厚い木の扉をノックした。

 

「入ってこい」


 扉を開けると、ギルマスのアンデが待っていた。

 いつも書類仕事をしているデスク奥の椅子にではなく、来客用のソファーに座っている。

 二人はアンデに言われるまま、彼の対面に座った。


「仕事、ご苦労さん。

 難しい依頼を見事達成したな。

 二人ともよくやった」


「えへへ」

「ありがとうございます」


「実はな、今回お前たちがこなした依頼だが、いろいろ裏があるらしい。

 シローから直接話があるみたいだぞ」


「え!?

 シローさんが来るんですか?」


 ポルナレフが驚きの声を上げると同時に、肩に白猫を乗せたシローがふわりと姿を現した。

 

「ギルマス、今日は無理を言ってすまない」


「馬鹿を言うな。

 俺に気兼ねなんていらんよ。

 とにかく、まず座れ」


 アンデの隣にシローが座る。


「リーダー、話ってなに?」


「ミミ、ポル、依頼達成ご苦労さま。

 今回の依頼は一つまちがえば、大事になりかねなかったんだよ」


「えっ?

 そんな深刻な依頼だったの?

 プルって人を探すだけの仕事だと思ったんだけど」


「二人はアマムさんから、まだ詳しい話は聞いてないようだから、それを説明しておくね。

 ウチのケーナイ支店も関係してるから、アンデ殿にも話しておこう」   


 シローは「ギルマス」ではなく「アンデ殿」という言葉をつかうことで、ケーナイの統治者に対して話をするという形をとった。


「この話は、信頼のおける仲間にしかできない。

 例え家族にでも話さないようにしてくれ」


「シローさん、母さんにもですか?」


「いや、ポル。

 支店長のアマムさんは当事者だから、この話をすでにご存じだ」


「わかりました」


「で、シロー、その秘密ってなんだ?」


「アンデはウチの支店がポーションを扱ってるって知ってるな?」 


「ああ、高品質のポーションは、お前んところの主力商品だからな。

 ウチの冒険者たちも、ずいぶんアレのお世話になってるよ」


「あれを作ってるウチの薬剤部門が、新しい薬を開発してな。

 名前は『エリクシル』 

 いわゆる神薬だ」


「新薬?

 なにか新しい薬をつくったのか?」


「新しい薬のシンヤクではなく、神の薬シンヤクだ」


「『神薬エリクシル』って、おい、まさか『エリクサー』のことじゃないだろうな!?」


「いや、そうじゃない」


「そ、そうか。

 ちょっと驚いたぜ。

 あれが創れたりしたら、エライことだからな」


「困ったことに『エリクシル』の薬効は、『エリクサー』以上だ」


「……おい、シロー、ちょっと待てよ!

 それって――」


 アンデの言葉をさえぎったのは、ミミの呆れ声だった。


「リーダー、なにを困ってるの?

 よく効く薬ができたのに、なんで困ってるなんて言うの?」


「シローさん、もしかして、薬が効きすぎるから問題なんですか?」


 ポルナレフは、シローの言いたいことがなんとなく分かったようだ。


「え?

 ワケが分かんない!

 なんでそんなことで困ってるの?」


 ミミが呆れた顔をしている。


「なるほど、そりゃ困るだろうな」


 さすがにアンデは、事態の難しさに気づいたようだ。

 

「なんでなんで?

 わかんなーい!」


 ミミが頭を抱えているが、他の三人は深刻な表情をしていた。


「秘密保持が絶対だな。

 もしかして、今回の指名依頼、それと関係してたのか?」


「ああ、ギルマスの言うとおりだ。

 ミミとポルが捕まえた男は、『神薬』の秘密を知ってしまった。

 逃走中に彼が秘密を漏らしてないか、これから調べなきゃならないだろう」


 ポルナレフは、依頼の重要性に今更ながら気づき、ぶるっと身震いした。

 

「とにかく、秘密が漏れるなんてことになったら、なにが起こっても不思議じゃない。

 三人とも、心してくれ」


「え?

 ええ……」

「はい、気をつけます!」

「わかったよ」


 ミミ、ポルナレフ、アンデが、それぞれ返事をする。彼らの口調には、多少なりとも戸惑いが含まれていた。

 ミミとポルナレフが部屋から出ていくと、アンデがシローに声をかけた。


「シロー、その薬、ギルドにもまわしてもらえるのか?」


「いや、いまのところ、その予定はない。

 各世界の孤児たちにつかうつもりだ」


 アンデがシローの目をのぞきこんだ。

 二人は、しばらく視線を交わしていたが、アンデが先に視線を外した。


「まあ、お前のやることだからな。

 俺に手伝えることがあれば言ってくれ」


「アンデ、すまん、いや、ありがとう」


 そう言いのこすと、シローは先に部屋を出たミミとポルナレフを追った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る