第3話 チビドラの涙


 次の日、天竜族が住む洞窟から真竜廟ダンジョンへ、子竜たちを連れてかえった。

 昨日、ルル、コルナ、コリーダにたっぷりじゃれついていた子竜たちだが、今日になってもそれは変わらなかった。

 人化できるものは抱っこをねだり、そうでないものは頭や体を彼女たちにこすりつけている。

 ナルとメルが号令をかけると、よちよち歩きの小さな黒竜たちが、大洞窟の中央に集まった。

 真竜廟ダンジョンにある竜王の部屋近くまで、彼らをまとめて瞬間移動させる。


 森の中へ到着すると、子竜たちは二列になり、ナルとメルを先頭に元気よく竜王の部屋へと向かう。

 ルル、コルナ、コリーダ、そしてリーヴァスさんと俺が、その後に続いた。

 この森には『ジャイアントボア』という巨大な蛇がいるのだが、そいつらの天敵であるブランが俺の肩に乗っているので、やつらは姿さえ見せなかった。

 

 竜王が開けてくれた扉から中へ入ると、広い部屋の片隅で大きな黒竜チビドラがうずくまっていた。

 ナルとメルが駆けより、さっそくその顔を撫でている。 

 近づくと、俺だけに向けた念話で話しかけてきた。


『シロー、お主、ひどいではないか!』  


『ん?

 お前をここに置いていったことか?』


『その通りだ!

 竜王様からワシがどんな目にあわされたか、知らんだろう!』


『どんな目にあったんだ?』


『手がちぎれる、足がちぎれる、尻尾しりおがちぎれる。

 もう、何度死にかけたか数えきれん!』


『そういえば、竜魔法は、手足の欠損くらい簡単に治せたよな』 


『治せたよな、じゃないわい!

 痛いわ、つらいわ、苦しいわ。

 いっそ殺してくれと頼んだくらいじゃ!』


『だけど、それは自業自得だろう?』


『ぐううっ、そう言われると身もフタもないではないか……』


『ナルとメルに、自分が父親だとまだ告げてないってこと、竜王様はご存じなのか?』


『ああ、洗いざらい話した。

 いや、白状させられた……』

 

『で、そのことについて竜王様はなんとおっしゃったんだ?』


『そのままでいろとさ』


『つまり、本当のことを二人には話さないんだな』


『罪を償えたと本当に思えたら話してよいとのことじゃ。

 そんな日は、きっと永遠に来んじゃろう……』


 黒竜は、閉じた目から涙を流しはじめた。

 俺はヤツに『縮小』の魔法をかけた。


「わーい!

 チビドラちゃんが小さくなったー!」

「抱っこできるー!」


 待ちかねたメルが小竜を抱きあげる。


「チビドラちゃん、まだ具合悪いの?

 泣いてるみたい」


 メルに抱かれた小竜を、ナルが心配そうにのぞきこむ。


「ナル、メル、チビドラは眠いんじゃないかな。

 眠い時は、涙が出るだろう?」


「うん、あくびしたとき出る」

「出るー」


「じゃあ、寝るまで撫でてあげるといいね」


「「うん!」」


 チビドラが一瞬目を開け、こちらを見たが、その視線には感謝の気持ちが込められているように思えた。   

 

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