第3話 旅の準備


 ちょっとした(?)トラブルはあったが、異世界取材に向けての準備も最終段階にはいった。

 今日は荷物のチェックをするため、四人の騎士に来てもらっている。

 黒騎士、桃騎士、そして、黄騎士と緑騎士だ。

 双子の姉妹、黄騎士と緑騎士は、この春めでたく大学生となった。

 二人とも同じ外語大へ通っているが、なにかと理由をつけては『ポンポコ商会』に来ている。

 山積みされた仕事を彼女たちが手伝ってくれるから、白騎士も、むしろそれを歓迎しているところがある。


 ちなみに、この二人、入学したばかりですでに研究室に所属しており、新しくできた研究分野である『異世界言語学』の最先端に立っている。

 

「後藤さん、どうしてこんなに下着が必要なの?

 それに、この下着なに?

 なんかジジクサ~い!」

「遠藤さん、妹さんへのお土産もう考えてる?

 えっ?

 まだ?

 すぐにメモしといたほうがいいよ!」


 後藤と遠藤が、さっそく二人の”餌食えじき”となっている。 

   

「黄騎士も緑騎士も、必要なものが入ってるかどうかだけチェックしてあげて。

 下着を見られるのは、男性でも恥ずかしいものよ」


 桃騎士が、珍しく常識的なことを言った。

 自分の荷物を後藤たちに見られるのが恥ずかしいから、私は少し離れたところで黒騎士にチェックしてもらっている。


「あら、これって……」


「あっ!

 それはだめっ!」


 慌てて黒騎士が手にしたものを奪いとり、胸に抱える。

 彼女が手にしたのは、写真立てだ。少し前に仕事でパリを訪れた時、遠藤が撮ってくれた写真には、シロー君と私のツーショットが写っている。

 

「柳井さん――」


「なにも言わないで!」 

 

 黒騎士の口を手でふさぐ。

 まさか、見られたかしら? 見たとしても黒騎士なら誰にも言わないだろうけど……。

 

「どうかしましたか?」


 なにかを察知したのか、後藤がこちらへ近づこうとする。


「女性の荷物を見ない」


 黒騎士がピシャリと言うと、後藤は自分の荷物が置いてあるテーブルへすごすご戻っていった。

 

「海外旅行のつもりで用意すればいいのよ」


 後ろから桃騎士の声が聞こえる。


「なにか忘れても、シロー君が何とかしてくれるでしょ?」


 うーん、彼女の言うとおりなんだけど、一人前の社会人として、それではいけないと思う。

 

「向こうの女性へお土産を渡すなら、かさばらないアクセサリーがいいと思う。

 それとも、お菓子かな?

 異世界に行った時、甘いものがなくて困ったから」


 黄騎士のアドバイスは役に立ちそうだ。


「ナルちゃん、メルちゃんにはお好み焼きのもとでいいとして、ヒロねえの周りへのお土産が問題ね。

 王族って、なにをもらったら喜ぶんだろう?

 ちょっと想像つかないなあ」


 緑騎士は、最近になって茶髪ツインテールから黒髪ストレートに変えた髪を指でもてあそびながら、そんなことを言った。

 

「あー、マスケドニア国王とヒロ姉になら、最近出版されたマンガがいいと思うよ。

 あの二人、そういうのが好きだから」


 そう言いながら、シロー君が部屋に入ってくる。


「えっ?

 異世界の国王様がマンガ?」


 緑騎士が呆れるのも当然だわ。王様が、本当にマンガなんかに興味あるのかしら。

 

「荷物だけど、重さと量は気にしなくていいから、持っていきたいだけ持ってくといいよ」


「うーん、確かにリーダーが収納してくれたら、助かるんだけど。

 私たちだけでも困らないようにしておきたいの。

 リーダーも、いつも私たちにつきっきりってわけにもいかないでしょ?」


 これは、後藤や遠藤とも話して決めたことだ。

 

「そう?

 じゃあ、向こうへのおみやげだけは俺が持つから。

 仕事関係と私物は、自分たちでなんとかしてもらおう。

 荷物の確認は、だいたい終わったかな?」


『(P ω・) 遠藤君は、歯ブラシわすれてるよ。後藤さん、ティッシュは?』 


「「あっ!」」


 魔法キャラクター点ちゃんの指摘に、遠藤と後藤が声を上げる。

 

「まあ、その程度なら、俺の収納に入ってるけど、取材関係のものはそうはいかないから、よく確認した方がいいね」


「「点ちゃんすごーい!」」


 魔法キャラクターを褒める黄騎士と緑騎士。


「ほんと、点ちゃんすごいね!」


 そう言った桃騎士の言葉に、なぜかシロー君が、がっくりうなだれた。 

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