第29話 宴会
俺たち『ポンポコ歌劇団』は、街の広場に設けられた仮設の舞台で芸を披露した。
演目は『天女祭り』とほぼ同じだったが、リーヴァスさんがいないので、ルルの伴奏は点ちゃんが録音しておいた音源でカバーした。
そして、コリーダの歌は陽気なものが多かった。
きっと、それは会場に集まった街の人たちや兵士たちの暗い表情を見て決めたのだろう。
最後の一曲に、彼女はエルフの鎮魂歌を選んだ。それは静かな曲だが、聴衆の心を暴風のように波立て、彼らは涙が止まりそうになかった。
その場で食べものや酒が振まわれ、宴会に突入しなかったなら、ずっとあのままだったかもしれない。
そして、俺はといえば、街へ入るときに会った赤毛の女性につかまり、酒を勧められていた。
「おい、チロー!
てめえ、飲んでるのか!」
粗末な皮の敷物に座ったアテナが、手にした陶器の器を振りまわすので、中の酒がその辺に飛びちっている。
「いや、俺、まだ酒が飲める年じゃないんで」
「にゃにおう!
てめえいってえ
「十九くらいですかね」
異世界を行ったり来たりしてるので、年齢が分からなくなってるんだよね。
「ばっきゃろー、酒は十五から飲めるらねえか!
さあ、ぐっと
そうやって騒いでいるところへ、一人の若者がやってきた。色白で細身の彼は、上等な服を着ており、兵士には見えなかった。
彼がアテナの耳元でなにかささやくと、彼女の顔色がさっと変わった。
「すまん、ちょっと失礼する!」
さっきまでの泥酔ぶりはどこへやら。アテナは、きびきびした動きで若者と宴会場から出ていった。
『(・ω・)ノ ご主人様ー、あの二人に点をつけておいたよ』
さすが点ちゃん、俺のやりたいことが分かってる。
この街でなにが起こっているか、それが分かりそうだね。
◇
宴会の後、俺たちは当てがわれた兵舎風の建物から、上空に浮かべておいた点ちゃん1号へ瞬間移動した。
くつろぎ空間のソファーに座るみんなに、酔いざましのハーブティーを配ると、宴会で仕入れた情報を交換しあう。
「結局、『天女』って、いったいなんだろうね。
そのことがきっかけで、国が街の一つに攻撃を加えるなんて普通じゃないよ」
宴会の熱気が冷めないのか、コルナが地球で買ってきた扇で顔をあおぎながらそう言った。
「なにか秘密があるんだろう。
宴会でアテナに接触したのは、カーライル領主の次男らしい。
彼は、今アテナと後三人を連れ、山脈の方へ向かってるよ」
「シロー、では、私たちは、彼らを追っているんですか?」
濡れタオルを顔に当てながら、ルルがそう訊いた。
「うん、そうだよ。
運がよければ、フィユが話していた、『天女』に選ばれたけど姿を消したっていう少女に会えるかもしれない」
「シロー、計画がおおざっぱすぎない?」
「コリーダ、そうは言うけど、他に手がないからね」
「……言われてみれば、確かにそうね。
まず、その糸口を追ってみましょうか」
「リーダー、今回の任務、難易度が高すぎない?」
ミミが、なぜかソファーに頬を擦りつけながら不満を口にした。
「まあ、指名依頼だから簡単な依頼にはならないよ、ミミ」
「そうだよ、ミミ。
いき詰まったら目の前のことから片づけなさいって、ミランダさんも言ってたじゃないか」
「なによ、ポン太のくせに、偉そうに!
そのくらい、私でも分かってるんだから……」
そう言いながら、ミミは目が閉じかけている。
どうやら、このニャンコ娘、おねむのようだ。
「彼らに動きがあるまで、このまま観察するしかないから、少し休もうか。
点ちゃん、なにかあれば起こしてくれる?」
『(^▽^)/ はーい!』
「点ちゃん、お願いしますね」
「ご苦労さま」
「ありがとう」
『ぐ(^▽^) えへへへ』
ルル、コルナ、コリーダから話かけられ、点ちゃんはご機嫌のようだ。
じゃあ、俺は空中風呂に入っていいかな?
『(; ・`д・´)つ いいわけあるかーっ!』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます