第11話 ノンコラの街(下)


 

「思ったより活気があるわね」


 コリーダが言うとおり、ノンコラの街は活き活きと働く人々の熱気であふれていた。

 比較的狭い道の左右には、商家がびっしり並び、様々な品物を並べている。


「とにかく、まずは服屋ですな」


 ルル、コルナ、コリーダは、アリストでリーヴァスさんから渡された、農民風の衣装を身につけている。ミミ、ポル、俺は冒険者衣装のままだ。

 ブランたちには、透明化の魔術を掛けてある。

 なんでも、この国の南部には獣人の街があるらしく、通りのあちこちで獣人の姿が見られた。そのため、ミミ、ポル、コルナのケモミミと尻尾しっぽは、そのままにしてある。

 コリーダの長い耳と茶色の髪は、頭にかぶるヴェールのような布で隠している。この国にも、ごく少数のエルフがいるらしいが、さすがにダークエルフは存在しないからだ。

 ただ、東方の海上に浮かぶ島に住む住民が褐色の肌をしているとかで、少数だがそういった人の姿もある。


「みんな体の力を抜きなされ。

 緊張していると疑われますぞ」


 そう言うリーヴァスさんは、この国では猟師が着る毛皮のジャケットと黒革のパンツ姿だ。


「あ、ルロイの実!」


 果物屋らしい店の前で、ミミが声を上げてしまう。

 彼女は慌てて口を押えたが、店主だろう四十くらいのおじさんがそれを耳にしてしまった。


「ははは、古い言い方をなさるね。

 南部からかい?

 この辺では、ルロって呼んでるよ」


 おじさんは、右手にスモモのような赤い実を載せ、こちらに差しだした。


「ミミ、いただきなさい」


 リーヴァスさんに声をかけられ、ミミが恐る恐る、おじさんの手から実を受けとる。

 冒険服の裾で拭いた実をかじる。


 シャクッ


 小気味いい音が聞こえてきた。

 

「美味しい!」


「だろう。

 ウチのルロは、南部の果樹園から直接仕入れてるからね。

 これも、昨日採れたものだよ」


 おじさんが胸を張る。

 ルロイの実は俺も好きで、リンゴのような歯ごたえと、チェリーのような味がする。

 

「では、人数分もらえますかな?」


「じゃあ、銅貨七枚だね。

 おや、こりゃ、また古い硬貨だね。

 もう、長いこと使われてないよ」


「これではダメですかな?」


「いや、この古いヤツは、集めてる者もいてね。

 こっちの方が価値が高いから、なんの問題も無いよ」

 

 リーヴァスさんは、若い頃この国に来たことがあるそうだから、その時手に入れた銅貨なんだろうね。


 ◇


 果物を買った店で古着屋の場所を教えてもらい、俺たちはそこへ来ている。

 

「いらっしゃい。

 ようこそ、『リリパラ服装店』へ。

 まあ、素敵な方!

 あなたご自身の服かしら?

 それとも、そちらの方々の?」


 店に入ると、オレンジの髪に同色のドレスを着た、体つき、顔つきともに貫禄ある女性が、リーヴァスさんに話しかけた。

 やけに大きな顔のまん中に、形のいい細い鼻がちょこんと座っている。

 首周りは、大きな真珠らしきものを繋いだネックレスで飾られていた。

 大きな目と口が、彼女にユーモラスな感じを与えている。


「南の方から来たばかりでしてな。

 人数分の服を三着ずつ見繕ってくれませんかな」


「まあまあまあ!

 もちろんいいですわよ!

 あなたたち、出ていらっしゃい」


 店の奥から、ブロンド髪の若い男女が出てくる。

 青年は、白いシャツに茶色いズボン、娘は紺色のワンピースを着ている。

 二人とも、どことなく女性の面影があるから、彼女の息子と娘かもしれない。


 店主らしき大きな顔の女性は、リーヴァスさんにつきっきりだ。

 ポルと俺は青年に、ルルたちは娘さんに服を選んでもらった。

 透明化しているキューやコリンが時おり鳴くと、店員さんがキョロキョロしていた。


「リーヴァス様~、ぜひまた来てくださいな~!」


 ごつい手を振りながらリーヴァスさんに流し目を送る女店主を後に、俺たちは彼女に紹介された宿へと向かった。


 ◇


 宿は木造の二階建てで、間口はそれほど大きくなかったが、奥に長い建物で、俺とポルの部屋はベッドが二つ置かれており、十二畳ほどもあった。

 ルル、コルナ、コリーダ、ミミで四人部屋を、リーヴァスさんには一人部屋を借りてある。


「シローさん、明日からはどうしますか?」


 木窓を開け外を見ていたポルが、こちらへ振りかえる。


「そうだね、夕食の席で伝えるつもりだったんだが、三組に分かれて情報収集する予定だよ。

 ギルドについての情報も知りたいところだね」


「この国ってギルドが無いんですよね?」


「うん、鎖国が厳しくなった頃、ギルドも閉鎖されたってことだね」


「ギルドがあれば、それなりに国の役に立つと思うのですが、どうして閉じちゃったんでしょう?」


「何かよほど隠したいことがあったんじゃないかっていうのが、リーヴァスさんの予想なんだけどね。

 俺も同じ考えかな」


「それと、この国が聖女様に何かしようとしてることと、何か関係あるんでしょうか?」


「まあ、調査していけば、リーヴァスさんが情報屋から手に入れた例の文章も、おいおい意味が分かってくるんだろうけどね」


「ボクも目だけは通したんですが、意味がよく分かりませんでした。

 すみませんが、もう一度教えてくれますか?」


 開いた木窓の外は、すでに暗くなっている。俺は窓を閉めると、腰のポーチから『枯れクズ』とパレットを取りだした。


「まず、最初の文だけど――」


 夕食の時間まで、ポルと俺は頭を突きあわせ謎の文章に取りくんだ。

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