第12話 点ちゃんの恐怖


「な、なんなの、この部屋?!

 お姫様?」


 三宅の言葉は驚きと喜びに満ちていた。

 彼女は、自分が泊る部屋を見て、それがあまりにも豪華なので感動しているのだ。

 二十畳ほどもある、上品な内装の部屋には、ベッドが二つ置かれており、それぞれ天蓋が付いている。

 

「お城の迎賓館だもんねえ」


 相部屋となった親友の白神は、いたって冷静だ。

 どうやら、彼女は、こういったことを予想していたらしい。


「倫子って、喜ばせがいがないよね~。

 アンタの事が好きな男子たちは大変よね」


 三宅がからかうように言う。


「もう、萌子ったら、そんなことないよ!

 それより、私の事が好きな男子って誰?」


「教えないよ、そいつらに悪いから」


「くう、なんでよ!

 私たち、親友でしょ!」


「ふふふ、親しき仲にも礼儀あり、なのだ」


「このこのー!」


「きゃー、やめてー!」


 二人はベッドの周囲で追いかけっこを始める。 

  

「あなたたち、騒ぎすぎ!

 いくら外に聞こえないからって――」


 部屋の入り口には、扉を開けたまま、呆れ顔で宇部委員長が立っていた。

 彼女に気づいた三宅が、鬼ごっこをやめる。 

    

「あら、委員長ちゃん、どうしたの?

 うるさかった?」


「うるさくはないけど、ノックしたのに気づかないのは問題ね。

 だけど、これだけ騒いでるのに、外には聞こえないのね」


「はいはいはい!

 私、その理由知ってる!」


 異世界マニア少女白神が、目をキラキラさせ、委員長の言葉に食いついた。


「り、理由って?」


 宇部が、引き気味に尋ねる。


「恐らくだけど、この部屋に魔術が掛かってるのよ」


「ま、魔術?」


「ええ、私は風魔術か、闇魔術だとにらんでるんだけど。

 まず、風魔術なら、その性質上……」


 それから十五分ほど、白神の独演会が続いた。

 宇部も三宅も、うんざりした顔になっている。


「だから、やっぱり風魔術か闇魔術ってことになるのよ」


 やっと話を終えた白神が、大きく息をついた。


「あ、あなたが魔術に詳しいってことは、よく分かったわ。

 私、他の部屋もチェックするから、これで失礼するね」


「そうだ、委員長!

 闇魔術についての説明、まだ言いのこしたことがあったわ!」


「白神さん、また今度にして!

 では、夕食で会いましょう。

 メイドさんが呼びにきてくれるそうよ」


「メ、メイドさん!

 それって、リアルメイドよね!」


 委員長の言葉に食いついたのは、三宅だった。


「ひ、ひいっ!

 ご、ごめん、さようならー!」


 宇部がバタンと扉を閉めて出ていくと、白神と三宅は顔を見合わせた。


「「変なの!」」


『(*'▽') 二人の方が変だよー!』


 頭の中で声が聞こえた。


「あっ、点ちゃんだね?」


『(*'▽') はいはい、点ちゃんですよー!』


「きゃーっ、カワイイ!」

「点ちゃんって、シロー様の魔術なんでしょ?」

「もっとおしゃべりして!」

「どんな魔術か教えてくれる?」

「点ちゃんって、なんで『点ちゃん』っていうの?

「シロー様のユニークスキルだと思うんだけど?」

 

『(;^ω^) ……』


 三宅、白神の二人による嵐のような質問攻めに、さすがの点ちゃんもたじたじだ。

 

『(*'▽') あれ? ご主人様に呼ばれちゃった! じゃあ、もう行くね』


 どうやら、点ちゃんは、この場をごまかそうとしているようだ。


「逃がさないわよ!」

「点ちゃん、ちょっと待って、大事な話があるの!」


『(*'▽') またねー!』 


「「……」」


 念話が聞こえなくなると、白神、三宅の二人が顔を見合わせた。


「次は逃がさないわよ!」

「シローさんに、直談判しよう!」


 それを黙って聞いていた点ちゃんは思った。


『(>ω<) (ひーっ、ご主人様、助けてーっ!)』


「何か聞こえなかった?」

「聞こえた気がする!」


『(((!ω!))) ……』


 部屋の中をキョロキョロ探しはじめた二人の少女に、点ちゃんは生まれて初めて、「身の危険」を感じていた。


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