第92話 ヘルポリの街へ

 顔を変え別人となったハンナとケロベスを、ベラコスの街へ瞬間移動させた後、ルルと俺はホワイトエイプの樹上村に帰ってきた。


「シロー、本当にその姿になる必要があるんですか?」


 ルルは眉をひそめるが、でっかくなると、視点が高くて気持ちいいんだよ。

 デカゴリンと同サイズのホワイトエイプになった俺は、ヤツと交渉して、いろいろとり決めた。


 デカゴリンが棲む森に、人を入らせない。

 デカゴリンたちは、森を出ない。

 森で採れる、『マラアク』という果実を彼らの欲しいものと交換する。

 このルールを変更するときは、お互いが話しあって決める。

 

 最初の物々交換として、俺はピザ十枚と水の魔道具十個を差しだした。

 デカゴリンによると、この集落は季節によって水が不足するらしいからね。

 代わりにもらったのが……これ、多くない?


 デカゴリンのツリーハウスがある木の根元には、『マラアク』の実が山盛りになっている。

 ホワイトエイプたちが集めてきたものだ。

 これ、どうみても一トンくらいはありそうだけど。


 ◇


 ギルドの依頼は、森に棲む魔獣の脅威を排除するというものだったので、それは達成したと考えていいだろう。

 森を保護区にするのは、陛下に頼めばなんとかなる。


「うほほ、うほほ、ほー!」(じゃ、俺たち帰るね!)


「ほほほ、ほー……」(えええ、もう帰っちゃうのー……) 


 デカゴリンが大粒の涙を流しているので、可哀そうになり、その頭を撫でてやる。


「ほほほぅ」(うううん)


 ヤツは、巨猿になっている俺の胸に顔を埋め……なんか大胸筋に顔をスリスリしてるんですけど。

 こうしてみると、デカゴリンってかわいいよね。


『(・ω・)ノ まあ、デカゴリンちゃん、女の子ですからね』


 えっ!?

 点ちゃん、今、何て言ったの?


『(・ω・)ノ だからあ、デカゴリンちゃんは、女の子なんだよ』


 なななんだってー!?


 下を見ると、ハート形の目をしたデカゴリンが上目づかいでこちらを見つめている。

 ひいっ!

 なんじゃこりゃー!


『(*'▽') なんじゃこりゃー!』


 点ちゃん……どう見ても面白がってる。


 ◇


 必ずまた来ると約束して、やっとデカゴリンに放してもらった俺は、ブランとルルを連れ、ボードでヘルポリの街へ向かった。

 もちろん、姿は本来のものに戻しておいた。


 森を抜けると、ヘルポリの街は目と鼻の先だ。

 透明化を自分たちに掛け、街の中心近くにある、大きな屋敷の玄関先へ降りる。

 そこから見える庭には、巨木が何本も並んでおり、さながら街の中にある森といったところだ。

 国から聖地に指定さた庭は、人を入れないため、高い壁で囲まれていた。


 玄関の扉をノックすると、メイドが顔を出し、すぐにこの家の娘であるナゼル嬢を連れてきた。


「シロー君!

 どうしてたの?

 ずっと来なかったじゃない!」


 そう言ったのは、シャープな顔つきのすらりとした女性だ。


「初めまして、ルルです。

 シローさん、この方は?」


 心なしか、ルルの口調が冷たい。


「ナゼルさんだよ。

 聖地を守る、この家のお嬢さんなんだ。

 この世界に来た時、とてもお世話になったんだ」


『(>ω<) あちゃー、また誤解されそうな言い方を!』

「ミー!」(ほんとね!)


 えっ、そうかな?

 ルルと目を合わせると……なんか、俺、やっちゃったようです。


「立ち話もなんだから、とにかく、上がってちょうだい」


 ナゼルに促され、二階の客間に通される。

 いわゆるメイド姿の若い女性が、お茶を三つ置き、部屋から出ていく。

 ナゼルさんは、当然のように俺の肩から白猫を抱きとると、向かいのソファーに座った。

 

「その後、困ったことはありませんか?」


 一応、尋ねておく。


「困ったことどころか。

 庭に聖地ができたでしょ。

 そのために国から補助金が出るようになって、ウチはもう安泰よ。

 商売辞めてもやっていけるくらい」


「ナゼルさんは、何かご商売を?」


「ルルさんでしたっけ?

 ええ、父が手広く商売をしています。

 ところで、シロー君、今回はなにをしに?」


「ああ、それは神樹様の関係だから詳しく話せないんだけど、とても大事な用件があるんだ。

 俺たちの他に、十人くらい人が来るけど、大丈夫かな?」


「ええ、今から急にということでなければ大丈夫よ。

 それより、キューちゃんも来てるの?」


 ナゼルさんに撫でまわされ、ブランは迷惑そう顔をしている。


「来てるけど……ああ、そうそう、多分、陛下のご家族も来ると思うから」


 シュテインのことが大好きな彼女のことだから、彼がいれば、キューとブランにモフモフ被害が及ばないだろう。


「ええっ!

 シュテイン様……」


 すでに両手を合わせ、夢見る乙女のポーズになっている。

 問題なのは、口からよだれが垂れてることだ。

 ルルも、俺と彼女の間に何かあるという疑いが消えたようだ。

 まあねえ、このよだれ顔を見たら百年の恋も覚めるだろうから。


「じゃあ、明日の夕食をみんなで一緒しようか。

 そうなると、神樹様の事は明後日だね」


「分かったわ。

 明日の夕方までに、お部屋の用意をさせておくから。

 十人以上となると、何人かは相部屋になるけど、それでいいかな?」


「いいですよ。

 お願いします」


 夕食まで時間があるので、この街にあるお気に入りのカフェに、ルルを案内することにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る