第34話 王女とのお茶会(上)


 白猫ぬいぐるみを売るための宣伝は、再びサーシャちゃんに頼んだ。

 ぬいぐるみをポータルズ世界群全てで売りだすことを伝えると、父親のマーシャル卿が喜んだ。 


「これでサーシャの可愛さが世界群に広がる!」


 まあ、そうなんだけど、親バカもほどほどにね。


『(*'▽') ご主人様がそれを言うの?』


 ま、まあ、自分が親バカだってのは、認めますがね。


 ◇


 城の庭にコケットを出して昼寝してると、ルルに起こされた。

 

「ルル、どうしたの?」


「パリスさんが、急いで会いたいとのことです」


 ふーん、なんだろう。

 リーヴァスさんに言えないようなことかな?


「じゃ、東屋あずまやに来てもらって。

 ケーキを出すから、コリーダとコルナにも声かけてね。

 念話のチャンネル開いとく」


「分かりました。

 二人とも、きっと喜びますよ」


 ルルは俺の肩に手で触れると、城の中へ入っていった。


 ◇


 エルフ城の庭にある東屋には、ロスさんと共にポンポコ商会支店を任せているエルフ女性パリスさん、ルル、コルナ、コリーダ、そして、なぜか四人の王女が座っている。

 かつてワイバーンの襲撃を受け、破壊された石造りの東屋に替え、俺が土魔術で建てたものだ。

 大きめに作ってある東屋は、八人の女性と俺が座ってもまだ少し余裕があった。


「モリーネ姫、どうしてここに?」 


 俺が尋ねるのも無理ないだろう。

 王女のお出ましとあって、東屋の周囲は騎士たちが囲んでいる。

 くつろげないでしょ、これでは!


「美味しいものが食べられるって、コルナが教えてくれたの」


 二人は友達だから、まあしょうがないか。


「後で、お母さまも来るわよ」


 ええーっ! 王妃様が参加なんてことになったら、お茶どころじゃないじゃない。


「なに青い顔してんの!

 曲がりなりにも、義理の母親がくるだけでしょ」


 そ、それはそうなんだけどね。


「シロー、お茶の前に、パリスさんの話を聞いてあげてください」


 ルルに言われそちらを見ると、王女に挟まれ、パリスさんが小さくなっている。

 

「パリスさん、お久しぶり。

 会議には参加してませんでしたね」


「シ、シローさん、あっ、リーダー!

 も、申し訳ございません」


 会議そっちのけで、憧れの人に会いに行くってどうかと思うよ。

 リーヴァスさんに憧れて冒険者になったぐらいだから、まあ、仕方ないかな。


「気にしなくていいよ。

 ところで、話ってなに?」


「先日、シローさんが支店に来たとき、ナルちゃんとメルちゃんが子供たちをボードに乗せてくださいました」


「ああ、そうだったね」


「あの後、支店の方に、子供たちやその親御さんから、あの板のようなものが買えないかという問いあわせが殺到してるんです」


「へえ、そうなの?」


 断ればいいんじゃないの?


「開店から閉店まで、そういった方でお店がいっぱいなんです」


 うわっ、それは困るね。


「うーん、どうするかなあ。

 今のところ、ボードは家族だけにしか渡さないことにしてるんだけど」


「お兄ちゃん、点魔法って作ったものはいくらでもコピーできるんでしょ?」


「そうだよ、コルナ。

 ただ、ボードって凄く便利でしょ。

 慣れない人が乗ると危険もあるし。

 そう思って、今までは家族限定にしてたんだけど」


「最高速度と操縦性を落とせば、その辺は解決するんじゃない?」


「うーん、それはそうなんだけど、どうするかなあ」


「私、ボード欲しいなあ」


「えっ? 

 モリーネ、なんで?」


 彼女はかつてボードを練習したけど、上達しなくて諦めた経験があるからね。


「コルナのようには無理だけど、スピードが出ないなら私でも乗れると思うの」


 なるほど、そういうことか。


「シローがポータルを渡れば、ボードは消えるんじゃないですか?」


 さすがにルルは、そこに気づいてたみたいだね。


「うん、以前はそうだったんだけど、時間に関する能力を手にいれてから、その辺はコントロールできるようになったんだ」


「そうでしたか」


「私、まだボードって乗った事ないの」


 末っ子の王女ポリーネが、残念そうな顔をする。


「そうか、まだナルとメルに乗せてもらってなかったんだね」


「ナルちゃんが誘ってくれたけど、怖くて乗らなかったの」


 なるほどね、二人は凄いスピードでボードを走らせるから。


「分かった。

 じゃあ、ちょっと作ってみるかな」


 点ちゃん、頼めるかな。


『(*'▽') いいですよー! どのくらいの性能にしますか?』


 そうだね。

 スピードは二十分の一、操作性が五分の一くらいでどうかな。

 それから、使える期限をつけるかな。一年でいいんじゃない?


『く(・ω・) 了解!』  


 東屋中央に備えつけた円形のテーブルに、白銀色の板が四枚ふわりと現われる。

 板の大きさは、スノーボードくらい。形はサーフィンのボードに似せてある。

 点ちゃんが安全に配慮したのだろう。厚さは三センチ程で、角は丸くなっている。

   

「「「えっ!?」」」


 王女たちとパリスさんは驚いてるよね。

 しかし、相変わらず、点ちゃんはいい仕事するよね。


『(≧▽≦) えーっ? そうかなあ』

 

 言葉と違って、凄く嬉しそう。


『(*'▽') だって、ご主人様、あまり褒めてくれないんだもん』


 そうかなあ、よく褒めてると思うんだけど。


 東屋の外、芝生の上では、四人の王女へコルナがボードを教えはじめた。

 思いついて、パリスさんにもボードを出してやる。色はオレンジ色にしてみた。

 アクセントとして、中央から少し外して、緑色の線が縦に三本入っている。


「うわーっ!

 これ、子供たちが欲しがるはずね!」    


 冒険者として鳴らした彼女は、すぐボードに乗れたようだ。


「これなら私でも乗れるわ!」


 早歩きくらいのスピードで滑るボードの上で、モリーネ姫が興奮している。


「楽しいっ!」


 最年少のポリーネ姫も難なく乗れているようだ。

 コルナによる臨時のボード教室は、大成功だった。 

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