第9話 美女の活躍 ― 打ちあわせ ―


『異世界通信社』の社長である私、柳井は頭を抱えていた。 

 ルル、コルナ、コリーダがこの世界に来ていると知ったのだろう、彼女たちに各方面からインタビューの申しこみが洪水のように殺到している。


 電子メールは桃騎士さんに頼んで分類してもらっているからまだいいが、手書きの手紙には、やはり礼儀として全て手書きで返さなければならない。

 それだけでも大変なのに、限られた時間しかない彼女たちのため、どれを選ぶかは厳選に厳選を重ねなければならない。

 シロー君から頼まれてるから、手は抜けない。


 くぅ、加藤ヒロのヤツ、新入社員の癖に、仕事をほっぽりだして異世界に渡ったと思ったら、そこで国王陛下に見初められ玉の輿ってどういうことよ! リア充にもほどがあるわ! こっちは猫の手も借りたいっていうのに……。

 次に会ったら、ずぇ~ったいゲンコツ落としてやる! 


 とにかく、予定がきちんと決まったら、三人と話をしましょう。


 ◇


 私はカフェ『ホワイトローズ』地下にある、『異世界通信社』社長室で、ルル、コルナ、コリーダ、三人と向かいあい、ソファーに座っている。


 コリーダは、ブラウンの髪、黒褐色の肌をした驚くほど美しいダークエルフの女性だ。彼女には伝えていないが、映画俳優やモデルを合わせても、私が知る限り最も美しい女性だ。しかも、美しいだけではなく、その歌声には聞く者の魂を揺さぶる力がある。天は二物を与えずっていうのは、彼女に当てはまらないわね。


 コルナは、小柄な美少女タイプ。薄茶色の髪、ピンと立った三角耳とふさふさ尻尾しっぽが本当にカワイイ狐人きつねびとだ。元々、神秘的な雰囲気があった彼女だが、向こうの世界で何があったのか、今では神々しいまでのオーラをまとっている。


 そして、ルル。軽くウエーブしたブロンドの髪が、小さな顔を縁取っている彼女は、凄腕の冒険者だそうだ。カワイイと美しいが見事に両立したその容姿には、私だけでなく女性なら誰しもが嫉妬するだろう。彼女は、ナルとメルという美しい銀髪少女二人の母親でもある。そして、少女たちの父親は、私が社長を務める『異世界通信社』のオーナー、シロー君だ。彼が異世界に迷いこんだ時から、ずっと彼を支えている存在がルルだ。


「コリーダさんは、以前いらっしゃったとき楽曲を担当した人たちとの打ちあわせがあります。

 あのアルバムは、史上最高の売上げを記録しています。

 担当者たちから、何曲くらい歌のストックがあるか、それを確認するよう言われています」

 

 私の言葉に、コリーダの美しい眉が少し寄る。


「ええと、歌のストックと言っても、数えきれないほどあるのだけれど……」


「そ、そうですか、数えきれない、と」 


 彼女の言葉をメモしながら、ちょっと馬鹿らしくなってくる。これは、私、責められなくていいと思う。 

 

「予定はこうなっています。

 お渡ししておきますね」


 彼女用に作ったスケジュールを渡す。

 

「ずい分、詰めこんであるようね?」


 それを目にしたコリーダが、美しい声で問いかける。

 もう、私にどうしろってのよ!


「シローさんがスケジュールは一日だけにしてくれっていうことでしたから、こうなりました」


 彼の名前が出た途端、コリーダの表情が柔らかくなる。


「そう、なら仕方ないわ」


 さっきまで無表情だった美女が、今は軽く微笑んでいる。 

 ぐっ、あそこからさらに美しさが増すって反則よね。

 

「次に、コルナさんですが……」


「私?」


 こてっと首を傾げたコルナは、すっごく可愛かった。うーん、三角耳をモフったらダメかな?


「絵を描かれるとか?」


「うん、好きだよ」


「コルナさんと魔獣や猫を撮った写真と、コルナさんが描いた絵を展示する企画があります」


「でも、私、絵を持ってきてないよ」


「シローさんが、たくさん持ってるってことでした」


「ああ、お兄ちゃんの点収納か」


 えっ? この娘、シローさんを「お兄ちゃん」って呼んでるの? 誰の趣味?


「写真の方はどうするの?」

 

「それはすでにシローさんが用意してくれてます」


 私は立ちあがり、壁際に立てかけてあったパネルを取ってくる。

 それをテーブルの上に置くと、三人が声を上げた。


「「「まあっ!」」」


 そこには、可愛く舌を出した丸くて白い魔獣と、それに顔を舐められたのだろう、くすぐったそうな顔をした笑顔のコルナが映っていた。

 シャッターチャンスというものがあるなら、まさにその瞬間を捉えた一枚だ。


「キューちゃん、カワイイ!」

「ちょっと、コリーダ!

 私を褒めてよ」

「へえ、シローって、よくコルナを見ているんですね」


 三人が口々におしゃべりを始めたので、慌ててそれを制止する。 

 時間が押してるのよ、こっちは!


「それで、シローは私に何を用意してくれてるんですか?」


 ルルがキラキラした目で私を見る。

 そ、そんなに期待されても困るわ。


「ええと、こちらです」


 彼女にスケジュール表を渡す。


「ええと、ダ、ン、ス。

 ダンスですか?」


 凄い、この娘、日本語が読めるのね!

     

「ええ、一流の舞踏団からルルさんに、客演のお誘いが来ています」


「はい、分かりました」


 ルルは、あっさり客演を承諾した。

 

「では、ルルさん、コルナさん、コリーダさん、当日はよろしくお願いします」


 一仕事済んで、とりあえずほっとしたが、明日からのことを考え、頭が痛くなった。

 彼女たちの仕事には、どうしてもウチの会社が関わる必要がある。

 全く、社員三人だけで、どうしろってのよ!

 人手を増やしてもらうよう、リーダーにお願いしなくちゃ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る