第41話 約束


 ポータル探しは『平和大陸』のデータバンク、図書館を中心に行われた。そして、点ちゃんがそれらしきものをやっと発見した。

 図書館には、この世界に人々が入植して間もない頃の資料が残っていた。やはり、最初の入植者が来たのは、『学園都市世界』からだったようだ。

 そして、そこには俺がこの世界に現れた場所である『黒き悪魔の遺跡』の他に、『白き悪魔の遺跡』についての記述があった。


 さっそくその場所に向かったが、そこは『黒き悪魔の遺跡』からそれほど遠くない場所で、ただ、荒れ地が広がり遺跡などなかった。

 その辺りの地下を調べてみる。


 点ちゃん、どうだい?


『(Pω・) 見つけましたよー!』


 おっ! やっぱり地下にあったか。

 点ちゃんがいないと、お手上げだったな。

 じゃ、点ちゃん、通路の確保よろしく。


『(^▽^)/ りょーかい!』


 立っているところから少し離れた地面に、ぽこりと四角い穴が開く。

 階段がついた穴の中へ降りていくと、二十段ほどで岩壁にぶつかった。

 大きな岩を組みあわせた構造のようだ。

 その中で扉のような位置にある二枚の岩に点魔法で重力付与を行い、奥へ動かす。


 ゴリゴリゴリ


 そんな音を立て、扉のように二枚の岩が内側へ開く。

 腰のポーチから『枯れクズ』を出し、中を照らす。

 そこは、この世界に出てきたときの小部屋とそっくりな石室だった。

 部屋の奥には緑の石で縁どられた長方形があり、その中は黒く渦巻く空間になっていた。

 ポータルだ。


 これで次の世界に行く準備はできたことになる。


『(・ω・)ノ ところでご主人様、セルフポータルは試しましたか?』


 そういえば、忘れてたよ。


『(; ・`д・´) さっさとしろーっ!』


 また点ちゃんに怒られちゃった。


 セルフポータルを実行すると、『田園都市世界』の風景と、今いるこの世界の風景が浮かんできた。

 どうやら、銀さんとタムがいる世界へは行けるようだ。

 これでこの世界ですべきことは終わったな。


 ◇


「シロー殿!

 我らを見捨てられるのですか!」

「まだ統一国家への道筋も定まらぬのに、ここで英雄殿に去られては……」

「どうか、今しばらくお力をお貸しいただきたい!」


『結びの家』にある会議室では、俺の前に並んだイスタニア、ウエスタニア両国の幹部たちが、俺を引きとめようと必死だ。

 しかし、ここは心を鬼にしてでも、言うべきことを言わなければならない。


「俺がこの世界に来たのは、自分が意図しない原因からなんですよ。

 元の世界では、家族が俺の帰りを待っているはずなんです。

 賢人が企んだ、男女の分断、偏見の植えつけを乗りこえ、あなた方が幸せな社会を作っていくことを心から願っています」


「そ、そんな……」

「どうしても、助けてはもらえぬのか……」


「次に来るとき、男女差別のない統一国家ができている。

 俺はそう信じています」


「むう、仕方ないの。

 英雄殿は、すでに十分力を貸してくださった。

 ここからは、我らがそれにお応えするべきだな。

 偏見のない社会になるよう、全力を尽すとお約束しよう」


 腕を組んだイスタニアの最高司令官が、重々しくそう言った。


 ◇


 会議の後で、俺は別室にモラーさんとヴァルムを呼んだ。


「な、なんなんです、この部屋は!?」

「ふっかふかですね、この椅子!」


 椅子じゃなくてソファーなんだけどね。

 この部屋は、俺が使うため、落ちついた茶色と緑色でコーディネートされている。

 壁には布が貼ってあり、エルファリアの木製家具が置いてある。


 二人と俺の間にあるテーブルの上に、青い箱を置く。


「綺麗な箱ですね。

 これ、何です?」


「モラーさん、開けてみてください」


 彼女が箱を開けると、白銀色の光沢を放つ、二つの指輪が置いてあった。

  

「これは?」


「ヴァルムさん、モラーさんの左手に着けて上げてください」


 ヴァルムは指輪を手に取ると、それをモラーさんの左手小指に着けようとする。


「ああ、違います。

 そうだな、中指に着けてもらおうかな」


 指輪を着けてもらったモラーさんは、それをうっとり眺めている。


「ささ、モラーさんも、ヴァルムさんに着けてあげて」


 はい、指輪の交換完了と。


「その指輪は、一人が考えたことがもう一人に伝わるようになっています」


「「ええっ!」」


「この『結びの家』はお二人に任せます。

 指輪は、その仕事へのお礼ですよ」


 点ちゃんが『平和大陸』のデータを分析していているとき、念話機能を付与するアイデアに気づいたんだよ。

 指輪には『付与 時間』も施してあるから、俺が他の世界に行っても使えるはずだ。


「でも、こんな凄いものをもらっては……」


 モラーさんが、彼女らしくなく少しうろたえている。


「お二人の関係が進んだら、指輪は薬指に着けるといいですよ」


「「ええっ!?」」


 二人がお互いの目を見て赤くなる。

 くう、このリア充め!

 二人には、イスタニアとウエスタニアの架け橋になってもらおう。

 

 ◇


 木々が生い茂っている場所を選び、この世界にも神樹の種を植えておく。

 そして、新鮮な海の幸と大量の果物を収穫した俺は、再び『白い悪魔の遺跡』にやってきた。

 さてさて、次の世界では何が待っているかな  

 点ちゃん、ブラン、用意はいいかな?


『(^▽^)/ 次の世界へゴー!』

『ミィミー!』(楽しみー!)


 俺はブランを肩に乗せ、ポータルの黒い渦に足を踏みいれた。

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