第39話 結びの大陸


『平和大陸』にあった戦略兵器『メテオラ』の製造工場は消しておいた。ついでに『ハエ』に関する工場もね。


 治安維持を受けもつ人々の近代兵器も全て消しておく。

 彼らには、その代わり最も粗悪なボウガン型武器を最小限配布した。


 賢者が利用していた高層ビルは、『戦争大陸』と呼ばれてきた土地に住む人々の『平和大陸』における駐屯地となった。

 そして、『平和大陸』には、海洋研究用の船が何隻かあったので、これを使い大陸間の定期航路を開いた。

 軌道上に浮かんでいた何機かの人工衛星は、とりあえず全て点収納に入れておいた。

 

 俺にしかできない仕事を終えると、イスタニアとウエスタニアの中間に作った『土の家』へ瞬間移動する。


 ◇


「シロー殿、ぜひあなたに決めていただきたい!」

「そうだ、あなた以外に考えられない!」 


『結びの家』一階の食堂で朝食をとっている俺の前には、ウエスタニアのモラー少佐とイスタニアのヴァルム大尉が立っている。

 二人は、俺にこの大陸の名前を決めてほしいそうだ。


 エルファリア産のお茶から立ちのぼる芳香アロマを楽しみながら、こう言ってみる。


「うーん、この家の名前、『結びの家』っていう名前にしたんだよね。

 だから、いっそ『結びの大陸』でいいんじゃないの?」


 適当にそう言っておく。こうしておけば、どうせ却下されて、誰か他の人が決めてくれるだろう。


「「『結びの大陸』……」」


 ほら、二人とも呆れた顔をしてる。

 自慢じゃないが、俺が名前をつけると、家族でさえドン引きするんだぞ。


「最高です!」

「素晴らしい!

 さすがシロー殿だ!」


 えっ!?

 おい、ちょっと待ってよ!

 さっきのは、呆れた顔じゃなかったのか?!


「ははは、これで懸案の一つがあっさり片づいたわね!」

「ああ、全くだ」


 二人はお互いの拳を合わせている。

 おいおい、俺が適当に決めた名前が大陸名ってどうよ!?


「ところで、シロー殿。

 例のモノを使わせてもらえないか?」

「おお、私もぜひ頼む!」


 訴えかけるモラー少佐、ヴァルム大尉の目が、子供のようにキラキラしている。

 しょうがないなあ。

 

 ◇


「ふぁ~、まさに極楽だの~」

「なんど入っても、これはイイねえ~」


 モラーとヴァルムが湯気のむこうでそんな声を上げている。

 点魔法で作ったお盆に置かれたグラスには、地球産高級ワインが入っている。

 俺たちは、『結びの家』一階に設けた大浴場に入っているところだ。

 

 先日、合同会議の時、お互いにわだかまりがあったイスタニア、ウエスタニアの軍上層部のみなさんを、全員全裸にしてこの大浴場に叩きこんだんだよね。

 裸のつきあいをすれば、わだかまりが解けると思ったんだよ。


 全員、俺の方をジト目で見てたから、それで仲良くなったみたい。

 ちょっと狙いとは違ったけれどね。


「そうそう、この施設だけど、このままじゃ俺がいなくなった後で使えないから、後で改造しておくね」


 この施設、温泉水アーティファクト使ってるからね。

 ここを立ちさるとき、それは持っていくつもりだから。


「ええっ!?

 ここ、使えなくなっちゃうんですか!?」


 モラーさんがお湯の上に上気した顔を浮かせ、悲しそうな顔をする。

 だから、人の話をよく聞こうよ。


「いや、使うのに少し手間がかかるだけ」


「よ、よかった~!」


 どんだけ風呂好きなんだよ。

 まあ、この大陸には、今までシャワーしか無かったようだけど。

 

「あの泡がでるやつは、置いていってもらえますか?」


 ヴァルムが言ってるのは、シャンプーやリンスのことだね。

 今、ここで使ってるのは、地球から持ってきたものだから、それも工夫しないとね。


「ああ、『平和大陸』の方で、あれと似たものがすでにあるみたいだよ」


「それを聞いて安心しました」


 あなたもフロスキーさんになっちゃいましたか?

 

『( ̄▽ ̄)つ それはご主人様でしょ!』


 確かに、俺はお風呂好きだけど。


『( ̄▽ ̄) 軍事施設探す前に、お風呂について調べるって……』


 そう言えば、『平和大陸』で、そんなことしちゃったかな。

 おかげで色々、面白い発見があったよ。


『(; ・`д・´)つ その前に仕事しろっ!』


 ええっ?! まあ、分かってますけどね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る