第3話 フランスからの招待(1)
帰還パーティの後、後藤と遠藤はその後片づけをしている。『ポンポコ商会』のみんなは、ここが住居である白騎士さん以外、それぞれ自宅へ帰った、
リーダーのシローと私は、カフェの地下にある、『異世界通信社』の社長室で、懸念の事案について話している。
「そうですか、フランス大統領からそんな話がね」
「シローは、どうしたらいいと思います?」
私は二人だけの時に使うと決めた『シロー』という名前を使った。
以前、彼が家族を伴い地球に帰ってきたとき、『ルル』という名の女性が、彼をそう呼んでいるのを聞いて以来そうしている、
「そうですねえ、ちょっと気にかかることもありますが、ここは、招待を受けておいてください」
「ええ、もうその方向で調整に入っています」
「フランスには俺が送りますから、荷物だけ用意してもらえばいいでしょう」
「もしかして、瞬間移動ですか?」
「ええ、パスポートの問題は、俺が何とかしときますから」
「そんなことができるんですか?」
「ええ、俺たちがアメリカに行くとき、そうしたことがありますから」
そう言えば、『初めの四人』でアメリカ旅行したことがあったわね。
「では、お任せします」
「あ、そうそう、これ、お土産です」
テーブルの上に、立方体の青い箱二つが現われる。
「こちらが、『ポンポコ商会』のみんなからのお土産で、これは俺の家族からのお土産です」
「ウチのみんなも、柳井さんに会いたがっていましたよ」
「そんな……あ、ありがとうございます」
◇
リーダーが瞬間移動で部屋から姿を消すと、私は彼が座っていたソファーの背に手を当てた。
そこに触れると、まだ彼の体温が残っていた。
目を閉じ、その温かさを味わう。
ノックの音で、慌てて自分のデスクに戻る。
「どうぞ」
「社長、後片づけ、終わりました」
肘の所までシャツをまくり上げた、後藤が入ってきた。
「ご苦労様」
「あっ、これ、リーダーからのお土産ですね?」
「え、ええ、そうよ」
「開けてもいいですか?」
「そうね。
せっかくだから、遠藤も呼んできて。
みんなで開けましょう」
この後、社長室ではしばらく、驚きや喜びの声が続いていた。
◇
フランス訪問当日、『異世界通信社』の三人は、社長室に集まった。
現在、時刻は午後五時だが、時差の関係でフランスへ着くのは朝になるはずだ。
何も無い空間がゆらめき、肩に白い子猫を乗せたリーダーが現われる。
彼は、いつものくすんだカーキ色の長そで長ズボンを着ている。それは冒険者用の衣装だそうだ。頭に巻いた茶色い布もいつも通りだ。
「こんにちは。
みなさん、荷物はこれだけですか?」
「ええ、そうよ。
リーダー、今日はお世話になります」
私の前に置いてあった、茶色の旅行ケースが一瞬で消えた。
後藤、遠藤の荷物も消えている。
まだそういったことに慣れていない遠藤が、目を丸くしている。
「では、手を繋いでください」
私たち三人が手を繋ぐと、リーダーが私の空いた方の手を取った。
「行きます」
次の瞬間、私たちは、落ち着いた雰囲気の広い部屋にいた。窓の外には、ヨーロッパらしい街並みが広がっている。その中に見えるいくつかの歴史的建造物で、ここが間違いなくパリだと分かった。
窓の外を眺め、ぼーっとしている私たちをそのままにして、リーダーは室内にある電話を掛けたり、私たちの荷物を魔法の収納から出したりしていた。
ノックの音で彼がドアを開けると、口ひげを生やした上品な初老の男性が立っていた。
「支配人、久しぶりです」
「おおっ!
お久しぶりです。
お帰りなさいませ、シロー様」
恐らくフランス語で話しているのだろうが、私は彼の言っていることが全て理解できた。リーダーからもらった他言語理解の機能を持つ指輪のおかげだ。
「今回は、五日ほどお世話になります」
「はい、ごゆっくりなさってください。
何かあれば直接私へご連絡を」
支配人が、電話番号が書かれたカードを置き出ていく。
一流ホテルの支配人がそこまで気を遣っているのにちょっと驚く。
なんでだろう。
「会合は明日の夕方ですから、それまで街を見てまわりましょう」
リーダーの言葉で、私たちは街へと出かけた。
◇
「ちょ、ちょっと休みませんか?」
毎日身体を鍛えているはずの後藤が弱音を吐く。
「そうですね。
お腹も空いてきましたし」
荷物を足元に降ろし、ハンカチで額の汗を拭きながら、遠藤もそれに賛成した。
「二人とも、元気ないわねえ。
まだ、何も見てないじゃない」
「ええっ!
美術館三つに、お店五軒ですよ。
何も見てないってことは――」
「そんな事では、フランスの文化が十分味わえないわよ。
これでも、一番行きたいルーブルを我慢してるんだから」
「ははは、二人とも、こういった事に慣れてないんでしょう」
「リーダーは、疲れてない?」
「記録と買い物に忙しくて、疲れるどころじゃありませんよ」
彼は、家族に見せるため、美術館の絵画を「点ちゃん写真」とやらに記録しているそうだ。
高級ブランド店で大量の買い物をしていたが、それも家族へのお土産らしい。
「ここはホテルから近いし、一旦、部屋へ戻りましょう。
彼らも荷物から解放されたいでしょうから」
リーダーが言っているのは、後藤と遠藤が持っている荷物のことだ。人前で荷物が消えると何かと都合が悪いので、二人が持っていたのだ。
手に持った袋と箱で、彼らの両手は塞がっている。
「あら、いつの間にか荷物が増えてたのね。
ご苦労様」
「しゃ、社長~、た、頼みますよ~」
後藤の情けない声を聞き、ここは仕方ないと思いきった。
「分かりました。
一度、ホテルへ戻りましょう」
ホテルに帰った私たちを、意外なお客が待っていた。
◇
ホテルの玄関を潜るなり、支配人が小走りに近寄ってきて、リーダーに何か耳打ちする。
リーダーが軽く頷くと、支配人は恭しく礼をして、受付カウンターの後ろへ消えた。
「リーダー、何かありました?」
「柳井さん、お客さんが来てるようです。
彼と食事になるかもしれません。
もしかすると、午後の買い物はできないかもしれません」
「お客さん?」
リーダーは、私の耳に口を近づけると囁いた。
「フランス大統領です」
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