プリンス翔太編
第1話 異世界留学
ボクの名前は、
でも、ボクはみんなと一緒に小学校には通っていないんだ。なぜかというと、異世界に留学しているから。
ボクの『英雄』シローさんが、特別な魔法でパンゲアっていう世界に連れてきてくれたんだ。
ここは、その世界にあるアリストという国だよ。この国は、ボクのお姉ちゃんが国王をやっているんだよ、すごいでしょ。
アリスト国のお城がある町には、『アーケナン魔術学院』があって、そこがボクの留学先なんだ。
ボクが住んでいるところ?
実は、お城に住んでるんだ。お姉ちゃんが女王様っていうのもあるんだけど、いつの間にか、ボクは『プリンス』っていう名前を付けられちゃったんだ。
でもね、本当の理由は、お城にいるエミリーって女の子を守るためなんだ。
これは、絶対に話しちゃいけない秘密なんだけど。
どうやって守るかって?
ボクは魔術が使えるんだ。
地球からこの世界に来た人は、『覚醒』というのをすることがあるの。
ボクは魔術師に覚醒したんだよ。レベルは30。
ボクの年で、魔術師レベル30は、とても珍しいみたいだよ。
今日は、初めて留学先の学院に行く日だから少し緊張してるんだ。
◇
お城から秘密の通路を通って、どこかの地下室に着いた。
「プリンス、足元にご注意ください」
そう言ってるのは、ここまでボクを案内してきたルイだよ。
ルイは、軽くウエーブしたブロンド髪の小柄な女の人で、十六才なんだ。
彼女はアーケナン魔術学院の二回生だから、転入したらボクの先輩になるね。
顔つきは、地球の白人に近いかな。
地下からの階段を昇ると、木造の質素な室内だった。
木製の机と椅子があって、日本でいうと六畳くらいかな?
窓を閉めきっているから、薄暗いね。
ボクが周囲を見られるのは、ルイが唱えた魔術のお陰なんだ。
光るボールのようなものが、空中に浮かんでいる。
地下通路を進む時も、この灯りで足元を照らしたんだよ。
「こちらです」
ルイはそう言って、ドアを開けた。
まぶしい朝の光が入ってくる。ドアの外は、小さな庭になっていた。
ルイの後について町の中を歩いた。
ヨーロッパの歴史ある町のような雰囲気で、お姉ちゃんは、「ヨーロッパの中世みたい」と言ってたっけ。
どこからか、パンを焼くような香ばしい匂いが漂ってくる。
ルイとボクが歩いていると、町を通る人やお店の人が、みんなボクの方を見るんだ。
これはお姉ちゃんから言われていたから分かっていたことだけど、この世界では、黒い髪がすごく珍しいんだって。
だから、みんなが注目するんだね。
石畳の道は、革靴のボクには少し歩きにくかった。
学校までもう少し遠かったら、足が痛くなっていたと思う。
学校の門は凄く立派で、レンガのようなもので造られていた。
継ぎ目がないから、もしかしたら魔術で造ったのかもしれない。
門の所には、茶色いワンピースを着た三十才くらいの女性と、白いあごヒゲのおじいさんが立っていた。
おじいさんは、ルイが羽織っているような、黒いローブを着ている。
「学院長、マチルダ先生、おはようございます」
ルイが二人に挨拶した。
「おはよう」
「うむ、おはよう」
ボクが異世界の言葉が分かるのは、魔道具の指輪が言葉を自動で翻訳しているからなんだ。すごいでしょ。
「あなたが、ショータ殿ですな?」
白いあごひげのおじいさんが、にこにこ顔でこちらを見ている。でも、目が少し怖いね。
「はい、ショータです。
よろしくお願いします」
ボクが頭を下げようとすると、ルイに止められる。
「ショータ様、むやみに頭を下げてはいけませんよ」
ルイが耳元で囁く。
「まあ、とても礼儀正しいのね!
私が担任のマチルダです。
今日からよろしくね、ショータ君」
「は、はい、
よろしくお願いします」
ボクとルイは、マチルダ先生の後について校舎の中へ入ったんだ。
◇
教室は、日本の学校とすごく似ていた。
普通の学校と同じくらいの部屋に、机と教壇がある。
ただ、クラスの人数は、二十人くらいだった。
そして、年齢もいろいろで、ボクより少し年長に見える人から、髭が生えた、どう見ても大人の人までいた。
「きゃーっ!
可愛い!」
「黒髪!
ステキっ!」
「こっち見てーっ!」
女の人たちから声を掛けられる。
でも、ボクは別に動揺しなかった。
日本でもそうだったから、慣れているんだ。
マチルダ先生が、ボクを紹介してくれる。
「今日から、君たちと一緒に学ぶショータ君です。
学園都市世界からの留学生ですよ」
本当は地球世界からなんだけど、それは秘密にするように言われてるんだ。
「うわー!
ショータ君、凄い!
異世界留学じゃん!」
「ショータ~、こっち見て~ん」
「可愛い上に優秀って、もう最高!」
みんながうるさいから、ボクは自分の言葉で紹介するのをためらっていた。
バンッ!
ボクの後ろに立っていたルイが、手で黒板を叩いた。
教室は、シーンとなった。
「ショータ様、ご紹介を」
「学園都市世界から来たショータです。
よろしくお願いします」
ボクの自己紹介が終わると、ルイは教室を出ていった。彼女は、この学校の二回生のはずだから。
ボクは、教室の一番前の空席に座わるよう言われた。
マチルダ先生が、さっそく魔術の授業を始めた。
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