第79話 英雄と陰謀(4)
点ちゃん曰く、「恥にまみれた」演説……をケーナイギルドで俺がしてから三日後、『神樹戦役』のパレードが開かれた。
これは獣人会議主催で行われるもので、全ての獣人族から族長が集まった。
『時の島』大陸全土から、パレードに参加しようという人々が集まったため、宿泊施設が足りなくなった。
そのため、ケーナイギルドからパーティ・ポンポコリン宛てに急な指名依頼が出された。
依頼内容は、宿泊所の建設だ。
俺はケーナイの街北側にある荒れ地に『土の街』を造った。
この街は、これからも使えるように、下水道を完備してある。
十キロほど離れた川から水を引くため、予想外に大掛かりな工事となった。
宿泊施設とは別に、大きな建物を一つ建てた。
これは三階建ての高さがあるもので、中はがらんどうになっている。
小さな体育館くらい広さがある床には、全面マットが敷いてある。
パレードの前日である今日、俺たちは、この大きな建物を訪れている。
ナルとメルは、建物に入るなり、床をコロコロ転がって遊んでいる。
やがて、入り口から大勢の獣人が入ってきた。
各部族の族長たちだ。
大柄な熊人から小柄な狸人まで、様々な獣人がいる。
「わーい!
熊のおじさん!」
「猫のおじさん!」
ナルとメルがさっそくじゃれついていく。
族長たちは、最初二人に礼をした後、それぞれが相手をしてくれている。
「お兄ちゃん、これって、ちょっとやり過ぎじゃない?」
コルナが言っているのは、この建物のことだ。
ここは、ナルとメルが族長たちと遊ぶためだけに、俺が用意したものだ。
つまり、この施設は一日だけの遊び場だ。
「まあ、いいんじゃないかな。
俺たちがアリストに帰ったら、ここを『神樹戦役記念館』にするって、アンデが言ってたし」
ギルマスのアンデは、ケーナイを治める、犬人の族長でもあるからね。
「それでもねえ……。
お兄ちゃんは、ナルちゃん、メルちゃんにホント甘いんだから」
熊人のお腹でトランポリンをしているメルに手を振りながら、コルナがそう言った。
「そうかなあ」
「こういうのは地球世界で『親バカ』って言うんだって、マイコが教えてくれたよ」
ちょっと意味が違うような気がする。
舞子は、友人のコルナに微妙に意味がずれた言葉を教え、彼女をからかっているところがあるからね。
『( ̄▽ ̄) 意味がずれてるどころか、ぴったりの言葉でしょ』
さっそく、点ちゃんが突っこんだ。
「真竜様のお姿をこうやって拝見できるとは、本当に光栄な事です。ニャ」
俺たちの横に並んだ猫賢者が、無邪気に遊ぶナルとメルを見て目を細めている。
「一度、ドラゴンの姿で遊ばれているのを見たいものです。ニャニャニャ」
「猫賢者様、よろしければ、近いうちに天竜国までご一緒しましょう。
そこでは、竜王様がやっている子竜の学校がありますよ」
「おおおっ!!
本当か、シロー殿!
きっと、きっとじゃぞ!
ニャニャニャー!」
猫賢者の食いつきが凄いことになっている。
「わ、分かりました」
とりあえず、そう答えて彼の興奮を鎮めておこう。
途中、様子を見にきたポルとミミも遊びに加わり、「体育館」ではナルとメルの笑い声が夕方まで途切れなかった。
◇
俺たちは、舞子の屋敷にある客室で、食事までのひと時を過ごしていた。
遊び疲れたナルとメルは、二階の寝室でぐっすり寝ている。
「毛玉が一杯できちゃいました」
ポルが泣きそうな顔で言う。
彼は自分の
ポルの尻尾がダマダマになったのは、ナルとメルがそれを標的にした『ぽるっぽ』という遊びをしたからだ。
最初、ナルとメルの遊びに参加する予定がなかったポルだが、遊びとなると発揮される、彼女たちが持つ無尽蔵のエネルギーに、族長たちが次々と脱落すると、仕方なくお遊戯に参加することになった。
ポルの尻尾を触りまくるという、『ぽるっぽ』遊びは、彼にトラウマを植えつけるほどキツイらしい。
点ちゃん、お願いできる?
『(・ω・)ノ やってみるー』
点ちゃんは、しばらく黙っていたが、どうやら解決策を見つけたようだ。
「ポル、点ちゃんが毛玉を取ってくれるそうだから動くなよ」
「えっ、そうですか?
点ちゃん、ぜひお願いします」
点ちゃんにしては、時間が掛かってたな。
『(u ω u)~3 ふう、やっと終わった』
「あれ、あれれっ!?」
「ポル、どうした?」
「なんか……なんか尻尾がおかしいんです」
「おかしい?」
よく見ると、確かにポルの尻尾が変化している。
そこには見慣れたふさふさ尻尾の代わりに、小筆の先に似た細っそりした尻尾があった。
点ちゃん、ポルの尻尾が細くなってるよ。
『(・ω・) もつれていた毛は除去しました』
えっ!?
どうしてそんなことに?!
『へ(u ω u)へ だって、あれを全てほどこうと思ったら、『神樹戦役』で使った以上のエネルギーが要求されますよ。常識的に考えて、それは却下しました』
「点ちゃん、ヒドイ……」
自慢の尻尾が残念な事になり、肩を落としているポルからそういう言葉が漏れた。
あれ?
なんかおかしいぞ。
「ポル、点ちゃんが言ってること、聞こえるの?」
「あれ?
そういえば、どうしたんでしょ?!」
なるほど、そういう事か。
点ちゃん、点が着いてる人となら、おしゃべりできるようになってるみたい。
『(・ω・) ご主人様はもう……そんなことある訳ないじゃないですか』
「そんなことある訳ないじゃないですか」
ポルが点ちゃんの声に続けて復唱する。
『(!ω!) き、聞こえてる!?』
「聞こえてますよ」
ポルがすかさず答える。
『\(^ω^)/ やったー!!』
こうして、俺以外の人たちと念話できるチャンネルを手に入れた点ちゃんだった。
聖樹様にいただいた加護が影響しているのは、まず間違いないだろう。
あれ?
これって、ルルに告げ口されまくりになるんじゃない?
点ちゃんの新能力は、やがて俺の精神をガリガリ削ることになる。
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