第73話 報酬と感謝(2)


 その夜、マスケドニア王族との宴が終わり、部屋に帰った俺は加護の確認をすることにした。


 パレットを出してと。

 ちょんちょん。

 加護をタップと。

 

 古代竜の加護 物理攻撃無効

 神樹の加護  未来予知(弱)

 竜眼     ??? 

 神樹の加護  植物共感

 聖樹の加護  ???


 植物と話せるようになったのは、『神樹の加護』と『聖樹の加護』の組み合わせではないだろうか。

 そして、白猫の言葉がなんとなく分かるようになったのと、マナが見えるようになったのは、『聖樹の加護』のお陰だろう。


 点ちゃん、『???』の所は点魔法のレベルが上がれば分かると思う?


『(Pω・) 恐らく分かると思います。かなりレベルを上げる必要がありそうですが』


 そういうことか。


 ◇


 さて、『英雄の部屋』(加藤命名)には寝室もついていたが、そこにはキングサイズよりもまだ大きいベッドが一つだけあった。

 これは、「シロー以外に五人以上寝られるように」と、加藤がショーカにアドバイスしたと聞き、俺が激怒したといういわくつきベッドだ。


 入浴した後、横になっていると、ルルも入浴を終えベッドに上がってきた。

 ルルは慣れない環境で疲れたのか、横になるとすぐに寝息を立てはじめた。その寝顔が可愛くて、俺は理性がぶっ飛びそうだった。

 幸い俺とルルの間に、体を伸ばしたブランが寝ていたから、間違いは起きなかった。


 川の字になって寝たってこと。まん中の短い棒がブランちゃん。


 ◇

 

 次の日、早朝から侍女に起こされた俺は青い服を着せられた。採寸は昨夜おこなっていたから、服を作った人は寝ていないだろうね。

 ルルは別の部屋に連れていかれたようだ。


 部屋に運ばれた軽い朝食を一人でとった後、俺は玉座の間へ案内された。


 俺が入っていくと、貴族たちが立ちならび拍手している。

 いつもなら、落ちつかない気持ちになるのだが、俺の目は一点に釘づけだった。


 玉座の横に、青いドレスを着たルルが立っている。俺には彼女以外のものは見えていなかった。

 透きとおった青いドレスをまとった彼女は、海から生まれた妖精のようだった。

 俺は意識せず、フラフラと彼女の方へ近づいていく。


「ミー!」(しっかりして!) 


 肩に乗るブランの声が聞こえたとき、俺は白手袋をはめたルルの手を取り、彼女の目を覗きこんでいた。

 ルルは目を伏せ、赤くなっている。


「ボー、いくらなんでも時と場所を考えろよ」


 自分の事は棚に上げて、そんなことを言う加藤の声が聞こえた。

 そちらを見ると、やはり青い服に身を包んだ加藤とミツが並んでいる。

 

「リーダー、ポンポコ商会の沽券にもかかわります。

 しっかりしてください」


 ミツが厳しい声を出す。


「あ、ああ、ごめんごめん」


 ミツが俺の手を引き、ルルの横に立たせてくれた。

 

「それでは式典を始めます」


 ショーカの声で銅鑼どらが鳴った。

 どこかにいる楽隊が、落ちついた曲を演奏している。 


 マスケドニア国王が、玉座から立ちあがった。


「この度、我が国はここにおられる英雄シローのもと、『神樹戦役』に勝利を収めた。

 そのことで、世界群が崩壊から救われたのだ。

 我がマスケドニアの名は、永遠にポータルズ世界群に輝くであろう」


 管楽器が音を揃え、太鼓が打ちならされる。

 

「皆の者、礼を示せ」


 国王を始め、部屋にいるすべての者が膝を着いた。


「神聖神樹様より、褒美を頂いた。

 謹んで頂戴する」


 皆が頭を下げる。俺も慌ててそれに合わせた。

 金色に彩色した点魔法の箱を空中に浮かべる。


 みなが顔を上げたタイミングで、陛下が立ちあがり、宙に浮いた箱に触れる。

 箱が透明になると、中に入っているものが見えた。


 それは五千個に及ぶ神樹の種だった。


「この度、戦役に参加した全ての兵士が、神聖神樹様より直接褒美を頂いた」


 広間が歓声で満ちる。


「マスケドニアは、英雄、勇者と共に、神樹を守ることをここに宣言する」


 音楽が高らかに鳴り、皆が立ちあがり、万歳をしている。


「「「神聖神樹様、万歳!」」」

「「「マスケドニア万歳!」」」

「「「英雄万歳!」」」

「「「勇者万歳!」」」


 その声の中、陛下が上座を降り、赤いカーペットの上を歩いていく。

 俺とルル、加藤とミツもその後に続く。

 宮殿の外に出ると、広場は民衆で埋まっていた。


 ◇


「もう、へとへと」


 俺は弱音を吐いた。

 式典の後、俺たちは、城下町で行われたパレードに参加したのだ。

 幸い馬車の窓から手を振るだけだったが、それでも俺の精神はガリガリ削られた。


 加藤とミツは慣れたもので、にこやかに手を振っていた。

 点ちゃんとブランは二人組んで、パレードをいいことにスリを働く輩を捕まえたりしていた。


 ルルは青い顔をした俺が気になったのだろう。濡れタオルで顔を拭いてくれたり、果物のジュースを飲ませてくれたりしていた。

 

「ルル、悪いね」


「ちっとも。

 このような行事は、シローさんが一番苦手なものですから」


 俺は途中からルルの膝に頭を載せ、横になっていた。

 俺たちの前に座っている加藤とミツが呆れたような顔でそれを見ている。


「おい、ボー。

 いくらなんでも、ルルさんに甘えすぎだろう」


「そうですよ、ポンポコ商会リーダーとしての威厳を持ってください」


 そういう声が聞こえるが、俺にはそれに答える元気もない。

 結局、馬車が王宮に帰るまで、ルルの膝枕で寝てしまった。


 ◇


 次の日、『神樹戦役』に参加した兵士一人一人に、陛下が神樹の種を下賜する行事に参加した。

 俺も、一人一人に直接お礼を言う。

 彼らの働きが無かったら、俺は多くの敵兵を殺すはめになっていたのだから。


 授与式は昼食をはさんで八時間ほどかかったが、俺は昨日のような疲れは感じなかった。

 授与式が終わった後、俺は貴賓室でルルとお茶を飲んでいた。

 扉が開き、ショーカが入ってくる。彼の肩にはブランが乗っていた。


「ミー!」(楽しかったー!)


「シローさん、ブラン殿は素晴らしいですな」


「ええ、そうですが、ブランが何かしましたか?」


「城下にはスリや強盗を働く地下組織があったのですが、摘発できるのは末端の構成員だけで、今まで打つ手がなかったのです。

 ブラン殿の働きで、それをほぼ一網打尽にすることができました」


「彼女は一体何を?」  


 ショーカは地図を取りだすと、それをブランの前に持っていく。

 ブランは、地図上のある箇所を前足の先でちょんちょんとつついた。

 すかさず、ショーカがその場所に印を記入する。


「こうやって、組織のアジトを次々に教えてくれたのです」


 なるほど、ブランが持つ記憶読み取り、そしてその受けわたしの能力を使えば、もっと簡単に済むのだが、彼女はその能力をショーカに知られないようにしていたんだね。

 まあ、彼女には点ちゃんもついてるし、当たり前か。


「ブラン殿ありがとうございます」


「ブラン、ご苦労様」


「ミミミ!」(ふふふ)


「ただ、組織のボスがまだ捕まっておりません。

 王宮にもヤツの一味が潜りこんでいたようで、そこから追跡の情報が漏れていたようなんです。

 もしかすると、シローさんを逆恨みする可能性もあります。

 お気をつけください」


「忠告ありがとう。

 気をつけるよ」


 この時、俺はショーカの心配が現実のものとなるとは思ってもみなかった。

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