第70話 帰郷と報酬(3)


「シロー殿、それは!?」


 ミランダさんは、森から出てきた俺を見るなり、そう言った。


「ミランダさん、俺の事は今までどおり、シローでお願いします。

 ところで、”それ” とは?」


「体が光っていますよ」


 えっ!? そうなの?

 点ちゃん、なんとかならない。


『(・ω・) ちょっとやってみる』

  

「おや、光が消えた」 


「よかったです」


 電飾人間にならなくて。


「聖樹様とのお話を、できるならうかがえますか?」


 ミランダさんが、頭を下げる。

 そこには聖樹様への敬意が感じられた。


「もちろんです」


 ◇


 俺はギルド本部の個室で、ミランダさんに聖樹様とのやり取りを話した。

 そのことを伝えていいかどうかは、聖樹様から許可を頂いた。

 どうやって?


 その部屋には、鉢植えの観葉植物が置いてあるのだが、「彼」と話をしたのだ。

 そう、聖樹様に祝福を頂いてから、俺は植物と話ができるようになっていた。

 全ての植物は聖樹様と繋がっているから、お話ししようと思えばいつでもできる。


 木と会話できるっていうのは、聖樹様のところから歩いて帰る途中で気づいたんだけどね。

 点ちゃんは森の木々と話せて、とても喜んでいた。


「シロー殿、ああ、シロー。

 いただいたものが何か、見せてもらえるかい?」


「ええ、これですよ」


 聖樹様の所で点ちゃんが回収したものを一つ、点収納から出す。

 テーブルの上に、羽根つきの羽根のようなものがコトリと載る。


「これは?」


「おそらく神樹の種だと思います」


「えっ!

 そんな大それたものなのかい!?」 

 

「ええ、以前にも見たことがありますから」


「はあ、とんでもないお礼だね、こりゃ。

 これ一つかい?」


「それが一万個ほど――」


「ええっ!?」


「まあ、その数から考えて、どうすればいいか分かってるんですけど」

 

「……この歳になって、大概のことには驚かなくなってるんだけどねえ。  

 あんたは、本当に並外れてるね」


「いや、凄いのは、俺ではなくて聖樹様ですよ」


「まあ、そういうことにしとくけどさ」


「では、これをみんなに渡さないといけないんで、帰りますね」


「もっとゆっくりして欲しいんだが、家族が待ってるだろうから仕方ないね。

 次はナルちゃん、メルちゃん、それからポルとミミも連れておいで」


 ポルとミミは、ミランダさんから目を掛けられてるからね。


「ありがとうございます」


 ◇


 ギルド本部から外に出ると、エレノアさんとレガルスさんが立っていた。

 

「シロー君、ルルと世界を守ってくれてありがとう」


 エレノアさんは涙ぐんでいる。


「おい、どうしてルルを連れてこなかった?!」


 レガルスさんは、相変わらずだな。


「今回は聖樹様のお仕事で来ましたから」


「そ、そうでしたか。

 これは失礼しました」


 さすがのレガルスも、その辺はわきまえているようだ。


「次は家族で来ますから」


「絶対だぞ!」

「待ってるわ」


 コリーダを迎えるため、俺は『東の島』エルフ王城へ瞬間移動した。


 ◇


 俺が現われたのは、エルフ王城イビスの中庭だった。

 少し歩いただけで、騎士に見つかってしまう。

 そうなるともう大変だ。

 城からわらわら出てくる騎士が、米つきバッタのように礼をする。

    

 う~ん、これは陛下に頼んで禁止してもらおう。

 俺がそんなことを考えていると、その陛下が自ら姿を現した。


「陛下、お久しぶりです」


「シロー殿!

 娘から聞いておりますぞ。

 この度は世界群の崩壊を未然に防いでいただき、心から感謝する」


「陛下、とにかく静かに話せるところに行きませんか?」


「そうだのう。

 ワシの執務室でどうだ?」


「いいですね」


 俺は陛下と二人、国王の執務室へ瞬間移動した。

 窓の外には森が広がる雄大な景色があった。


「こ、これは!?

 例のやつだな。

 しかし、どうもこの移動法には慣れぬな」


 陛下は瞬間移動を体験済みだからね。


「ははは、普通はそうでしょう。

 それより、『神樹戦役』にあたっては、国宝を下賜していただいたとのこと、ありがとうございました」


「気にせずともよい。

 世界群の危機だ。

 自分や娘たちのためでもある」


「あの笛が戦いの決め手になりましたよ」


「そうであったか!

 役に立ってなによりだ」

 

「ところで、聖樹様からご褒美を頂いております」


「な、なにっ!?

 聖樹様からとな?」


「はい、直接いただきましたよ。

 これがそうです」


 俺は机の上にそれを出した。


「不思議な形のものじゃな」


 俺は羽根つきの羽根のようなものから、直径三センチほどの球を取りだした。


「この白い玉は?」


「神樹の種です」


「おおっ!」


「お城の中庭に植えるといいでしょう」


「そうか、それはありがたい!」


 エルフ王は、本当に嬉しそうだった。


 ◇


 エルフ王が歓迎の宴に招待してくれた。

 彼は俺が大げさなことが嫌いだと分かっているから、テーブルに着いているのは、陛下とお后、そして五人の王女たちだけだ。


 俺は席に着くなり、質問攻めにあっていた。


「シロー、妹とはどうなの?」

「マックやリーヴァスさんは元気?」

「その肩に乗ってる白い生き物はなに?」

「ナルちゃん、メルちゃんは元気?」


 王女たちの質問に、俺は食事をする暇もない。


「これ、お前たち。

 食事が終わってからにしなさい」


 陛下の言葉でやっと料理を味わうことができた。

 食後にデザートとお茶が出ると、また質問が始まった。


「シロー殿、その……あの、子供はお好きか?」


 お后が、恐る恐る尋ねる。

 ああ、何を言いたいかは分かる。


「お母さま!

 そういう話はやめてください」


「でも、コリーダ、これは大切な事よ」


 姉であるシレーネ姫が真面目な顔で妹を見る。


「コルナの話だと、シローはずい分お堅いそうですから」


「ちょっと、モリーネ、何言ってるの!」


 コリーダが赤くなっている。

 しかし、コルナはどんな情報を流したんだ。


「そういえば、シローはどうしてコリーダ姉さまを選んだの?」

「どうして?」


「マ、マリーネ、ポリーネ、何という事を……」


 コリーダは耳まで赤くなってしまった。


「そうですね。

 一目惚れですね」


「「「わああ!」」」


 俺の言葉に四人の王女が歓声を上げる。


「もう、シローの馬鹿!」


 俺は隣で俯いてしまったコリーダの手を握った。


「シロー殿は、もう私たちの家族だよ。

 私たちの家族二人、シローとコリーダが世界群を救ってくれたことは、本当に名誉なことだ」


 陛下の言葉は、礼節と名誉を重んじるエルフらしいものだった。


「私はあなたが無事でいてくれただけで十分」


 お后は席を立つと、コリーダの肩に手を置いた。


「お母さま……」


 長い事、実の母親と心を通わせられなかったコリーダも、今は母の言葉に涙を流している。


「シロー殿、早く帰りたいだろうが、明日だけはこの国にいてくださらんか?」


 いつになく真剣な陛下の表情に、思わず答えてしまう。


「はい……そうします」


 次の日、俺はそれを後悔することになった。

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