第16話 奴隷と闘士(7)
見上げるほどの敵に、俺は驚いていた。
ただ、ゴブリンキングや竜王様と戦ったことがある俺としては、相手の大きさで気おくれすることはない。
それより相手の戦闘力が問題だった。
ゴライアスという名の敵は、刃渡りだけで二メートル近くある曲刀を左右の手に持っている。
それが振りまわされたら、相手はすだれのように切りきざまれるだろう。
よく見ると、ゴライアスは、その巨体に似合わず、優し気な顔だちをしていた。彼は本来戦闘を好まぬ大人しい性格なのかもしれない。その首には太く、自動車のタイヤほどある大きな奴隷用の首輪が着けられていた。
俺が半歩右足を引き
「初めッ!」
審判の旗が振られる。
大男は右手の巨大な曲刀を振りかぶると、やけくそのような表情でそれを叩きつけてきた。
俺には、今回もその剣の動きがスローモーションのように見えた。
ぎりぎりのところで、巨大な刀をかわす。
曲刀は、地面に深々と食いこんだ。
初撃が外れたのに、なぜかゴライアスは、ほっとした顔をしている。
俺は地面に先が埋まった剣に両手を添えると、それを持ちあげた。ゴライアスの右手は一時的に動きを封じてある。
剣先が空に向くように持つと、点魔法の『打ちあげ花火』を発動する。
巨大な剣は空高く上昇すると、巨大なエメラルド色の火球となり花開いた。
おお、この剣、どんな材質か知らないが、花火にぴったりだな。
ゴライアスは、呆然としている。
俺が両手を出すと、彼は左手に掴んでいた巨大な剣を、魅入られたように渡してきた。
再び巨大な美しい花火が空中に咲く。
会場が鎮まりかえる中、貴族席の幼い皇女だけが、キャッキャと喜んでいた。
両手を地面に着き、うなだれたゴライアスを見て、審判が判定を下す。
「勝者、シロー!」
音が無い会場が一転、爆発したような歓声に包まれた。
◇
神託武闘後、ゴライアスは、彼の『ご主人様』により、街はずれの荒野に連れてこられた。
「このクズ野郎!
大枚はたいて手に入れたのに、肝心な時にあのザマはなんだ!」
「で、でも、ボク……」
ゴライアスの声は、巨大な身体に似ず、少年のそれだった。
「この罰は受けてもらうぞ!」
男の顔が邪悪に歪む。
彼が呪文を唱えると、ゴライアスの顔が次第に赤くなる。
奴隷の首輪が締まっているのだ。
「く、苦し……」
ゴライアスの顔色が、赤から青に変わる。
「苦しめ!
苦しめっ!
ハハハハハハ!」
男が高笑いしたとたん、彼は自分の首に圧迫を感じた。
「くけっ、な、なんだっ!?」
手で触れてみると、輪っかのようなものが、首を一周している。
それは、まるで、奴隷の首輪だった。
「お前が他人に対し攻撃的な感情を抱くたび、その首輪は締まるぞ。
せいぜい、死ぬまで他人に優しくするんだな」
背後から若い男の声が聞こえてくる。氷のようなその声を聞いた途端、男は意識を失った。
ゴライアスは、『ご主人様』が倒れた後、さっき武闘場で対戦したばかりの相手が目の前に現れ驚いていた。
「き、君は?」
「ああ、俺はシロー。
お前は、ゴライアスだな?」
「うん、ボク、ゴライアス」
「お前は、もう自由だ。
どこへでも好きに行け」
「……そうしたいけど首輪があるからできないの」
「首輪って、それの事か?」
ゴライアスは、いつの間にか自分の足元に落ちている、大きな黒い首輪を信じられないという顔で見ていた。
首筋に触ると、いつもそこにあった首輪がなくなっている。
「あれ?
これって、ボクの首輪?」
「そうだよ」
「これ、外してくれたの君かい?」
「ああ、そうだよ」
「あ、ありがとう!」
よほど嬉しかったのだろう、ゴライアスは座りこんで、わんわん泣きだしてしまった。
「じゃ、元気でな」
シローは、そう言うと立ちさろうとした。
「ま、待って!」
ゴライアスが、泣きそうな声を出す。
「ボ、ボクを置いていかないで!」
「だけど、俺はこれからいろいろやることがあるから、お前を連れてはいけないんだ」
「お仕事があるなら、ボクもお手伝いするから、お願いだから連れていって!」
「お前、故郷はどこだ?」
「分からないの。
気がついたら、この人がいたの」
ゴライアスは、気を失い足元に伸びている初老のドワーフを丸太のような指でさした。
「……しょうがないな。
とりあえず、しばらく外に出られないが、それでもいいか?」
「うん!」
こうして、巨人ゴライアスは、史郎と行動を共にすることになった。
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