第23話 大騒ぎ
俺たち『初めの四人』は、ある焼肉屋に来ていた。
加藤の『体力測定』が無事終わったことを祝う打ちあげだ。
焼肉屋二階の座敷には、翔太君とその『騎士』、『翔太の部屋』の常連、そして、畑山さん、舞子、加藤の家族も参加している。
大人数に対応するため、いつもは四部屋に仕切ってあるフスマを全て取りはらい、大座敷にしてある。
「今日は、加藤さんの『体力測定』へのご参加ありがとうございます。
また、会場でお手伝いくださった方々、本当にご苦労様でした」
翔太君は、ここでも立派に役割を果たしている。
しかし、こういう役割を小学生に任せ、のほほんと座ってる勇者ってどうよ。
「では、皆さん、グラスをお持ちください。
それでは、かんぱーい」
翔太君の合図で始まった打ちあげは、にぎやかで楽しいものだった。
加藤の周りには、人の輪ができている。
「あんた、あんな事ができたんだね!
すごいじゃないか」
そう言っているのは、加藤のおばさんだ。横で加藤のおじさんが、頷いている。
「ホント、そうですね!
私は、もう度肝を抜かれましたよ」
いつもは落ちついた話し方をする、渡辺のおじさんも興奮を隠しきれない。
「ほんと凄い。
あなたたちが、ウチの舞子と一緒に異世界に行ったって信じてはいるんだけど、あれを見て、なんか実感が湧いたなあ」
これは、渡辺のおばさん。
「わはははは!
さすが、麗子が見込んだだけはあるぜ!
並の男じゃねえな」
これは、畑山のおやじさん。
まあ、並の男じゃなくて勇者なんですけどね。
ところで、黒服連中は、廊下に立っている二名を除き、一階で打ちあげをしている。
黒服に尋ねると、畑山のおやじさんからそういう指示が出ているそうだ。
おやじさんも、気を遣ってるんだね。
後で、黒服たちに直接お礼を言っておこう。
加藤より、もっと人を集めていたのが、言うまでもなく翔太君だ。
周りは『騎士』が固めているので、ピンク白軍団が一人ずつ順番に挨拶に来ている。
リアル翔太君に会うのが初めての者も多く、彼女たちの盛りあがりは尋常でない。
めまいを起こした三人が、座敷の端に寝かされているほどだ。
ただ、中には例外もいて、『騎士』たちの間に我がもの顔で座っている。
言わずと知れたヒロ姉だ。
「へー、あなた勇者のお姉ちゃんなのね?」
白騎士が感心したように言う。
「ダメな弟だけどよろしくね」
「お姉さん、いつから『翔太君の部屋』に?」
緑騎士は、すでに普通にヒロ姉と話す仲になってるらしい。
「もう、最初っからですよ。
ページが開設されて一週間目くらいから、毎日三回はプリンスに会いにいってます。
ページが更新されたら、最初に見たいじゃないですか」
「キャー、お姉さん、私も私もー!」
って、お前もそんなことしてんのかよ、黄騎士。
しかし、「ききし」って、言いにくいな。
「翔太君最高」
黒騎士は、こんな場でもいつもと同じペースだ。
しかし、その手は素早く動き、肉を焼いている。
「加藤君のお姉さ~ん、私と一緒に愛の魔法どーん!」
桃騎士が手でハートマークを作り、翔太君へ飛ばしている。
「愛の魔法どーん!」
それに乗っているヒロ姉もヒロ姉だ。
もしかすると、彼女は『騎士』の素質があるかもしれない。
柳井さんと後藤さんは、倒れて横になった翔太君ファンの世話と各テーブルの世話をするのにてんてこ舞いだ。
当然、飲んだり食べたりできない。
まあ、二人には黙って〇〇市の高級レストランを予約してあるから、後でそこに瞬間移動させよう。
俺は、点ちゃん1号で待っている白猫のために、肉を焼いている。
なんか、俺の周囲だけ空白地帯が生まれてるんだよね。
『(・ω・)ノ ご主人様ー、もしかして皆に嫌われてない?』
て、点ちゃん、そこを突きますか。
もしかしてって思ってるので、それやめてください。
こうして、加藤の『体力測定』打ちあげというより、ピンク白軍団の『翔太君と盛りあがる会』と言うべき宴会は続くのだった。
◇
宴会の翌日、点ちゃん1号で寝ていると、度重なる着信音で起こされた。
俺は朝の目覚めを邪魔されるのが一番嫌いなので、しばらく放置していたのだが、着信音が止まらないので、渋々コケットから降りた。
コケットで丸まっている白猫をうらやましく眺める。
生まれかわったら、猫になってやる。
パレットを確認すると、複数のメールが入っている。
発信元は、翔太君、柳井さん、加藤、舞子、畑山さん、後藤さん、その後に、『騎士』の面々が続いている。
一体、どうしたんだろう。
朝方の念話は緊急時を除き禁止しているから、差しせまった用件ではないのだろうが。
とりあえず、柳井さんに念話を繋いでみる。
『お早うございます。
柳井さん、何かありました?』
『リーダー!
やっと繋がった。
昨日はレストランの予約ありがとうございましたって、そんな場合じゃなかった。
ニュースを見てください!
エライことになってます』
そんなこといっても、俺、テレビ持ってないもん。
『えーっと、俺、テレビ持ってないんですよ。
かいつまんで教えてもらえます?』
『ああ、これは失礼しました。
こちらが気づくべきでした。
今朝から、各報道機関が、加藤君の『体力測定』の話題を流しています』
『どこのテレビです?』
『テレビ、新聞、ほとんどすべてのメディアです。
しかも、海外の大手もそれに触れているものが多いです』
あちゃー、エライことになってるな。
まあ、それを目的にやってきたのだが。
『それから、異世界通信社への取材依頼も三百件を超えています』
加藤の『体力測定』以降の取材はオークションしていないからね。
『柳井さんは、次の一手、どうすればいいと思う?』
『各社個別の対応は、人手が足りませんから、とりあえず海外特派員協会のインタビューを受ける事をお勧めします』
なるほど、それなら国内、海外のメディアが同時にカバーできる。
さすがは、柳井さんだ。
『では、その方向で話を進めてください。
申しこみがあった報道機関にもその旨伝えてください』
『分かりました』
柳井さんの念話はそれで切れた。
これは忙しくなりそうだぞ。
俺は、のんびりが遠のいてがっかりするとともに、ちょっとワクワクもしていた。
◇
海外特派員協会のインタビューは、朝十時から東京のプレスクラブで開かれた。
俺たちの高校がある町に特設会場を設けるという案もあったが、それだと報道機関の数が若干減ってしまうから、こちらから出向くことにしたのだ。
点ちゃん1号で東京上空へ移動し、そこからは翔太君のスマートフォンに表示されたマップを確認する。
目的の建物上空に来たので、七人用のボードに乗りかえ、1号は収納する。
ボードに『初めの四人』と柳井さん、後藤さん、翔太君が乗って降下する。
ボードは透明にしてあるが、自分たちには透明化を掛けていない。
地上が近づくと、俺たちに気づいた通行人が騒ぎだした。
写メを撮っている人も多い。
建物正面入口前に着地した『初めの四人』と翔太君は、五人で手を繋いで建物への階段をのぼる。
柳井さんと後藤さんは、少し後ろを歩いている。
階段の上に着いたところで、眩しいほどのフラッシュがたかれた。
今日、『初めの四人』は異世界の服装で来ている。
翔太君だけは、紺色のスーツと半ズボン、ピカピカの黒革靴だ。今日のために新調したそうだ。
俺は相変わらず冒険者の地味な格好だが、舞子、加藤、畑山さんは華やかな格好をしている。
特に畑山さんは、女王陛下としての正装をしているので、ドレスはもちろん、髪や首元、手足にもふんだんに宝石が散りばめられている。
俺たちが通ると、畑山さんの姿に男女を問わずため息が漏れる。
案内係が柳井さんに話しかけ、俺たちは控室に誘導された。
およそ二十分ほど待たされ、インタビュー会場へと誘導される。
再びフラッシュがたかれる中、『初めの四人』と翔太君が前の席に座る。
取材席は、記者で埋まっている。
会場の壁際には、報道関係者が隙間なく立っていた。
なぜか、「海外」特派員協会と銘打っているにしては日本人が多いように思われた。
こうして、世界へ向け、俺たちの会見が始まった。
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