第19話 真竜廟の宝物庫 ー 付与 時間 ー


 リーヴァスさんを先頭に、俺たちは宝物庫に入っていった。


 円形をした部屋に散らばる小山の数は、三百くらいはありそうだ。点ちゃんの「なんじゃこりゃー!」も切れ味がいい。


 リーヴァスさんが、手近な小山から黄金色の延べ棒を一つ取りあげた。金属の延べ棒は、太さが十センチ程の円筒形で長さが四十センチほどあった。

 かなり重そうだ。彼が指で延べ棒をはじくとチーンと高い音がした。


「アダマンタイトですな」


「アダマンタイトって、伝説の金属ですよね」


 コルナが信じられないといった顔で確認する。


「うむ、これほどの量を見たのは初めてですな」


「ちょ、ちょっとこれ!」


 ミミが白っぽい小山の横に膝をついている。


「これって、パールタイトじゃない?」


 真珠のような光沢が特徴的な金属は、やはり先ほどと同じ形の延べ棒に整えられていた。


「これだけあると、伝説も有難味がありませんな」


 リーヴァスさんが苦笑いしている。


「これって本当に宝石?」


 ポルが調べている小山は、赤ちゃんの頭ほどの石がたくさん積んであった。コルナが近よって調べている。


「どれも本物のようね。

 こんな大きな塊ばかり、どこで見つけてきたのかしら」


 彼女の呆れたような声が、我々の気持ちを代弁していた。


「シロー、ちょっと見てください」


 ルルが指さしているのは、部屋の中央にある白磁のような材質でできた丸テーブルだ。その上は半球状のクリスタルに覆われていた。クリスタルは、その中に納められたものを外界から守るための役割らしい。

 半球状のクリスタルの中には、金色に輝く三つの玉があった。

 色はともかく、似た形と大きさのものなら知っている。あの『黒竜王の涙』だ。もしかすると、これもポータルに関係するものかもしれない。


 そういったことを考えていると、周囲の小山がキラキラと輝きだした。

 何か新しいイベントかと身構えたが、ただのレベルアップだった。俺の身体から溢れだす光が、周囲で小山を成している宝石や金属に反射しているのだ。

 肩に乗っていた白猫が、驚いて跳びおりた。


「お兄ちゃん、魔法のレベルアップね?」


 何度か俺のレベルアップを目撃したことがあるコルナは落ちついたものだ。

 光が収まったので、スキルチェックをする。点魔法でパレットを出し、スキルという文字をタップする。

 今までに得たスキルの下に、新しい能力が加わっていた。


レベル14 付与 時間


 点ちゃんやーい。


『(^▽^)/ はいはーい』


 待ってたね? 新しいスキルの説明頼めるかな?


『(Pω・) 分かりましたー。時間をコントロールできますよ』


 えっ? それってタイムトラベルとか出来るってこと?


『d(・ω・) タイムトラベルが何か分かりませんが、コントロールできるのは、主に点収納内や点魔法での創作物、ご主人様自身の時間ですね』


 うーん、なんかピンとこないね。


『(・ω・) 今まで点収納に物を入れても腐ってましたよね』


 そうだよ。


『d(u ω u) それを遅らせることができます』


 おー、やったね! 超便利じゃない。


『(・ω・)つ ご自身に付与するときは、一時的な効果しかありませんから注意してください』


 まあ、自分に付けて意味があるようには思えないけど。


「シロー、これを!」


 ルルに言われ現実に注意を引きもどす。

 さっきまでクリスタルに覆われていたはずの金の玉が露出している。


「ルル、どうなったか見てたの?」


「それが、光が眩しくて。

 でも、光が消えると、もう覆いはありませんでした」


 あの光が何かのきっかけになったのか、一定時間が過ぎれば開くものだったのかは分からない。

 俺は手の上に載せた美しい黄金色の玉に見とれるのだった。


 ◇


「おお、その玉か。

 それは、ポータルを開く至宝じゃ」


 竜王様の説明は、至極あっさりしたものだった。


「俺は『黒竜王の涙』という玉を持っていますが、これと同じようなものですか?」


 点ちゃん収納から『黒竜王の涙』を出し、左手に載せる。右手の新しい玉が、それと同じ大きさ、同じ重さだというのがよく分かる。


「おや、お主、それを持っておったのか。

 それは、ワシが生身でいた頃、その宝玉を参考に作ったモノじゃよ」


 ええっ! 竜王様が『黒竜王の涙』の製作者だったのか。


『けれども、完全にはマネできなんだ。

 この世界に来るポータルしか開けることはできなかったのじゃ』


 ということは……。


「こちらの宝玉なら、どの世界にでも行けるのですか?」


『うむ。

 正確に言えば、お主が今までに行ったことがある世界ならどこでもじゃな』


 ひえーっ! それって、恐ろしいほどの価値が無いか?

 あれ? ということは、もしかして地球にも帰れる?


『ただのう、それを使いこなすには時間と空間に干渉する力が必要でな。

 ワシにも使いこなせなんだ。

 それもあって研究しておった結果できたのが、そちらの玉よ』


 なーんだ、そうは上手くいかないよね。竜王様に使いこなせないんじゃ、俺に使いこなせるはずないもんね。


『(・ω・) ご主人様ー、とぼけてるの?』


 いや、点ちゃん、それはひどいな。ぼーっとしているとは言われるけど……。


『d(u ω u) レベル13で手に入れたスキル言ってください』


 点ちゃんが、いつになく厳しい口調で話しかけてくる。


 えーと、レベル13は、確か「付与 空間」だよね。


『(・ω・) まだ分かりませんか。それでは、今回手に入れたスキルは何ですか?』


 それは「付与 時間」でしょ。さっき手に入れたばかりだからさすがに分かる。


『べ(u ω u)べ 全く分かってませんね~。新しい宝玉を使うために必要な力はなんです?』


 竜王様が、さっき「時間と空間に干渉する力」って……あああっ!


『(=ω=)~3 ふう、やっと気がつきましたか。こういうご主人様だと、苦労が絶えません』


 いや、ここは申しひらきできません。ごめんなさい、点ちゃん。


『つ(・ω・) 分かればよろしい。普段から、もう少し私を使ってください』


 申し訳ございません。おっしゃる通りにいたします。

 もの凄いお宝を手に入れたのに、嬉しいのか悲しいのか分からないことになっちゃったよ。

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