第15話 天竜国のダンジョン8


 幼いころ可愛がっていた子猫が現れ、俺は戸惑っていた。


 ただ子猫の形をしているだけではない。ちょっとした仕草まで、全く瓜二つなのだ。

 点ちゃん、これはどうなってるの?


『(・ω・) ご主人様の記憶から、その生き物を作ったみたいだよ』


 しかし、いくらなんでも、これは似すぎてるだろう。俺は恐る恐る子猫を抱き、毛並みを撫でてみた。

 そうそう、こんな手触りだった。


 ◇


 幼い俺がコロスケと名づけたその猫は、よく遊んでいた森に捨てられていた。


 春雨に濡れ、か細い声で鳴く子猫を段ボール箱から拾いあげ、「秘密基地」に連れていった。そこは、廃材などで作った、小屋とも言えないような基地だったが、幼い俺にとっては大切な場所だった。


 小学校から帰る途中で基地に寄り、猫に給食の残りを与えるのが俺の日課になった。

 土曜日と日曜日は、一日中猫と一緒にいることも多かった。


 普通の猫に比べ、真っ白なねっとりとした毛並みをしていたその子猫により、俺はモフラーとして覚醒したと思っている。手で撫でると、吸いつくようなその手触りが、少年時代の俺を慰めてくれたものだ。

 なぜか、尻尾しっぽが二センチほどしかなかったその猫は、秋風が吹きはじめたころ姿を消し、二度と戻らなかった。


 物心ついた俺が涙を流したのは、その時が初めてだった。


 ◇


 俺が今抱いている子猫は、毛並みの手触りから、尻尾が短いところまで、記憶の中のコロスケそのものだ。


 このスライムが記憶を読みとるのは間違いない。そして、この形状を取るということは、仲良くしたいというのも本当なのだろう。


「上の階に行きたいんだけど、どちらに行けばいいかな?」


 試しに尋ねてみたが、子猫は首をかしげるような仕草をして「ミー」と鳴くだけだ。


『(・ω・)ノ ご主人様ー、向こうに部屋があるみたいだよ』


 なるほど、点ちゃんとならお話できるのか。

 俺とスライムのやり取りを遠巻きに見ていた仲間が近づいてくる、


「なにっ、その動物! 

 凄くかわいいね」


 コルナが目を輝かせている。そういえば、ポータルズ世界には、猫人はいるのに猫はいないんだよね。


「ちょっとミミに似てるね」


 ポルが目を細め、子猫を覗きこんでいる。


「シロー、触ってもいいですか?」


 ルルが恐る恐る子猫に触れる。


「うわー、ふわふわですね」


「えっ、どれどれ」


 一番怖がっていたミミも子猫に触りたいようだ。


「なにー、これ! 

 すごく気持ちいいね」


 皆に撫でられ子猫は目を細めている。

 最後にリーヴァスさんが、子猫を撫でる。


「おおっ、この手触りは癖になりそうですな」


 彼もそのうち、モフラーになるかもしれない。


 俺たちは、ダンジョンの中で、ひと時だけ癒されるのだった。

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