第14話 天竜国のダンジョン7


 俺たちは、真竜廟しんりゅうびょうダンジョン第三層で、ジャイアント・スネークの攻撃に悩まされていた。


 森を進むにつれ、大蛇の出現頻度が上がっている。

 リーヴァスさんの神速の動きと、ルルの鬼気迫る戦いで、なんとか凌いでいるが、これ以上敵が増えたら、対処を変えなければならないだろう。


 せめてもの救いは、大蛇以外のモンスターが攻撃してこないことだ。

 猪に似たモンスターや狐のようなモンスターの姿もあったが、性格が大人しいのか、こちらに気がつくと木立の中に姿を消した。


 同時に二体のスネークを相手にした後、皆が肩で息をついていると、コルナが泉を見つけてきた。獣人は水の匂いが分かるらしく、その方向を調べたらしい。

 泉の横で、休憩を兼ねて食事をすることにした。

 近くに魔獣がいないことは調べてある。


 なんとか自分の足で立てるようになったばかりのミミは、コケットを出し、寝かせておく。

 ダンジョンの中なので、点収納から無煙タイプのコンロを出す。デロリン特製のタレを出し、乾燥肉に塗って焼く。野菜はネアさんにもらったものが大量にある。

 皆の皿に取りわける。


「ダンジョンでこんな食事ができるなんて。

 全くお兄ちゃん様々ね」


 野菜好きのコルナが、ニンジンに似た根菜を手に持ちニコニコしている。


「シローさん、この乾燥肉は?」


 ルルが尋ねる。


「ジジの肉が豚肉に似た食感だったから、試しに乾燥肉にしてみたんだ」


「上品な味で美味しいですね」


 ルルの感想を聞き、俺も食べてみる。旨い。ベーコンを高級にしたような味だ。俺たちがわいわいやっていると、ミミが起きてきた。


「ずるいっ! 

 私にも頂戴」


 あらかじめ取りわけておいた皿をミミに渡す。


「うわっ! 

 このお肉、美味しいねっ」


 ミミがすごい勢いで食べだしたから、俺は焼く係に専念した。


「あれ?」


 ポルが驚いたような声を出したので、そちらを見る。

 彼は食べていた野菜の端を水辺に投げすてていたのだが、それが無くなっている。


「おかしいなー。

 この辺に捨ててたはずなんだけど」


 いや、俺も彼が地面に捨てた野菜くずを確かに見ていた。何かおかしいぞ、これは。まさか、誰かが捨てた野菜くずを食べるなんてこともないだろうしね。


 俺は試しに、自分の皿の上に残っていた野菜くずを泉の側に置いてみた。手元で肉を焼いた後、ふと見ると、野菜くずが消えている。


 点ちゃん、何が野菜くずを食べてるか分かる?


『(Pω・) スライムが食べてるようですね』


 えっ? 何で教えてくれなかったの?


『つ(・ω・) こちらを攻撃する意思は無さそうでしたから』


 うーん、しかし、天竜の若い衆の話では、そのスライムこそ厄介だということだが。

 もう一度、泉のほとりに野菜くずを置き、スライムが出てくるのを待った。それほど待たずに反応があった。

 野菜くずが、すーっと泉の中に入っていくのだ。


 点ちゃん、あれどうなってるの?


『(Pω・) 細い触手が、野菜くずを引いています』


 なるほど、見えないほど細い触手だったというわけだ。どうするかなこれ。

 全員が食事を終えたので、片づけにかかる。食後のお茶を飲んでいると、点ちゃんが話しかけてきた。


『(Pω・) ご主人様ー、スライムが出てくるみたいです』


 俺は飲みかけのカップをテーブルに置くと、皆に注意を促した。


「スライムが来るよ。

 みんな気をつけて」


 皆が椅子から立ちあがったタイミングで、泉の表面に波紋ができた。それが岸に近づいてくる。

 コルナは、すでに魔術の詠唱に入っている。


 泉から出てきたのは、二抱えほどありそうな大きなスライムだった。

 色は薄い青で半透明だ。


 スライムは、少しの間、野菜くずがあった辺りでポヨポヨしていたが、やがてこちらに向かってきた。


 コルナの火球がスライムに命中する。


 スライムは、爆発したかのように四散した。しかし、散らばったスライムの破片は、それぞれがポヨポヨ動いている。

 それが、こちらに向かってきた。


 ポルが、そのうちの一つを剣で切りつける。

 二つになったスライムは、ミカンほどの身体を震わせ、何事もなかったようにこちらに向かってくる。


「これはまずいですな」


 リーヴァスさんが、緊張した表情をしている。俺たちは一旦スライムから距離を取るため、湖に沿って駆けだした。

 少し走ってから後ろを見ると、コンロやテーブルの辺りがうっすらと青く染まっている。スライムに覆われているようだ。

 テーブルの上に出しておいたクッキーの皿や、飲みかけで置いてあるカップの辺りが、特に濃い青色になっている。

 全てを食べつくしたのか、スライムはこちらへやってくる。


 バラバラになったのが再びくっついたのだろう、スライムは最初の大きさに戻っている。このままだと、やがて詰むのは明らかだ。


 しょうがないので、点魔法で対処することにした。水魔術を付与して凍らせる手もあるが、ここは一気に消しさってしまおう。

 俺は、スライムを点魔法の箱に捕えた。後は箱を点に戻せば終わりだ。


『Stop!(*ω*) ご主人様っ! ちょっと待ってー』


 おや、点ちゃんの必死な声って初めて聞いた気がする。どうしたの点ちゃん。


『(・ω・)ノ∩ この子を殺さないであげて』


 でも、このままだと、こちらが食べられちゃうよ。


『この子は、お腹が減ってるだけなの。

 あと、みんなと遊びたいんだって』


 えっ?! 点ちゃん、スライムとお話したの?


『(^▽^) うん、なんかお話できたー』


 おっ、ぴょんチカしてるな。嬉しかったんだね。

 点ちゃん、分かったよ。殺さないから、こちらを食べないように言ってくれるかな。


『(・ω・)ノ∩ 最初から食べるつもりはなかったみたいだよ』


 でも、天竜の若い衆を攻撃したんじゃないの?


『(・ω・)ノ∩ 遊んでもらおうと思って、体にくっついたら逃げていったんだって』


 まあ、それはそうでしょうよ。


 俺は点魔法の箱を消し、スライムを外に出した。ポヨポヨしながら俺の方に向かってくる。


「シロー、危ないっ!」


 ルルが叫ぶ。ああ、俺と点ちゃんの会話って、皆には聞こえないんだよね。


「ルル、大丈夫だよ。

 このスライムには、敵意がないんだ」


 俺は皆から一歩前に出て、スライムを迎える。


 スライムは俺の体にまとわりつくと、しばらくポヨポヨしていた。

 そして、二つに分かれたかと思うと、その一つが白い猫になった。

 それは、俺が子供のころ可愛がっていた子猫そのものだった。


 どういうこと?

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