第7シーズン 天竜国編

第1部 竜とお宝

第1話 天竜国にて



 史郎たち十人は、天竜モースの背に乗り、天竜国へと降りたった。


 ◇


 どうやら、ここは浮遊大陸らしい。下から見てこの大陸が見えないのは、ここが雲の中に隠れているからのようだ。

 俺たちは、光り輝く不思議な木々に囲まれている。


 木は半透明で、まるで水晶のようだった。本来の色が分からないほど様々な色彩を映しだしている。それがまた隣の木に映り、森全体が万華鏡のようだ。


 俺たちは一歩一歩色彩が変わる、美しい森の中を進んでいく。天竜モースは、二本足でドスドス音を立てて歩く。


 ニ十分ほど歩くと森がひらけ、大きな崖がそそり立っていた。

 崖の側面に、いくつか大きな穴が開いている。

 モースは崖の下部にある、特に大きな穴に入って行く。


 俺たちが穴に入ると、巨大な洞窟の中には、多くの竜が二列に並んでいた。洞窟の奥から、一際大きな青い竜が、こちらに近づいて来た。

 その竜がうなり声を上げる。

 モースが通訳するようだ。


『ようこそ参られた。

 我は天竜の長じゃ。

 黒竜族の事では迷惑をかけたな』


『こんにちは。

 シローです』


 リーヴァスさんから順に、一人ずつ仲間を紹介していく。

 最後に、一番後ろにいたナルとメルの番になった。二人の娘が前に出てくる。


「パーパ、このおじちゃん誰ー?」

「おっきいねー」


 二人は、どんな相手でも、もの怖じしないからね。


 天竜の長が、ピタリと動きを停めた。

 ナルとメルが、おやっという感じで小首をかしげている。

 人間でいうなら早口といえばいいのか、天竜の長が、むにゃむにゃと聞こえる声を出している。


『長は、その方々はどなたか、と尋ねています』


『俺とルルの娘だが?』

 

『そんなはずはない。

 この方々は、竜に縁がある子供であろう』


『……』


 さすがに気がついたか。まあ、竜なら分かるだろうな。竜人ですら分かったんだから。

 俺はルルと視線を交わした。彼女が頷いたので、ナルとメルに竜の姿になるよう耳打ちする。

 二人が竜の姿になったとたん、居並ぶ竜がみなひれ伏した。膝を折り、首を地面に着けている。


 また、竜の長が早口でごにょごにょ言った。


『し、真竜しんりゅう様っ!?』


 モースが戸惑いながら、長老の言葉をそう伝えた。


 ◇


 ナルとメルが竜から人の姿に戻ると、竜たちの喧騒は少し収まった。

 そして、驚くことに、何匹かの竜が人の姿になった。おそらく、ナルとメルに合わせたのだろう。人化しなかった竜は、名残り惜しそうにナルとメルの方を振りかえりながら、洞窟の奥へ姿を消した。


「ようこそ、天竜国へ」


 老人の姿になった天竜の長が頭を下げる。どうやら天竜は、人化した姿でなら、竜人の言葉が話せるようだ。


「真竜様におかれましては、ご機嫌麗しゅう」


 老人がナルとメルの前に膝まずき、挨拶をする。娘たちは、キョトンとした顔をしている。それはそうだよね。そんな難しい言葉で挨拶されてもねえ。

 背後から、二人の肩を抱いたルルが代わりに挨拶した。


「初めまして」


 長老は、頭を下げたまま、うやうやしく言った。


「真竜様においでいただくとは、誠に喜ばしき事。

 どうか、我らの気持ちをお受けとりくだされ」


 彼はそう言うと、洞窟の奥に向けて歩きだした。ついてこいということだろう。


 一行は、俺とルルに挟まれたナルとメルを先頭に、洞窟の奥へと進む。壁に埋めこまれた水晶の光が照らす、広い通路が続いていた。


 やがて俺たちは、通路から大きな空間に出た。

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