第37話 竜闘2 ミミの戦い


 ミミの対戦相手は、大男だった。


 男は、ただ大きいだけではなく、全身が筋肉の鎧に覆われている。しかも、その肩にかついだ武器が凄まじい。形自体は、地球で使うハンマーに似ているが、そのサイズが信じられないほど大きい。

 頭の部分だけで、横幅が一メートル、太さが五十センチはあるだろう。

 まさに、巨大ハンマーだ。


 青竜族の男が、二人に名前の確認をすると、開始の合図をする。


「迷い人、先鋒は、猫人ミミ。

 竜人代表は、黒竜族マンガス。

 では、双方、開始線に着いて……始めっ!」


 開始線に立った時点で、二人の差は歴然だ。象と猫に見える。応援している女性たちが、悲鳴を上げたのも、無理はない。

 マンガスは、こともあろうかハンマーの柄を、その端で握ると、大きく振りまわした。


 風圧が、場外いる俺のところまで届く。

 ポルが、もの凄く心配そうな顔で見ている。


 ドーンッ! 


 ハンマーが、叩きつけられる。

 ミミは、落ちついてそれを躱(かわ)した。マンガスが振り回すハンマーを、彼女はギリギリのところで避けつづける。


 それが、三十回を超えたころ、さすがの大男にも、焦りの表情が浮かんだ。でかい全身から、滝のような汗が流れている。


「なにやってんだーっ!」

「だらしねーぞーっ!」

「俺に代われーっ!」


 さっきまで、大男を応援していた声援が、罵倒ばとうに変わった。それが、さらに男を焦らせた。

 マンガスは、とうとうハンマーを投げだしてしまった。

 素手で、殴りかかる。

 さすがに、ハンマーよりスピードは上がったが、先ほどまでの攻撃で疲れているマンガスの攻撃を、ミミは余裕で避けている。


 女性陣から、ミミへの応援が、再び上がりだす。


「ミミちゃん、がんばってー!」


 その応援に、動揺したわけではないだろうが、ミミが、一見不可解な行動に出た。

 手にしていた、白銀色の剣を投げすてたのだ。そして、何を思ったか、男が放りだした、巨大ハンマーの柄に取りついた。

 ミミは、全力でハンマーを持ちあげようとする。しかし、柄の部分は持ちあがっても、ハンマーの頭は一ミリも地上から離れなかった。


 マンガスは、ミミが投げすてた剣を手にすると、ハンマーを持ちあげようと必死のミミに、ゆっくり近づいていく。

 応援している女性陣から悲鳴が上がる。


「ミミちゃん、後ろっ!

 逃げてーっ!」


 しかし、ハンマーに夢中になっているミミには、その声が聞こえないのか、相変わらず、背中を男に向けたままだ。

 ミミのすぐ後ろまで来たマンガスが、彼女の剣を上段から振りおろした。


 ◇


 マンガスが白銀の剣を振りおろした瞬間、ミミを応援していた女性たちは、思わず顔を手で覆った。


 しかし、勝鬨かちどきも悲鳴も上がらないので、おそるおそる、その手を顔から外す。

 マンガスが振りおろした剣は、ハンマーの柄を断ち切っていたが、ミミは、ずっと離れた所に立っていた。


「くそっ!」


 吐きすてた男が、さらにミミに攻撃を仕掛けようとする。

 その前に、青竜族の審判が立ちはだかった。


「どけっ!」


 マンガスがいきり立つが、審判は冷静だった。


「剣を納めて」


「何をっ!」


「開始線に戻りなさい」


「マンガス!」


 ビギが、一声掛けると、やっとマンガスは冷静になった。渋々といった表情で、開始線に戻る。

 ミミは、すでに開始線の所にいた。


「ミミ選手、場外。

 よって、勝者マンガス」


 勝敗を告げる審判の声がしても、歓声は起きない。場内は、まばらな拍手があるだけた。観客も、今の勝負には、納得していないようだ。


 待機場所に帰って来たミミに、俺が声を掛ける。


「ミミ、よくやった」


 ミミは、にっこり笑うと、自分の席に座った。


 俺は、次鋒戦が始まる前に、審判と話すことがあるので席を外す。

 俺と審判の会話は、次のようなものだった。


「今の勝負に対して、異議申したてがあります」


「何だね。

 勝敗は、至極ハッキリしていると思うが」


「竜闘のルールで、武器は、一つだけしか使えないのでは?」


「ああ、そういう質問か。

 剣を使えるのは、一度に一つという意味だよ、あれは」


「では、敵の剣を使ってもいいんですね?」

 

「手に自分の剣を持っていなければ、何の問題も無い」


「分かりました。

 時間を取らせて申しわけない」


 俺が、あっさり引きさがったので、審判は一瞬不審な顔をしたが、次鋒戦が控えている今、あまりこちらにかかずらわってもいられない。


「では、次鋒の方、用意して下さい」


 ポルナレフが、立ちあがる。


「ポル、落ち着いてな。

 アドバイス通りすればいい。

 勝ち負けは、気にするな」


「はい、分かりました!」


 ポルナレフは、元気よく、そう言うと、竜舞台に上がった。

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