第10部 ポンポコ商会

第43話 『南の島』を救おう - ポンポコ商会1、2号店オープン -


 俺たちが、ダークエルフの大侵攻をしのいでから十日が過ぎようとしていた。


 続けて降った雨で、王城横の大きな穴は、池になっていた。これは、『メテオ』が落ちた場所だ。ついでだから、その池の水がれないように、地下の水脈と繋げておいた。

 エルフ王は、そこに『平和の泉』という名前をつけた。人々のいこいの場にするのだそうだ。


 心配していた『東の島』南部の開発は、順調にいっている。なるべく木を切らないように住居を作るのは、エルフにとって、お手のものだ。


 問題は、『南の島』だ。学園都市世界からの援助が途絶えた今、それ以外の国と、交易をほとんど行ってこなかった彼の地は、経済的な危機に瀕していた。ナーデ議長も、頭を抱えているようだ。


 『緑山』のポータルは、ギルドが管理することになったが、それを使えば、学園都市世界との貿易は可能なはずだ。しかし、この大陸には目ぼしい資源が無い。エルフ、ダークエルフ共同での寒冷地開発が期待されているが、それにはかなりの年月が掛かる。

 また、ダークエルフに対する根深い偏見も、他の地域との取引を妨げていた。

 海産物など、輸出できるものはあるのだが、「ダークエルフが関わった」というだけで、売れないそうだ。


 俺も、何とかしてやりたいのだが、いいアイデアが浮かばない。


 ◇


 パーティ・ポンポコリンは、エルフ王から受けた『東の島』南部での指名依頼を済ませ、王城に帰ってきたところだ。


 ミミが、コケット(苔のベッド)で、寝息を立てている。彼女は、ここのところコケットで昼寝するのが日課になっている。俺は、自立式のハンモックからこぼれ落ちた、緑の苔を拾い、それをミミの横に置いた。


「!」


 あるアイデアが、ひらめく。少しの間、考えを巡らすが、上手くいきそうだ。

 騎士の訓練を依頼されているリーヴァスさんを除き、みんなを点ちゃん1号のくつろぎ空間に集めた。

 思いついたアイデアを話す。


「お兄ちゃん。

 また、訳の分からないこと始めるのね」

「シロー、大丈夫でしょうか」


 コルナとルルは心配してくれるが、失敗しても失うものがない試みだから気楽に取りくめる。この際だから、『聖樹の島』のエレノアさんに連絡して、ギルドからの依頼にしてもらおう。


 まず、手始めに、『東の島』と『南の島』に格安の物件を借りた。倉庫付き家屋はエルフ王とナーデ議長の口利きで、タダ同然の賃料だ。

 次に点ちゃん1号で、『南の島』寒冷地に飛び、緑山から大量の苔を持ちかえった。ついでに、『南の島』の金属加工業者に、自立型ハンモックを発注しておいた。


 最初に完成した、新型コケットは、エルフ国王、ナーデ議長、ミランダさんに送った。必ず人目につくところに置くよう念を押しておく。


 コケットを試した三人は、皆その寝心地に驚いていた。それぞれが、さっそく何台か注文してくれた。価格は、金貨一枚。日本円換算で、約百万円だ。かなり高めに設定してある。


 後は、いかに一般向けに宣伝するかだが……。


 ◇


 俺は、マーシャル卿の屋敷を訪れた。


「シロー殿! 

 よく参られた。

 今日は、何のご用で?」


「実は、こういうものを売りだそうと思いまして……」


 俺は、点ちゃん収納からコケットを一台取りだした。

 何もないところから急に現れたハンモックに驚いたマーシャル卿だったが、寝心地を確かめると、叫び声をあげた。


「な、なんだ、このふわふわ感は!」


「この商品を宣伝したいのですが、ぜひ娘さんに協力してもらいたいのです」


「サーシャに? 

 娘は、まだ七才ですよ」


「ああ、それは大丈夫です。

 このようなモノを、作りたいのです」


 俺は、一枚のシートを取りだす。

 画面をタップすると、ミミの映像が現れた。


「とってもふわふわ~。

 すぐにぐっすり、キモチイ~」


 ミミが、コケットに横になり、気持ちよさそうにしている。


「どうです。

 サーシャさんの可愛さなら、ものすごい宣伝効果が見込めますよ」


「う~ん」


 マーシャル卿は、悩んでいるようだ。


「世界中の人に、サーシャちゃんの可愛さを知ってもらう、よい機会じゃないですか。

 ご協力いただけたら、このコケットは進呈しますよ」


「サーシャの可愛さが、世界規模に……」


 彼は、俺の手をがっしと握る。


「ぜひ、協力させてくだされ!」


 俺はサーシャの映像を記録すると、マーシャル卿にお礼を言い、城へ帰った。


 ◇


 点ちゃん1号の入り口で、ポルが待っていた。


「シローさん! 

 さっそく大量注文が入りましたよ」


 え!? まだ、宣伝さえしてないのに?


「カズノ船長から二十台の注文です」


 ああ、なるほど。俺はミミとポルから、『西の島』への航海について聞いていたから、納得がいった。船乗りは、高収入だからね。

 ついでに、先ほどマーシャルに見せた、ミミの宣伝シートも人数分つけておこう。


 外から、モリーネ姫が入ってくる。


「シロー、ナーデ議長から、『コケット』三十台の注文ですって。

 ところで、コケットって、何?」


 陛下には一台渡してあるのだが、彼女は、まだそれを試していないのだろう。それならと、1号機にいつも備えつけている、コケットを使わせる。


「な、なに、これ! 

 ふわふわ~」


 モリーネ姫は、さっそく昼寝モードに入っている。

 しかし、価格を高めに設定したのにいきなり五十台の注文か。


 俺は、口コミが最強の宣伝方法だと、まだ知らなかった。


 ◇


 次の日、エルフ王から百台の注文が入る。

 こうなると、俺たちのパーティだけで対処できる量を、越えている。

 俺は、『東の島』の店をチョイスに、『南の島』の店をメリンダに任せ、人を雇ってもらう。


 大規模な仕事になってきたので、看板をつけることにする。

 ミミの発案でつけた名前が、「ポンポコ商会」。

 またまた、こんな名前でいいのかね。


 ところが、この名前が意外な効果をもたらすのだった。


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