第9部 ダークエルフ侵攻

第35話 準備(上)


 ベースキャンプに帰った俺は、『南の島』であったことをリーヴァスさん、ルル、コルナに話して聞かせた。


 ミミとポルは、『コケット』の寝心地にやられてしまい、また昼寝している。

 コケットというのは、苔のベッドにミミが付けた名前だ。しかし、リーダーがまだ使ってないのに、二人が先にそれを使いまくるってどうよ。

 ポルには早く起きて、メリンダの世話をして欲しいんだけどね。


 俺は、『聖樹の島』のエレノアさんと『東の島』のモリーネ姫に念話を繋いだ。

 近いうちに、『南の島』のダークエルフが、大攻勢に出る可能性があると伝える。

 貴族の中にダークエルフが混じっているから、モリーネ姫には、特に細かく注意を与えておく。


『大変だわ。

 すぐ、父に知らせないと』


『さっきの注意を守って、城の中をまず固めるんだよ。

 絶対に、エルフの方から攻撃を仕掛けないように。

 陛下には、とにかくこのことだけは、守ってもらってくれ』


『分かったわ』


『さっき伝えたように、ダークエルフと通じてる貴族たちを捕らえるのは、敵の攻撃直前に行うんだよ』


『ええ、分かってるわ。

 また、シローに助けられるわね』


『ははは。

 気にする必要は無いよ。

 成りゆきでやってるだけだから』


『ふふふ、あなたらしいわね』


『くれぐれも、家族の周囲には気をつけてくれ』


『ありがとう』


 俺は念話を切ると、フェアリスの集落に向かう準備をするのだった。


 ◇


 フェアリスの集落には、ミミとポルだけを連れていった。


 集落のシールドを開け、広場のまん中に降りる。フェアリスの人々から、歓迎の拍手と歓声が起きた。


「うわ~、すごい! 

 幻の原住民だ!」


 いや、ポル。それ、本人たちを前に言うセリフじゃないから。


「シロー殿、よく帰られたの。

 井戸の礼もまだじゃったのに、急に見えんようになったから、心配しておったのじゃ」


 村長が、話しかけてくる。


「娘たちのこと、面倒みていただいて、ありがとうございます。

 それより、井戸の調子はどうです?」


「便利な事、この上ないの。

 あまり水を無駄に使いすぎぬよう、見張りをつけておるよ」


「「パーパ!」」


 ナルとメルが走ってくると俺に飛びつく。


「あ、ポルだ!」


 二人は、ポルが来てるのに気づいたようだ。さっそく尻尾しっぽを狙って飛びかかっている。


「あーっ、やめてー」


 ポルが逃げまわっている。そのうち捕まるだろう。

 ミミが、見慣れないデロリンに気づいた。


「シロー、この丸っこい人は?」


「ああ、彼はデロリンさん。

 料理を担当してもらってる」


「へー、ちゃんと料理ができるのかしら?」


 ミミは、料亭の娘だからね。


「は、初めまして」


 デロリンは、獣人に慣れていないのか、びくびくしている。


「デロリン。

 一旦、ここを引きはらってベースキャンプに集合するよ」


 きゅ~っと地面にうつ伏せになっているポルに乗っかり、尻尾で遊んでいるナルとメルを抱え、ボードに乗る。


「ぽるっぽー」

「ぽるっぽ、もっとしたい」


 「ポルの尻尾しっぽ=ぽるっぽ」、ということらしい。


「また、すぐできるよ」


 二人の頭を撫でてやる。


「わーい!」 

「またするー」


 狙われてるポルは、大変だけどね。

 娘たち二人に警戒したへっぴり腰で、ポルもボードに乗った。


おさ、急ぐのできちんとご挨拶できませんが、また来ますから」


「分かった。

 家はそのままにしておいて、いつでも来るとよい」


 俺は、あることを思いついた。


「家は、キッチンなど1階は自由に使ってくれてかまいません。

 二階には上がらないようにしておいてください」


「ふむ、シロー殿のことじゃから、何か考えがあってのことじゃろう。

 分かった。

 皆に言いきかせておこう」


「では、お世話になりました」


「おお、こちらこそ、本当に世話になったの」


 俺たちは、フェアリスが見送る中、木々の間を抜け、ボードで空に上がる。


 点ちゃん1号に乗りこみながら、また皆でここに来られたらいいなあ、と考えていた。


 ◇


 俺たちは、ベースキャンプに戻ると『東の島』に帰る用意を始めた。


 ポルは、メリンダの世話を焼くのに忙しい。

 デロンチョコンビは、1号機への積みこみと、捕えた三十人余りのダークエルフの世話で、てんてこ舞いだ。

 ナルとメルは、コケットの寝心地に捉えられ、お昼寝をしている。

 俺は、リーヴァスさん、ルル、コルナと、これからどうするか打ちあわせていた。


「ダークエルフの大攻勢が避けられぬとなると、やっかいですな」


「ええ。

 彼らの出鼻をうまくくじければいいのですが」


「でも、お兄ちゃん。

 エルフたちには期待できないんでしょ」


「そうなんだ、コルナ。

 エルフの中には、自分たちの肌の色を、モーフィリンで隠している者が、思いのほか多そうなんだ。

 下手をすると、大攻勢の前に、内紛でエルフ国がぺちゃんこだよ」


「シロー、ナルとメルは、どうしましょうか」


「ルル、彼女たちを危険にはさらせない。

 ただ、敵のグリフォン部隊に対しては、二人が絶対の力を示せるはずなんだ」


「もう、何か方策は考えられておるのでしょうな」


「ええ、リーヴァスさん。

 俺たちが誰一人欠けることなく、事態を収める方法を考えています」


「お兄ちゃんは、相変わらずねえ。

 本当に、そんなことができるのかしら」


「まあ、あと一つ不確定要素があるから、それさえクリヤすれば、大丈夫だろう」


 その時、念話が入る。ダークエルフの議長ナーデからだ。


 俺は、皆に断り、別室に走りこんだ。


 ◇


『シロー、繋がってるかな?』


『ええ、議長、聞こえてますよ。

 後は、言葉に出さなくても大丈夫です』


『そうか、助かる。

 大攻勢の日取りが決まった。

 もう一度確認するが、君は我々にもエルフにもくみすることは無いんだね?』


『はい、それは、お約束します』


『大攻勢は、十日後だ。

 エルフ国が、建国祭を祝う日に決まった』


 なるほど、お祭り騒ぎで警戒が薄くなったところを襲うのか。


『あと、大規模な複合魔術が使われる予定だ』


『複合魔術?』


『魔道武器の助けを借りて、複数の魔術師が、巨大な魔術を完成させるそうだ』


 この前『緑山』で見た、あの箱に入ってたやつだな。


『その魔術は、何発撃てるのですか?』


『魔道武器の数が四つだから、恐らく四発だろう』


『なるほど。

 貴重な情報、ありがとうございます』


『こんな情報を聞いたからって、どうすることもできないだろうが……

 まあ、気休めくらいにはなるだろう』


『いいえ、すごく役に立ちました。

 戦闘阻止が成功したなら、それはあなたのおかげです、ナーデ議長』


『ははは。

 戦争を止められない私には、何も言う資格はないよ』


『なるべく、一人の被害も出さないようにやってみます』


『いくら君でも、それは無理だろう。

 無茶をして、自分自身の命を失わぬようにな』


『ありがとうございます。

 では、次は戦闘を阻止した後で、お目にかかりましょう』


『死ぬなよ』


『あなたも』


 念話は、それで切れた。

 俺の計画の最後のピースが揃った。後は、その場のアドリブだな。


『(?ω・) ご主人様ー、アドリブって何?』


 ああ、点ちゃん。アドリブってのは、その場その場でうまく対処することだよ。


『(*'▽') なるほどー』


 また、点ちゃんが語彙を増やしたな。そのうち、日本語をマスターするんじゃないか。そういえば、俺と点ちゃんって、何語で会話してるんだろう。


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