第11話 四人の王女
俺は、城内を散策したり、
ナルとルルは、エルファリア製の木で作ったおもちゃで遊ぶのに夢中だ。
コルナは、子供たちにつきあったり、モリーネとお茶したり、楽しそうにしている。
ルルとリーヴァスさんは、エルフ製の将棋のようなものに、はまっている。俺も参戦したが、あまりに二人が強いので、すぐに脱落した。
豊かなお茶文化があるエルファリアだから、俺はそちらに走ることにした。
陛下が何か食べたり飲んだりするのは、一日の決まった時間に行うようにしてもらっている。
その時間帯、俺は寝室に
点ちゃんは、毎日活躍する機会が多いから機嫌がいい。
毒が盛られなくなって一週間、俺はミーネ王妃に、あるお願いをすることにした。
それは、モリーネ姫を含め、五人の王女と一度に会わせて欲しいというものだ。
最初、お后は良い顔をしなかったが、俺が重ねて頼むと、仕方ないという風に、許可を出した。
ただし、病床の第二王女とは、一人だけ別に会うことになった。
◇
会見当日、俺は家族と共に、王城の庭にいた。
広大な庭の片隅に石造りのあずま屋があり、その屋根の下で王女たちと会うことになっていた。
あずま屋の周りには、何人かの騎士が待機している。
突然、背後の植えこみが、ガサガサ音を立てたかと思うと、白い塊が飛びだした。
それが、リーヴァスさんにぶつかっていく。
「リーちゃん!」
フリル付きの白いドレスを着たエルフの少女がリーヴァスさんに抱きついている。
「マリーネ様、大きくなられた」
リーヴァスさんが、少女の頭を撫でている。
彼の左右にいたナルとメルは、驚いた顔でマリーネと呼ばれた少女を見あげている。
「マリーネ、お行儀が悪いですよ」
落ちついた声が聞こえると、三人の娘が姿を現した。
最も背が高い娘はきらきら輝くエメラルド色のドレスを着ている。彼女の美貌がそのドレスの美しさでさらに引き立っていた。
お后、つまりはモリーネ姫に、とてもよく似ている。
「リーヴァス殿以外は、初めてお目にかかります。
シレーネです」
先ほどマリーネという少女を
「同じく、初めまして。
マリーネです」
先ほどリーヴァスに飛びついた少女が、白いドレスを軽く持ちあげて挨拶する。こうして見ると、まるで別人のようだ。
シレーネ姫の後ろに隠れるようにしているのは、第五王女だろう。
「ポリーネ、挨拶なさい」
シレーネ姫に言われ、彼女の後ろから出てきたのは、薄桃色のドレスを着た大人しそうな少女だ。ナル、メルより、少しだけ年長に見える。
「初めまして」
それだけ言うと、少女は再びシレーネ姫の後ろに隠れてしまった。
「もう、ポリーネは」
モリーネ姫は、眉をひそめたが、そのままコルナの手を取り、植えこみに消えた。
ナルとメルも、年が近いポリーネ姫の手を引くと、木立に入っていく。
シレーネ姫の案内で、俺とルル、リーヴァスさんは、あずま屋に上がった。
あずま屋には、壁沿いに円形にベンチが
本当は、四人と一度に話したかったのだが、こうなれば仕方がない。
俺は、目の前にいる二人の王女、シレーネ姫、マリーネ姫との会話に集中することにした。
◇
「まず、モリーネを助けてくれたことに対してお礼を言わせてほしいの」
シレーネ姫が俺の目をまっ直ぐに見る。
「妹を助けてくれて、本当にありがとう」
彼女は、少し頭を下げる。
「お気にせず。
成りゆきでそうなっただけですから。
それより、陛下のことについて、お后様からお話は?」
「ええ、聞きました。
妹に続き、父まで助けてくださり、本当にありがとう」
今度は、リーヴァスさんにもたれ掛かっていたマリーネ姫も居ずまいを正し、頭を下げた。
「たまたま、毒に気がついただけです。
それより、お后様から毒の話を聞いたのは、いつのことでしょう」
シレーネ姫は、少し頭をかしげてから答えた。
「ポリーネの治療があった日だから……十日前になるわ」
十日前というと、毒の件が明らかになった翌日だ。
「他に、このことを知っている人はいますか?」
「家族と、ほんの一握りの側近だけだと思うわ。
公になっているなら、今頃お城は大騒ぎよ」
それもそうだ。
「その側近の名前を、うかがってもよろしいか?」
「ええ、いいですよ。
シローは、犯人を捕まえたいの?」
俺は、慎重に言葉を選んだ。
「俺は、この国の人間ではありませんから、誰かを裁こうなどとは考えていませんよ。
しかし、モリーネ姫に関わりのある方々が命を狙われて、黙って見過ごすわけにもいきません。
犯人を見つけたら、後はお国に任せるつもりです」
「ふーん、そうなのね」
彼女は、しばらく何か考えているようだった。
「妹たちを狙う一連の事件が起きて、一番疑われているのは私なの」
シレーネは、溜めていたものを吐きだすように言葉にした。
「このマリーネが乗った馬車が崖から落ちた時も、私のアリバイが無い時だった。
ポリーネの時もそう。
皆、はっきりとは言わないけれど、私を疑っているの」
「私は違うわ!
お姉様が、そんなことをするはずないもの!」
マリーネ姫が興奮して、おもわず家族内での口調になっている。
「ありがとう、マリーネ。
でも、多くの人が私を疑っているのは間違いないわ」
「シレーネさんだけ、何も起きていないんですか?」
「ええ、私は一度も襲われたことも、狙撃されたことも無いの」
シレーネ姫は、暗い顔で俯いている。
「念のため確認しておきますが、王位継承権は、どのようになっていますか」
「第一位は母、次が私、次が二女のコリーダ、次はモリーネね」
「なるほど」
俺は次にしたい質問を口に出そうとしたが、それを騎士の警告が
「姫様!!
お気をつけください!」
俺が、あずま屋の外に走りでると、地面を大きな影が横ぎった。
空か!
見あげると、巨大な翼を持つ、トカゲのようなものが数匹、空を舞っている。
騎士が、叫ぶ。
「ワイバーンです!
そこから出ないでください!」
俺は、一旦、あずま屋の中に戻った。
しかし、それは襲撃者の思うつぼだった。
ワイバーンが、足に掴んだ何かを落とす。
それが、あずま屋の屋根にぶつかったとたん、閃光を上げ爆発した。
石造りのあずま屋がぺしゃんこにつぶれる。
つぶれたあずま屋の上では、後から落ちてきたものが、次々と爆発した。
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