第2部 エルフ国
第5話 エルフ国へ向けて - 点ちゃん3号登場 -
神聖神樹様と話した次の日、俺たちは、エレノアさんから『聖樹の島』をはじめ、この世界のあらましについてレクチャーを受けていた。
まずエルファリアは、三つの大陸と神聖神樹があるこの島からなる。この島、『聖樹の島』を中心に、東に『東の島』、北に『北の島』、西に『西の島』がある。
これらは「島」とついてはいるが、『聖樹の島』以外は全て大陸で、それぞれかなりの広さがあるらしい。
地図上で言うと、中心に『聖樹の島』、上に『北の島』、右に『東の島』、左に『西の島』という配置でだ。この世界でも、入手できる地図の上が北となっている。
『聖樹の島』、『東の島』、『西の島』は、緯度が大体同じで、地球で言う温帯の気候のようだ。
『北の島』だけは、緯度が高く気温が低い。地球なら寒帯ということになる。
地軸の傾きがほとんど無いのか、四季の違いがはっきりしない。
これからモリーネ姫を連れていくのは、『東の島』だ。エルファリアで最も人口が多い大陸で、エルフ国もここにある。
次に、『北の島』だが、先住民が住む町と、犯罪を犯したエルフが送られる監獄がある。
最後、『西の島』は、かつて多くの先住民が住んでいたと言われているが、彼らはある時期を境に急に姿を消したそうだ。今では大型の魔獣が多数生息する、危険な場所となっている。
伝説では『南の島』というのがあったそうだが、大規模魔術の失敗で大陸ごと姿を消したらしい。
エルフは、礼節を非常に重んじる種族で、一度礼を失しただけで生涯の汚点とみなされる。また、彼らは戦闘力も高く、特に弓術と魔術に適性が高い。
魔術については風魔術が一般的で、他の魔術を使う者はほとんどいない。
弓と風魔術を組みあわせて使う『風弓(かざゆみ)』は特に強力で、達人になると遠方から大きな魔獣を一撃で仕留めることも可能だそうだ。
レクチャーの内容は、このようなものだった。俺は、全てを点ちゃんノートに記録しておいた。まあ、点魔法で録画してもいいのだが、そんなことをすれば、話に集中できないし、話し手に失礼だからね。
俺たちは荷物の最終チェックをすると、『東の島』に向けて出発することにした。
◇
今いる『聖樹の島』から、エルフ国がある『東の島』までは、船旅となる。
大陸間の移動は、帆船を使って行われる。エルフは風魔術が得意なので、帆船を操るのはお手のものだ。
無風状態でも高速で進むから、帆船での航海術が発達したのも頷ける。スピードが出るなら、エネルギー効率は地球の船より遥かに高いはずだ。
自然を汚すことを禁忌と考えている彼らとしては、当然の選択だろう。
ポータルがある神樹様を通りすぎ、島の南東へ向かうと、高い塀に囲まれた港町がある。
人口が二千人程のこの町は、セント・ムンデと呼ばれている。ここは、『東の島』と『北の島』、非常に稀ではあるが、『東の島』と『西の島』を結ぶ中継地点の働きをしている。
物資の補給などは行えるが、一定期間以上の滞在は許されていない。これは、神聖神樹様を守るためだろう。
俺、ルル、ナル、メル、リーヴァスさん、コルナ、そして、モリーネ姫の七人は、見送りに来た、エレノア、レガルス夫妻と町の門で別れた。
レガルスさんがルルとの別れに納得できず、駄々をこねて、エレノアさんにスパーンと叩かれたのは言うまでもない。
◇
門番にギルドの許可証を見せ、町へ入る。
町は石造りで、そのほとんどが平屋だ。時折、嵐が襲って来るそうで、それを切りぬけるための工夫らしい。
獣人が珍しいのか、みんながコルナに注目している。
いつもは堂々としているコルナが、俺の後ろに隠れる。
転がったボールを拾いに道に出てきたエルフの子供が、コルナにボールを渡してもらうとき、目を丸くしていたのが印象的だった。
俺たちは、ミランダさんから言われた通り、町の行政機関に行った。
行政機関と言っても、小さな二階建ての家だ。
エルフの老人が出てきて対応してくれる。なんと、彼がこの町の長(ちょう)だった。フーガという名のこの老人は、この島で生まれ、ずっとここで暮らしているそうだ。
「では、許可証は全て拝見しました。
よい風を」
風についてのセリフは、この世界で旅の幸いを祈る言葉だそうだ。
「あなたにも、よい風が吹きますように」
点ちゃんノートから定型の文を選び、挨拶を返した。
フーガは、ちょっと驚いた顔をしたが、それから俺たちを見る目が変わった。
「食べ物、水は十分お持ちですかな?」
「ええ、ありがとうございます」
「通常で、十日から十五日くらいの船旅となります。
水は、特に十分お持ちください」
「お心遣いありがとうございます。
ところで、船は自前のものを使ってもいいですか」
「自前ですか?」
フーガ老人は、一瞬いぶかしげな顔になったが、何かに思いついたようだ。
「ああ、この町で船をお雇いになるということですかな?」
「いいえ、違います」
「まさか、船をお造りになるとは言いませぬな?」
「いや、それが、船を造るつもりです」
「しかし、この島は木の伐採が一切禁じられておりますから、材料がございませんよ」
「そうですね。
実際に見てもらった方がいいでしょう。
港まで案内してもらえますか?」
彼が部屋の奥に声を掛けると、精悍なエルフの男性が姿を現した。
人族の見かけだと三十歳くらいだろう。
「ネモよ。
ワシを港まで連れていってくれ」
「はい、すぐに」
男は一度部屋の奥に入ったが、すぐに座布団のようなものに大きな羽(はね)が付いた道具を担いで出てきた。
ネモが呪文を唱えると、座布団が少し床から浮きあがる。羽の様子をみると、座布団の下から風が吹きでる仕組みになっているらしい。
「どうぞ」
ネモが言うと、フーガ老は座布団の上に座った。座布団は一度沈みこんだが、また元の位置まで浮かびあがった。
座布団に結んである紐をネモが肩に担ぐ。
「では、港に向かいましょう」
俺たちは、宙に浮いたフーガを引きつれ、港に向かった。
十五分ほど歩くと、港に着いた。
港には、いろんな形をした帆船が並んでいた。
胴体は、木ではない素材で作られている。
恐らく、土魔術の作品だろう。
潮風が肌に心地よい。
潮の香りは地球と変わりがない。
天日干しにした魚からの匂いも、少し混ざっているようだ。
海の色は、地球に比べ、やや青みが強い。
晴れているので、遥か水平線まで見わたせる。
優美な形の帆船が数隻、遠くに見える。
多くの船が繋がれている桟橋に降り、空いている海面を探す。
「ここに船を出してもいいですか?」
俺が尋ねると、フーガは首をかしげていた。
「それはよいが。
いったい『船を出す』とはどういう意味じゃ?」
それを許可と見なした俺は、一つの点を開放した。
いきなり、目の前に大型の船が浮かんだ。
形は、地球のクルーザーを参考にしている。
全長三十メートルくらいある白銀の船体だ。
驚きの余り、フーガとネモが口をポカーンと開けている。
「シロー、これは?」
ルルが訊いてくる。まあ、これは初公開だからね。
「これは、点ちゃん3号だよ。
点ちゃんボードのアイデアを元に作ってみたんだ」
驚きの姿勢で固まっているエルフ二人を放っておき、俺たちはクルーザーに乗りこんだ。
甲板からフーガ老とネモの二人に手を振る。
やっと、驚きから覚めた二人が手を振ってくる。
俺たちも手を振りかえしてから、船の中に入った。
この舟は、下層、中層、甲板と、三層構造になっている。
甲板部分には、運転席のような風防付き座席がある。中層は海の上に出ている部分で、船室の壁を透明にすれば周囲の海上が見渡せるようになっている。下層は海の中に入っている部分で、平底になっている。
点魔法で物を作る利点は、バランスを考える必要がないことだ。その辺は、「付与 重力」でコントロールすればいいわけだから。
船底を透明にすれば、居ながらにして海中散歩が楽しめる。
お風呂は、下層と中層、両方に設置してある。
船は湾内を出るまで大人しく動いていたが、周囲に他の船がいなくなると、凄い勢いで進みだした。今は急ぐので、点ちゃんボードの要領で、船自体を海面から少し浮かせてある。
時速五百キロ程度で海上を進んでいく。
点ちゃん、どうだい?
『d(≧▽≦)b 珍しく、ご主人様が約束を守ってくれましたね、楽しー!』
まあね。船がひっくりかえらない程度にお願いしますよ。
『(^▽^)/ はいはーい』
俺たちを乗せた点ちゃん3号は、東の島目指し、大海原を疾走するのだった。
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