第37話 エルフの世界へ


 俺、ルル、ナルとメル、リーヴァスさんは、狐人族の町に来ていた。

 せっかく異世界に来たのに、素通りするのは残念だから、家族に狐人の町を見せておきたかったのだ。


「パーパ、お土産ある?」


 メルは、「お土産」が美味しい食べ物を意味すると思っているらしい。


「そうだね。

 ちょっと食べてみようか」


 ビー玉くらいの丸いものが、たくさん串に刺してある屋台を見つけた。


「おじさん、これ何だい?」


 狐人の店主は、興味深げに俺の家族を見まわした。


「ああ、あんたら旅の人かい。

 こりゃな、ポコの実ってんだ。

 ほれ」


 彼は手元の串から丸い球を引きぬくと、俺の手にぽんと載せた。


「口に入れたら、少しそのままにしてみな」


 言われた通り、口に入れてみる。

 特に、何の味もしない。


「お!」


 急に口の中の球が、柔らかくなる。

 最後は、甘みがある液状になって消えた。

 果物のような爽やかな風味が残った。

 俺は、人数分の串を買う。

 子供たちに食べ方を教えると、二人ともすぐ一つを口に含んだ。


「「!」」


「どうだい?」


「おいしー」

「あまーい」


 二人とも、すぐに二つ目を口に含んでいる。ルルとリーヴァスさんが、そんな娘たちを見て目を細めている。

 それから、俺たちは食べ物屋を中心にいろんな屋台を見てまわった。

 以前にも立ちよったかんざしや、くしを売る店にも行く。


「ルル、気に入ったものを選ぶといいよ」


 俺が言うと、一通り見回した後、ルルは菫色すみれいろのかんざしを選んだ。


「シロー……ありがとう」


 ルルは、ようやく「さん」抜きで、俺の名前を呼んでくれるようになった。

 娘たちは、一人ずつリーヴァスさんに抱えられ装飾品を見ていたが、それぞれがやけに高価なものに手を伸ばす。


「これは私が」


 リーヴァスさんが、懐から財布を出して払っている。


「リーヴァスさん、そこまでして頂くと……」


「お気になさるな。

 子供のうちに良いものに触れるのは大切ですぞ」


「……ありがとうございます」


「「じーじ、ありがとう」」


 ウチの子供は、教育らしい教育はしていないが、人から何かもらったり、何かしてもらったりしたら、お礼を言うようにだけはしつけてある。

 二人は、それぞれ買ってもらった細工物さいくものを握りしめ、じっと眺めている。

 繊細なものだから、すぐに壊さなけりゃいいんだけど。

 ルルは、包んでもらったかんざしを大事そうに腰のポーチへ仕舞っていた。


 ◇


 城に帰ると、猫賢者が近づいてきた。


「シロー殿。

 お二方ふたかたと、少しお話してもいいか。ニャ」


 ああ、ナルとメルとおしゃべりしたいのか。


「ええ、どうぞどうぞ」


 二人はルルと繋いでいた手を離し、手招きしている猫賢者の所まで走っていく。彼は目線が二人と同じになるように腰を落としている。

 子供たちは、最初、猫賢者の白いあご髭に触っていたが、そのうちきちんと彼の方を見て話を聞きはじめた。

 さすがに賢者と言われるだけはある。

 ナルとメルは、いろいろ賢者に話しかけられ、それに答えているようだ。

 ただ、さすがに、しばらくすると、二人がこちらをチラチラ見はじめた。おしゃべりに飽きたらしい。

 猫賢者が立ちあがり、二人を連れてくる。


「今まで生きててよかった。

 長年の謎がいくつか解けた。ニャ」


 猫賢者は微笑みながら、いかにも満足そうだ。


「あ、そうだ。

 ナル、メル、聖女様の家で食べた、おいしい食事覚えてる?」


「「うん!」」


「あの料理は、この方が考えられたんだよ」


「すごい!」

「おいしい!」


 二人の中で猫賢者の株が、急上昇したようだ。


「ニャニャニャ。

 次に会うときは、美味しいものを用意しておくのじゃ」


 ナルもメルも、喜んでいる。

 俺も、ちょっとワクワクした。

 だって、あの料理以外にも食べてみたいじゃない。


 俺は、自分が小さな子供と同じ反応をしたのに気づかなかった。


 ◇


 部屋に戻りくつろいでいると、狐人ホクトがやってきた。


「準備ができました」


 俺たちは、点ちゃん収納と、ルルのマジックバッグに荷物を入れる。

 ちなみに、リーヴァスさんも、肩に掛けるタイプのマジックバッグを持っている。これは、ルルのポーチより、さらに大容量が入るそうだ。


 俺の家族は、ホクトの案内で昨日訪れた神樹様の部屋に行く。

 部屋では、既にコルナとモリーネが旅支度で待っていた。


 コルナの合図で、俺たちは、黒い布の前にひざまずく。 

 彼女が黒い布を左右に開くと、神樹様が現れた。

 そして、目を閉じると、神樹様の依代よりしろとして話しはじめた。


『おお! 

 竜の子ではないか。

 まこと、相応ふさわしいものは相応しいところへじゃな』


「おじちゃん、誰?」


 ナルは、なんのためらいもなく木の表面に浮いた巨大な顔へ話しかける。

 子どもって物怖じしないね。


『我らは、神樹という。

 覚えておけ』


「シンジュ ?」


『そうよ。

 そちらの母にもうたことがあるぞ』


 えっ! 神樹様、古竜のお母さんと会ってるの?


『そうじゃ。

 お前たちのことを、よろしくと言っておったよ』


 さすが、古代竜。

 この時が来るのを、知っていたのかもしれない。

 ナルとメルは、お母さんのことを思いだしたのか、ルルに抱きついている。


『この子らのこと、我らからもよろしく頼む』


「ええ、二人は、もう俺たちの子供です。

 何があっても、守りますよ」


『ならばよい』


 神樹様はそう言うと、口に当たると思われる部分をゆっくりと開いた。


『では、行け』


 神樹様の口から中を覗くと、そこには黒く渦巻くポータルがあった。


 ◇


 依代よりしろから解放されたコルネが、ホクトに支えられている。

 俺たち家族は、立ちあがると、ポータルに近づく。

 ナルはまだ少し怖いらしく、俺の手をぎゅっと握っている。


「では、コルネさん、ホクトさん。

 行ってきます」


 やっと身を起こしたコルネが、落ちついた声で答える。


「皆さん、きっと帰ってきてください。

 お姉ちゃん、みなさんに迷惑かけないようにね」


「かけないわよ」


 妹に釘を刺され、コルナが苦笑いしている。

 万一のことを考え、リーヴァスさんがモリーネ姫と手を繋ぐ。

 俺がナル、ルルがメルの手を握った。


 じゃ、点ちゃん。また別の世界に行くよ。

 とりあえず、回収できる点は俺の中にしまっといてね。


『(*'▽') わーい、ワクワクですー』


 ま、いつもの感じだね。


 俺、ルル、ナル、メル、コルナ、リーヴァスさん、そしてモリーネ姫は、エルフの世界へ向け、ポータルを潜った。


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学園都市世界アルカデミア編終了  聖樹世界エルファリア編に続く







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