第6話 点ちゃんと入学試験(下)
実技試験が始まった。
受験生が立っているところから、二十メートルから五十メートルくらい離れた床が開き、いくつかのポールがせり上がる。
高さは、一メートル五十センチくらいだろうか。
ポールの先端には丸い板がついており、黒い同心円が描かれている。
「では、自信がある距離を選んで、線の手前に並んで下さい。
この緑の線を、越えないように」
案内役の制服を着た女性が、足元の線を指さす。
二十人の生徒は、各標的の前へ移動した。
ほとんどの生徒が、三十メートルから四十メートルの距離を選んでいる。
「魔術を十回撃ち、的に当たったものだけが得点となります」
なるほど、遠い的をイチかバチかで狙うか、近くの的を確実に狙うか、ってことだね。
俺の点魔法に距離は関係ないから、五十メートルのところに並ぶ。
そこに並んだのは、俺と赤髪の少女だけだった。
「では、準備ができた人から始めてください」
俺たちの後ろには、遠見の魔道具を持った係員が椅子に座っている。的に当たったか当たっていないかは、彼らが判定するのだろう。
『(^▽^) わ~い、楽しそう!』
まあね。点ちゃんにとっては、そうでしょうよ。
「私から先に行かせてもらうわ!」
赤髪の少女は、自信があるのだろう。自分から的に向かっていった。
彼女が小さく呪文を唱えると、ゴルフボールくらいの火の玉が飛んでいく。
バーンッ
火の玉が音を立て、的に当たった。
少女は、ガッツポーズだ。
次の火の玉も、的に当たる。
それを見た、他の生徒から歓声が上がる。
結局、彼女は、十発中八発を的に当てた。
生徒は、俺を除き全員が拍手している。
なんで一人だけ拍手しないのかって?
だって、凄いのか凄くないのか、てんで見当がつかないんだもん。
「次、あなたどうぞ」
係員に促され、線の手前まで進む。
前の彼女をまね、標的に向かって手を伸ばしてみる。
本当は、こんなことする必要なんかないんだけどね。
じゃ、点ちゃん、いってみようか。
『(^▽^)/ はーい!』
コッ
的の辺りで、小さな音がした。
「あー、十回終わりました」
係員の顔色が変わる。
「あなた、まだ詠唱もしてないじゃない!」
「でも、もう十回撃ちましたよ」
遠見の魔道具を持った審査員も、いくら魔道具を覗いてみても、当たっているかいないか、分からないようだ。
とうとう、審査員が的のところまで行き、ポールを床から外し、こちらまで持ってきた。
審査員たちが、的に集まる。
「あー、やっぱり、当たってますね」
俺が的の中央を指さすと、そこに五ミリくらいの小さな穴が開いていた。
「こ、これっ!?
一つしか当たらなかったの?」
「いえ、ここに十発全部当てました」
みんなが、シーンとなる。
沈黙を破ったのは、赤毛の少女だった。
「そんなはずない!
詠唱もせずに、どうやって十回も魔術を撃つのよ!」
『(・ω・)ノ ご主人様ー、十回撃ったよ』
分かってるよ、点ちゃん。
「どうやってもなにも、実際に出来たんだからしょうがないでしょう」
俺が反論すると、少女の顔が髪と同じ色になった。
おいおい。体に悪いぞ、それ。
「君、とにかく、もう一回撃ちたまえ」
男性の係員が、場を収めようとする。
「今度も十回ですか?」
「ああ。
できるなら、十回と分かるように撃ってくれ」
随分な注文だな。
点ちゃん、まただって。
『(^▽^) わーい!』
まあ、そうなるよね。
今回は、点ちゃんに、ある指示を出しておいた。
緑の線より手前に立ち、手を伸ばすと、魔術を使う格好をする。
的から小さな音がする。
「はい、終わりました」
「えっ?
もう?」
さっきはいなかった審査員が、呆れている。
また、一人が的を取りにいった。
試験官が的に集まる。
様子を見ていた受験生まで集まってきた。
みんなが的を見ると……。
(^ o ^)
的の中心に、顔状に穴が開いている。
それを見た全員が、ポカーンとした顔をしている。
「最初から、そんな穴が開いてたのよ!」
赤毛は、全く信じていない。
再び、やり直し。
的を調べると……。
(・_・)
「こんなこと、ありえない!!」
赤毛は、興奮のあまり涙を浮かべている。
再び、やり直し。
(`Д´)プンプン
今度は、文字つきですか。
『(・へ・) ご主人様ー、まだー?
もう飽きちゃった』
だよね。最初の入れたら、すでに四十回連続だもんね。
赤い髪の少女は、青くなっている。赤くなったり青くなったり、君は信号機ですか?
みんな、疲れた顔で、本来自分がいるべき位置にぞろぞろと戻っていく。
なんなんだろうね~、これ。
全員の試験が終わり、少しするとまたシートが鳴り、順位が表示された。
俺の名前は、一番上にあった。
まあ、これだけやっとけば、不合格はないでしょ。
俺は、能天気にも、自分のやり過ぎに気づかなかった。
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