第2部 魔術学園
第5話 点ちゃんと入学試験(上)
入学試験当日、決められた時刻少し早く、学園の入り口に到着した。
この世界の時計は、コルナが町で買い求めてくれた。おそろいの時計を自分にも買ってるのは、どうかと思うけどね。
学園前は、すでに人で一杯だった。ほとんどが俺と同じかそれ以下の年齢で、何人かいる大人はつき添いのようだ。
定刻になると、表情が無い係員が数人現れ、受験希望者を年齢別に並べる。
一人一人に、B5サイズほどの黒いシートが渡された。数字が表示されているから、これが受験番号なのだろう。
「手荷物は、全てここで預けてください。
不要なものを持ちこめば、即不合格となります。
では、17-001から17ー100までの方、こちらへ来てください」
番号を呼ばれ、制服を着た若い女性の後についていく。
建物に入ってすぐ、広間があり、そこから放射状に通路が伸びていた。
女性は中央の通路を選び、どんどん奥へと進んでいく。
二つ目の広間を左へと曲がる。
通路の左右には一定間隔で扉がある。
そのうちの一つで立ちどまると、女性は扉を開けた。
中は大教室で、地球の大学がそうであるように、教壇から奥に向け次第に高くなるように傾斜がついている。
「では、机にある番号と自分のシート番号を確認してから、席に着いてください」
全員が着席すると、彼女は試験開始を告げた。
「シートは、横向きで使います。
時間は、表示してある通りです。
では、始め!」
黒いシートに、文字が現れる。左上に減っていく数字があるから、これが残り時間だろう。
出題形式は、選択肢から正解と思うものの番号を選ぶタイプだ。
俺は、どんどん数字をタップしていった。
まあ、点ちゃんが言ってる番号を、そのままタップしてるだけなんだけどね。点ちゃんの中には、これまでインプットしてきた、この世界に関する膨大なデータが詰まっている。
カンニングじゃないかって?
魔道具〇〇を発明したのは、△△ですが、その妻の名前は?
こういう問題が並んでるんだよ。まともにやってたら、入学までに何十年もかかっちゃう。地球では、一度もカンニングしたことがない俺だけど、ここは
しかし、発明者の名前はまだしも、妻の名前って何ですか。出題者はトリビア好きですか?
俺の中で、この学園の名前は既に決まっていた。
「聖トリビア学園」
これでいこう。
そういうおバカなことを考えているうちに、次の問題が出題されなくなった。全問、解きおえたようだ。
タイマーを見ると、試験時間の五分の一ほどで終わったようだ。
俺が手を上げると、試験監督がやってきた。
「シートの故障かね?」
「いえ、もう終わりました」
「ああ、気にしなくていいよ。
ここの問題は、難しいからね」
試験官は、俺が途中でギブアップしたと思ったらしい。
「あの、全部解きおわりました」
教室が、ざわつく。
「そんなはずないだろう!
シートを貸しなさい」
試験官は、俺からひったくるようにシートを取りあげると、何か操作している。
「本当に終わってる……」
彼はそう言うと、憐れむような目で俺を見ている。
「答えを適当に選んじゃったのか。
ここに来る途中にあった、広間で待っていなさい」
彼はそう言うと、シートを机の上に置き、前に戻っていった。
言われた通り、来るときに通った、広間で待つことにした。
暇だから、点ちゃんとおしゃべりする。
点ちゃん、お疲れさまー。
『(>_<) ご主人様ー。簡単すぎて、あんまりがんばれなかったー』
さすが、点ちゃんだね。
ところで、あのおヒゲはどうしたの?
『(・ω・)ノ まだ、研究中ですよー』
どこを研究してるんだろう。
『(・ω;)』
お! 小さなおヒゲが付いてるね。
でも、それはちょっと違うかな?
「ノ」みたいにならないと。
『ぐ(>o<) あちゃちゃー、失敗しちゃいました』
あちゃちゃーって、どこで聞いたんだろ。俺、使った覚えないけど。
そういう、どうでもいいやり取りをしているうち、広間に人が溢れた。
どうやら、試験が終わったらしい。
ピロ~ン
そんな間の抜けた音がすると、シートに文字が表示された。
頭に数字が付いているから、これは順位か。
上位二十名ほどの名前が、青で表記されている。
しかし、個々がシートを持っているんだから、それぞれに合格不合格を通知するだけでいいだろう。この世界のやり方は、いちいち気に障るな。
ところで、俺の(点ちゃんの)名前は、一番上にある。
例の試験官が、俺に近づいてきた。
「惜しかったね。
でも、また次があるよ」
「あの、合格しちゃったんですが」
「そ、そんなはずないだろ!」
試験官は、再び俺のシートをひったくった。
「君の名前は?」
「シローですが」
わざわざ一番上の名前を指さしてやる。
「そ、そんな馬鹿な!」
彼は驚愕の表情を浮かべたが、次の瞬間ぱっと表情を変えた。
「し、シローさんですね。
私は、この学校で教師をしている、サガンという者です。
これから、よろしくお願いします」
「ええ、よろしく」
しかし、ギルドのマウシーといい、この先生といい、急に態度を変えるのは、この世界の仕様ですか?
受験生たちの方を、振りかえる。
不合格だったのだろう。がっくり肩を落としたり、涙を浮かべたりしている人もいる。あんなトリビア問題、できなくても気にする必要はないと思うのだが。
「では、青い名前の人は、こちらへ」
合格した二十名の生徒は、案内役の女性についていく。来るとき左に曲がったところを、今度は右手に進むらしい。
やがて、通路は大きな扉で終わっていた。
女性が呪文を唱えると、扉が開く。
俺たちは中へ入る。
そこは、ドーム球場くらいの巨大空間となっていた。
どうやら次は、実技試験らしい。
筆記試験問題のでたらめさを思いだし、思わずため息をついた。
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