第3シーズン 学園都市世界アルカデミア編

第1部 学園都市

第1話 少年と仲間たち

『ポータルズ』 


 そう呼ばれる世界群。


 ここでは各世界が『ポータル』と呼ばれる門で繋がっている。

『ゲート』とも呼ばれるこの門は、通過したものを異世界へと運ぶ。

 この門には、様々な種類がある。


 最も多いのが、二つ対になった『ポータル』で、片方の世界からもう一方の世界へ通じている。

 このタイプは、常に同じ場所に口を開けており、向こうに行った後、こちらに帰ってこられる利便性から、商業活動や外交をはじめ、一般市民の行き来にも使われる。

 国は通行料を徴収することで、門の管理に充てている。


 他に一方通行の『ポータル』も存在する。

 このタイプは、前述のものより利便性が劣る。僻地や山奥に存在することが多く、きちんと管理されていない門も多い。

 非合法活動する輩、盗賊や無許可奴隷商人の移動手段ともなっている。


 また、まれに存在するのが、『ランダムポータル』と呼ばれる門だ。

 ある日、突然町の広場に現れることもあるし、人っ子一人いない森の奥に現れることもある。そして、長くとも一週間の後には、跡形もなく消えてしまう。


 この門がどこに通じているかは、まさに神のみぞ知る。なぜなら、『ランダムポータル』は、ほとんどの場合、行く先が決まっていないだけでなく一方通行であるからだ。

 子供が興味半分に入ることもあるが、その場合、まず帰ってくることはない。

 多くの世界で、このケースは神隠しとして扱われている。


 ◇


 ある少年がポータルを渡り、別の世界に降りたった。

 少年の名は、坊野史郎ぼうのしろうという。

 日本の片田舎に住んでいた彼は、ランダムポータルによって異世界へと飛ばされた。

 そこには、地球の中世を彷彿とさせる社会があった。違うのは、魔術と魔獣が存在していたことだ。


 特別な転移を経験したものには、並外れた力が宿る。現地では、それを覚醒と呼んでいた。彼と一緒に転移した三人は、それぞれ勇者、聖騎士、聖女というレア職に覚醒した。

 しかし、彼だけは、魔術師という一般的な職についた。

 レベルも1であったが、なにより使える魔法が『点魔法』しかなかった。この魔法は視界に小さな点が見えるだけというもので、このことで彼は城にいられなくなってしまう。


 その後、個性的な人々との出会い、命懸けの経験、そういったものを通し、彼は少しずつ成長していった。

 初め役に立たないと思っていた点魔法も、その「人格」ともいえる『点ちゃん』と出会うことで、少しずつ使い方が分かってきた。

 それは、無限の可能性を秘めた魔法だった。


 少年はこの魔法を使い、己の欲望のまま国を戦争に追いやろうとした国王一味を壊滅させた。

 安心したのもつかの間、幼馴染でもある聖女が一味の生き残りに捕らわれ、ポータルに落とされてしまう。


 聖女は、獣人世界へと送られていた。

 後を追いかけ獣人世界へと向かった少年は、そこで新しい仲間と出会い、その協力で聖女を救い出すことに成功する。

 しかし、その過程で、多くの獣人がさらわれ、学園都市世界へ送られていることに気づく。

 友人である勇者を追い、少年が今、訪れようとしている場所こそ、まさにその学園都市世界だった。


 これは、そこから始まる物語だ。


 ◇


 独特の浮遊感の後、俺の足が地面に着く。


 狐人の少女コルナ、猫人の少女ミミ、狸人の少年ポルナレフ、そして、俺の四人は、ポータルを渡り、学園都市世界へとやって来た。

 そこは、広く明るい部屋の中だった。部屋は魔術灯によって照らされ、非常に明るいが、白い壁のせいか、どこか病院を思わせた。


 部屋の片隅には白いテーブルがあり、白い服を着た三人の男が座っている。三人とも黒縁の眼鏡を掛けており、頭を七三分けにしているから、三つ子のように見える。

 いや、表情が無い顔によって、マネキンが並んでいるようにすら見える。

 突然、左端の男が立ちあがり、感情がこもらない声を出した。


「学園都市世界アルカデミアへ、ようこそ」


 一語一語区切るように発声した男は、立ったままだ。

 俺は彼の前に行き、名前を告げた。


「俺の名前はシロー、パンゲアから来た。

 こちらは、コルナ、ミミ、ポルナレフだ」


「そちらの三人は、獣人ですね」


 俺は頭に茶色い布を巻いているが、彼らは頭に何もかぶっていないからケモミミが剥きだしだ。それ以前に尻尾しっぽがあるので、獣人なのは一目瞭然だ。


「ああ、そうだが」


「『獣人保護協会』の許可証は、お持ちですか?」


「ジュウジンホゴキョウカイ?」


「お持ちでないなら、獣人がこの世界に入るのは許可できません」


 獣人の三人が騒ぎだす前に、俺は質問をぶつけた。


「なぜだ?」


「この世界の法律で、そう決められています」


 感情の無い音声が、答えを返す。


「あなた、ちょっと待ちなさい」


 コルナの声が、割りこんだ。


「まず、渡航許可証と身分証明書を確認するのが先のはずよ」


 彼女は、落ちついている。


「確かに、規則ではそうなっています」


 今まで動かなかった、まん中の男が答える。

 俺は、背中の袋からマスケドニア王の渡航許可証と黒いギルド章を出した。一番右側の男がそれを受けとり、確認している。


「王族の方でしたか。

 では、こちらへ」


 男は後ろも見ずに、まっ白な壁に向かっていく。壁と見えたところが四角く開き、その奥へ入っていく。

 俺たちも、後を追った。


 白い廊下を少し歩くと、左側の壁に木目を強調した扉があった。

 周囲の無機質から完全に浮いた感じの扉を開くと、中は落ちついた調度を備えた広い部屋となっていた。奥にも木のドアがあるので、続き部屋になっているらしい。

 表情のない男が、部屋のまん中に置かれた大人数用の応接セットを指さした。


「こちらで、お待ちを」


 マネキン男はそう言うと、入ってきた扉から出ていった。

 俺たちは、ソファに座る。


『三人とも、聞こえるか』


「「「えっ!」」」


『声を出すな。

 この部屋は、盗聴されている』


『お兄ちゃん、これ何?』


『俺が使う、魔法の力だ』


『すごい!』

『かっこいい!』


 ミミとポルは、いつも通りのしまらない反応だ。


『コルナは、『獣人保護協会』のことを知ってたの?』


『ええ、噂だけはね。

 詳しいことは分かっていなかったけど、つれさられた獣人とも関係があるみたいなの』


『人体実験されてる獣人がいることを考えると、まず碌な団体じゃないな』


 その時、立派な口ひげを生やした、小柄で痩せた中年の男が入ってきた。黒いローブに房が垂れた帽子をかぶり、古めかしい格好は、まるで昔の学者みたいだ。


「私がここの責任者です。

 マウシーと申します」


「シローです。

 こちらは、コルナ、ミミ、ポルです」


 男は三人の方をちらっと見たが、それだけだった。


「では、改めて渡航許可証と身分証明書をお願いいたします」


 俺は国王からの許可証とギルド章を、もう一度出した。


「ん?

 ギルド章? 

 お前、冒険者か!」


 マウシーの態度が急に変わる。整えられた二枚の口ひげが、ぴょんと上にはねる。


「ええ、冒険者ですが。

 それがなにか?」


「しかも、鉄ランクじゃないか!

 銅ランク以上じゃないと、身分証明書にすらならんぞ!」


「あのー」

 

 俺が説明しようとするが、ヒゲのおじさんは聞いていない。


「誰だ? 

 こんなヤツらを、ここに通して!

 後でランクを下げてやる!」


 ランクを下げる?


「あのー、ここはギルドですか?」


「ふんっ!

 答えてやる必要はないが、まあいいか。

 ここは、アルカデミアの中央ギルドだ」


 男が、ふんぞり返る。


下郎げろう、よくそのギルド章を調べよ!」


 腹を立てたのか、コルナの口調が元に戻っている。


「獣人風情が! 

 なんだ、その口のきき方は!

 鉄ランクのギルド章を調べてどうする!」


「じゃから、よく見よ、と言うておる!」


「どこから見ても鉄ランクの……なっ、なにっ! 

 こ、これはっ!」


「やっと、気づいたようじゃな」


 マウシーは、俺のランクが鉄ランクでは無いのに気づいたらしい。

 鉄ランクのギルド章も黒っぽいからね。

 ちなみにギルドランクは、下から、鉄、銅、銀、金、黒鉄となっている。

 俺のランクは、黒鉄だ。


「くっ、黒鉄っ!!」


 彼は、とたんに床に額を擦りつけて平伏した。


「どうか、どうか、ご無礼をお許しください!」


 この男、短時間で、どんだけ態度変わるの。ま、見ている分には面白いけどね。


「どうする、シロー?

 お主が今あったことをギルド本部に連絡すれば、こやつはすぐにくびじゃ」


 まあ、そこまですることはないだろう。すでに、ちょっとイジワルしちゃってるし。

 ね、点ちゃん。


『(^ω^)ノ ういういー』


 面白い仕事だったから、ちょっと喜んでるな。結構、チカってる。


「ああ、マウシーさんだっけ。

 気にすることないよ。

 ところで、獣人は『獣人保護協会』の許可がいるってホント?」


「はいっ。

 許可がいります」


「どうやったら、それが取れるの?」


「通常、『保護者』が『獣人保護協会』まで出向いて許可をもらいます。

 この度は、王族様の上、黒鉄ランク様ということで、教会から人を派遣してもらいます」


「ふ~ん、分かった。

 早くしてね」


「はい、モチロンでございます」


 マウシーは、パッと立ち上がると、足早に廊下に出ていった。

 やはり、落とし物には気づかなかったか。


『(・ω・) ご主人様ー。これ、もらってもいい?』


 変なもの欲しがるね、点ちゃん。どうぞ、どうぞ。


『(≧▽≦) やったー!』


 激しくぴょんチカしてるな。

 しかし、点ちゃんは、こんなもの、どうするんだろう。


 マウシーが土下座していた場所には、立派な口ひげが片方残されていた。

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